2005年10月2日


 岩波現代文庫「鈴木大拙とは誰か」(上田閑照・岡村美穂子〔編〕)
によって、東洋思想の理想を表わすキーワードの一つではないかと
思われる「無心」という言葉を鈴木大拙が欧米に紹介するのに、「チ
ャイルドライクネス」という英語を当てていることを知りました。

 「チャイルドライクネス」とは「こどもらしさ」「無邪気」ということで、
「無心」を表わす英語としてなるほどと感じられます。

「無心の境地」というものが「こどもらしさの回復」であれば、ありうる
ことという気もしてきます。

 ただ一方では、「こどもらしさ」を「幼児性」と言ってしまえば、自省
の心がなく、欲望に振り回され、自分自身をコントロールできないと
いう否定的な意味合いもあるのではないかと思われます。

 よく読んでみたら、
「“childlikeness” has to be restored with long years 
of training in the art of self-forgetfulness」
(「無心」〔=こどもらしさ〕は永年にわたる「我を忘れる」修練によっ
て回復されねばならない)とされており、要するに大拙の言う「こども
らしさ」は大人になって、すなわち「幼児性」の克服の後に、再び獲
得されるべきものとしての「こどもらしさ」なのでした。