2007年1月13日

 詩人であり左翼活動家であった谷川雁(1923~1995)の小学校時代の経験として次のような話があります。谷川雁は熊本県の現水俣市の眼科病院の生まれですから小学校時代というのは水俣市でのことだと思われます。

 男の子たちから「きたない」といじめられている女の子がいたのだそうです。昭和初期のことですから「きたない」と言われるのは貧困ゆえのことだったでしょう。その女の子は男の子たちに対して次のように言い返したそうです。

 「北がなければ日本は三角」。

 何と立派な、堂々とした、知的な「言い返し」でしょう。谷川雁に強い印象を与えた、この「言い返し」は女の子がとっさに思いついた「言い返し」とは思えません。いずれかの場所で言われていたのを女の子が学んだ「言い返し」だと思われます。貧困であるとはいえ、いじめられた女の子が決して孤立していないこと、家族や集団に囲まれていることをこの「言い返し」は表わしていると思われます。女の子はこの「言い返し」によっていじめに敗北することを免れていると思われます。

 「いじめ対策」について現在種々の議論がなされていますが、我々は言葉の力を再認識し、いじめの言葉に対する「言い返し」の言葉を検討し、いじめられる子供たちに提供するべきなのではないでしょうか。