2007年11月8日

 NHK「ラジオ深夜便・こころの時代」で世田谷区教育委員会委員長那須秀康さんの話がありました。那須さんは住友商事社員として長い海外勤務経験があり、特に住友フランス社長をするなどフランス滞在が長く、かつそこで子育てをされた経験をお持ちとのことでした。興味ある話が数々あったのですが、もっとも関心を惹かれた話をひとつ披露しておきましょう。

 那須さんによれば、フランスの教育の目的と日本の教育の目的は、私の言葉使いになりますが、まったく正反対、180度違うというのです。フランスでの教育の目的は自立した個人を育てるということであり、自立した個人とは物事を考える能力を持つということであり、物事を考える能力を持つということは言葉に習熟しているということである、というのです。言葉に習熟し、それによって合理的に物事を考え、それを他者に伝える能力があって、初めてその人は自立した個人といえるというのです。そのために必要な最も基礎的な科目である国語(フランス語)教育は極めて充実し、膨大なボリュームで、かつ小学校低学年からでも相当高度な内容なのだそうです。

 それに対して日本の教育の目的は、社会の構成員として他の構成員に迷惑をかけない人になることであり、自立よりは同調、融和といった価値が強調されることになっているというのです。しかも、この場合、社会とはしばしば極めて限定された狭い社会でしかなく、狭い社会にしか通用しない原理原則が教育されるため、同調、融和の強調とあいまって、狭い社会への依存度が極めて高い人間が形成されてしまうというのです。

 フランス教育が目的とする「自立した個人」という言葉と日本教育が目的とする「他の構成員に迷惑をかけない人」という言葉で表わされる人間像はかなり重なり合う面を持ちつつ、一方が外に開かれている人間像であるのに対し、一方は内向き傾向を持つ人間像であるという本質的な違いがあるように思われます。那須さんの話に「眼からうろこ」でした。

 教育再生はこういうところからアプローチして議論を組み立ててほしいものです。

 なお、那須さんは世田谷区教育委員会委員長として彼の考え方に基づく実践にも取り組んでおられるようです。