2010年3月2日(出来たて)
「訴求」とは一見法律用語のようですが、マーケティングの用語です。辞書によれば、「広告や販売などで、消費者の購買意欲に働きかけること」とされています。「商品の魅力を訴求する」というような使われ方をします。言葉の意味と使われる漢字との、はなはだしい違和感のある例として取り上げました。
「訴え求める」という言葉はあります。しかし、その場合、目的語は「返済」「理解」「謝罪」といった相手の反応であり、その反応を「求める」のです。「商品の魅力」といった話し手側が提供するものは、話し手が「求める」ものではないので、目的語にはなじみません。にもかかわらず、「訴求」の対象に「新製品」「特産物」「価格の安さ」「安全安心」など、話し手(=供給サイド)の提供する事柄が登場します。「新製品を訴求する」「特産物を訴求する」「価格の安さを訴求する」「安全安心を訴求する」といった具合です。主語を「メーカーが」とし、動詞を「求める」に代えれば、意味が逆転してヘンな文になることが明らかでしょう。
「訴求」は誰かが考え出し、広く使われるようになった新造語だと思います。たぶんマーケティングの世界の人が「solicit」「solicitation」の訳語として考え出したのでしょう。バンクーバーの国母君の服装より、このヘンな訳語のほうを僕は放置しがたく思います。