2009年5月27日


 「米政策の終焉」とは米問題の我が国最高権威、東大名誉教授佐伯尚美先生の近著です。
 平成19年の参院選挙での民主党の大勝利は、都市型政党であったはずの民主党の、地方での大勝利によるものでした。
 その地方での大勝利の要因に「農業者戸別所得補償」という民主党の農業政策があり、これにあわてた自民党はこれまでの路線を抜本的に修正・変更するに至りました。
 この事態を先生は「米政策の終焉」と名付けておられるのです。

 自民党が修正・変更を余儀なくされたそれまでの路線はいかなるものであったのかと言いますと、旧食管制度に象徴されるコメの流通・価格への政府関与からの離脱、コメの生産調整(いわゆる減反政策)の実施主体の行政から生産者団体への転換という路線でした。
 この路線は、我が国稲作の体質強化、消費者選好の生産への反映、結果としてのコメ需要の継続的減少への歯止め、適地適作の推進といった展望を有していました。
 にもかかわらず、選挙対策によりこの路線が修正・変更を余儀なくされることにより、旧来の政府関与による農家丸抱えの時代へと逆行し、未来への展望を失うに至ったとして、先生は「米政策の終焉」という表現を採用されたのです。


これは民主党の政策も含めて言っておられることです。


 さて、問題は先生により「米政策」という名誉ある名称を与えられた従来の路線が、その名に値する明確な展望・目的意識を持った政策であったのかというところにあります。
 諸々の思惑が錯綜したものではありましたが、結果的集合意志としては、従来の路線は、外部からの諸圧力に抵抗するあたわず、日本の稲作の安楽死もやむを得ずという路線でしかなかったのではないかというところにあります。

 すなわち、WTO交渉における政策維持(主食たるコメの特別扱い)の困難性、財政再建の必要からの農業予算削減圧力、市場経済路線の跋扈による非市場経済主義的農政への批判、激しく高齢化し、劣化する農業の体質、小選挙区制採用による政治の都市化の進行等々により、極端な選挙への悪影響は回避しつつ米政策から撤退すること、その結果日本の稲作が安楽死することになってもかまわずというのが、今回修正・変更を余儀なくされた路線だったのではないかと考えられるのです。
 そういう意味では米政策はすでに早くから終焉方向にあったと言えるでしょう。
 民主党の大勝利以降の事態は、「米政策の終焉」ではなく、むしろ終焉を迎えつつあった米政策の一時的息の吹き返しということになると考えられます。

 それが一時的であるというのは、民主党の「農業者戸別所得補償」も、それに応じた自民党の政策変更も、農業、農政に対する国民世論の変化という背景はなく、政策を陰でコントロールする財界の態度変更もなく、従来の政策を変更する実体的背景を持たないまま、政党の選挙対策として打ち出されたものでしかないからです。
 真実を覆い隠した不正直な政策の下では正直者がバカを見ることになります。それは何度も繰り返された悲劇です。