2009年9月23日
鳩山首相が国連で宣言した温暖化効果ガス25%削減の影響について、GNP押し下げ効果がマイナス3.2%だとか、1世帯当たり年36万円の負担増だとかいう報道がありましたが、そういう問題が問題であることを否定はしませんが、そういうレベルの問題を超えて、温室効果ガス25%削減というのは、これからの社会を資本主義市場経済と呼ぶことに疑問を生じさせるような、今の経済体制を根本的に変える問題であると、僕は考えています。
資本主義市場経済の原理は、ある産業あるいは企業が社会に登場し、存続していくことの適不適を、その産業、企業が獲得できる利益率によって決定していくところにあります。温室効果ガス25%削減はこの原理を覆してしまう効果を持つと考えられるのです。
温室効果ガス25%削減を実現するために採用される主要な手段は、炭素税と排出権取引です。
炭素税(鳩山演説では地球温暖化対策税)は4年以内に導入すると小沢鋭仁環境相がすでに表明しています。炭素税は、その適用対象に違いはあるでしょうが、ガソリン税のようなもので、税率にもよりますが、温暖化効果ガスを発生させる燃料の消費抑制効果を期待するもので、それ自体が資本主義市場経済の原理を覆すというようなものではないでしょう。
大きな影響が考えられるのは排出権取引です。排出権取引導入も鳩山演説で明言されています。排出権取引は「キャップ&トレード」と呼ばれるように、まず、産業、企業ごとに温暖化効果ガスの排出権あるいは削減目標が割り当てられます(キャップ)。排出権以上にガスを排出する企業はどこかから排出権を購入してこなければなりません(購入してこないでガスを排出させた場合のペナルティがどんなことになるのか、現在のところ不明)。ガス発生を抑制し排出権が余った企業は余った排出権を売却することができます。ここに企業間での排出権の取引が発生します(トレード)。このトレードが一国内だけでなく、全世界的に行われることも想定されています。
まず、各企業への排出権の配分をどのようなルールで行うのかという問題があります。削減目標を巡って先進国と開発途上国で争われている問題が国内全産業間で発生します。さらに、新しい産業分野に排出権を与えるとすれば、その分の削減はどのように確保するのでしょうか?新しい産業分野はその排出権をすべて自ら購入しなければならないのでしょうか?一企業内で新商品の生産が開始される場合、ある部門の生産を拡大する場合も、同様な疑問が生じます。
温暖化効果ガス25%削減は技術的にもむずかしい目標だと言われており、そうであれば、排出権価格は相当な高額になることが予想されます。そうなれば、排出権の配分とその取引の制度は、当初の配分にもよりますが、産業分野の新陳代謝に対して抑制的に、現状固定的に機能すると予想されます。
そして、排出権取引によって排出権に価格が付くため、その高額な排出権を賄えるか賄えないかというかたちで産業、企業の社会への入退場が行われることになるので、利益率指標による産業、企業の入退場という資本主義市場経済の原理は表面的には維持されますが、事実上は政府から配給される排出権の枠、技術的削減可能性といった非市場的要素で産業、企業の運命が左右される社会となります。こうなりますと市場経済というよりは排出権配給経済と言ったほうが実態を表わしていることになると思われます。
それがいいことなのかどうか、それは地球温暖化問題をどのくらい深刻に認識しているかによって決まることでしょう。
(地球温暖化は温暖化効果ガス排出という人為的原因ではないという学者、これまでの温暖化傾向は終息し、今後はむしろ寒冷化に移行するという学者などがいて、僕は正直困っています。)