2009年10月24日


資本主義は、人間性を抑圧する2つの面から批判を受けてきました。
 批判の対象の一つは、言うまでもなく、資本主義がもたらす貧困、経済的不平等です。批判の対象のもう一つは、資本主義が成立するための社会的条件、すなわち社会秩序の維持、労働規律の確保のための管理社会化です。

 マルクス主義は、その思想の中に二つの批判を含んでいたとは思われますが、19世紀以来の極端な貧困を背景としていたため、貧困、経済的不平等を批判する思想として強く受け止められました。
 20世紀後半、経済的不平等は継続していたものの、先進国における絶対的貧困の解消、社会の総中流化により、そのようなマルクス主義の社会的影響力が弱まることになりました。
 そして、貧困、経済的不平等よりもむしろ管理社会の息苦しさ、非人間性を批判の対象とする諸思想が勢力を強めてきました。
 マルクス主義の中にもそのような動きが出てきましたし、実存主義とか文化人類学の隆盛もそのような動きの中に位置づけられると思います。

 しかし、その後、そのような管理社会化批判は二つの面から苦しい戦いを余儀なくされることになります。

 一つは、管理社会化批判の資本主義による取り込みです。
 すなわち、管理社会化による人間性の抑圧という問題があるのなら、その抑圧の解消という需要に対応した商品を供給しましょう、という動きが資本主義内部から発生してきたということです。エンタテイメント産業、コマーシャル産業といったものがその典型でしょう。
 例えば、文化人類学は「失われた世界の復権」というようなスローガンで、「現代」が失った深い人間性を「未開社会」から掘り出してくる努力を積み重ねてきました。しかし、掘り出してきた夢や無意識、非合理や反理性は社会にうまく取り込まれつつあるように思われます。

 もう一つは、批判の対象である管理社会化がうまくいかなくなってきたということです。批判の対象たる社会の管理が弱化してきてしまったのです。
 いわゆる社会的病理現象の頻発がそれであり、人々は管理社会化を批判するよりは、より管理の徹底を求める方向を向くようになっているのです。


 管理社会化批判の社会的影響力は明らかに弱くなっていると思われます。
 これからの反資本主義思想はどのような盛衰を示すでしょうか?
 それは、これまで批判を受けてきた人間性抑圧の二つの面に対し、これからの資本主義がどのように振る舞っていくかによって決まることになるでしょう。