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                       2008年10月11日


 景気循環において景気後退期、不況期はそれまでに形成された過剰生産力の整理が行われる時期であり、次の景気上昇期、好況期を迎えるために必要な準備期間であることは、経済学の基礎的知識となっています。そして、恐慌は過剰生産力の整理が爆発的、暴力的に行われる事態であり、その激越性によって通常の不況とは異なる大きな社会的影響をもたらすものということになります。

 さて、現在の経済危機が恐慌という事態に至るのか、強めの不況でとどまるのか、その点については不分明な状態ですが、サブプライムローンの不良債権化をきっかけにして発生した今回の事態の遠因が何処にあるのか、そのことを考えておくのは、今回の事態への対応を考える上で不可欠なことだと思われます。

 表面的現象としては今回の事態のきっかけとしてサブプライムローンの不良債権化がありました。それではサブプライムローン問題は何故発生したのでしょうか?何故、サブプライムローンという高金利ではあるがリスクの大きい、危ない商品に世界の金融機関は手を出したのでしょうか?

 いうまでもなく、それは世界的な過剰流動性(カネ余り)の存在が背景になっています。過剰流動性が少しでも収益性の高い投資先を求めて世界をさまよっていたのであり、そこでぶつかったのがアメリカのサブプライムローンだったのです。

 では、何故世界的な過剰流動性の存在があったのでしょうか?

 先進諸国における諸産業、諸企業は一般的不調状態に陥っていました。じわじわと崩壊の危機に向かっていたのです。極端な崩壊を社会は到底受容できません。このため先進諸国は経済対策として金融緩和、低金利政策を採って不調状態の緩和を図ってきていたのです。過剰流動性はその結果発生しました。

 それでは、何故先進諸国における諸産業、諸企業は一般的不調に陥っていたのでしょうか?

 それは、それまで先進諸国の諸産業、諸企業が圧倒的優勢であった世界の資本主義マーケットに新たな勢力が参入してきたことによってもたらされた事態です。すなわち、ロシアをはじめとする旧社会主義東欧諸国、中国、インド、ブラジルなどの新興国の進出です。その結果による原油をはじめとした1次産品の価格高騰もあり、先進諸国の諸産業、諸企業はその相対的競争力を低下させ、一般的不調が発生したのです。 

 要するに、現在、マーケットへの新興勢力の参入により世界は過剰生産力状態に陥っているのであり、その整理、淘汰が行われなければならない状態にあります。その整理、淘汰がサブプライムローン問題というきっかけによって、それまでよりもやや過激な状態で実行されているというのが現在の経済危機の本質的内容なのです。

 したがって、過剰生産力の整理、淘汰が完了するまで、現在の経済危機からの根本的脱却はないと考えなければなりません。そして、それは世界の産業構造、分業体制の大きな再編成が行われるということを意味します。

 現在の経済危機の本質をとらえずして場当たり的に行われる経済対策は、その効果がないわけではありませんが、所詮重病人に水を飲ませる程度のことにとどまり、病そのものを治療することにはなりえないと思われます。世界の産業構造、分業体制の中でどのような役割を日本は担っていくのか、そのような構想の下での経済政策が樹立されなければなりません。