何もかも大体の原因はペルリの野郎が悪いんだ。

と嫌そうな顔で溜め息混じりに勝は言葉を始めた。

余程苦労をさせられたのだろうか胡坐をかき脇息に肘を付きグッタリと顎を支えた右手に寄りかかった顔は腹痛を堪える様に似ていた。

「メリケンの大統領はオイラ達と交流をしてえだけだったんだがよ。ペルリの馬鹿野郎がよ」

と言いうと同時にけっと言い続けた。

「こっちを下手に見やがって何かってえと大砲の準備はあるだの戦争起こすだの言いやがるからよ。完全に馬鹿にされちまってるって若い野郎がいきり立つのも当たり前ってもんだ」

に対して三十郎はそいつはそうだなと応える。

「大体よう、こっちの準備もあるから停泊する所変えてくれって事ですら向こうが面倒なだけで戦争だぜ?船動かすより戦争の方が面倒じゃねえかよ」

雨上がりの匂いを乗せた風が部屋に流れ込んできて気持ちが少し安らいだのか勝の顔が少し緩み、そのまま続けた。

「そんな状態で結んだ日米親和条約だからよこの国が異国人に踏み荒らされて売り渡されたと思われたって訳だ」

そこまで聞いた三十郎は少し考えてから、そいつはいけねえなと呟く。

そして三十郎は「このままだとその異国人ども若い侍に斬られちまうだろうな。そしたら本当に戦争になるぜ」

だろうねえと勝は応え「その内重臣も襲われちまうだろうね。実際オイラもやられる所だったしね」

に続き確かになと三十郎は軽く笑った。

ああ、いやだいやだ。とうんざりしたまま勝は障子を開けて行く

昨晩の大雨が過ぎ晴れた日中は蒸してうんざりする暑さになっていた。たまに入って来る風は心地よいが空気を換えないとジメジメとしすぎて気持ちもつられてしまう。

夏の蝉が一生懸命に鳴り響いて蒸し暑さの鬱陶しさを余計に演出している。

鬱陶しいぜ、どうだ三十郎殿何処か出かけねえか?と勝が言うと三十郎はおいおいおいおいと呆れた顔をした

「勝さんよアンタ昨日斬られかけたんだぜ?そんな気軽に出かけようって豪気過ぎやしねえかよ」

と言う三十郎に勝は思わずはははははと笑いながら言った。

「だからお前さんに付いて来て貰うんじゃねぇか。どうだい三十郎さんオイラに雇われてみねえか?」

と言われた三十郎はほれ来たぜと思いチッと一つ舌打ちをした

「俺はお家のゴタゴタは勘弁してくれって言ったんだがよ。どうやらお前さん気に入っちまったぜ。仕方ねえ。引き受けてやんぜ」

と三十郎は刀を掴み立ち上がり続けて言った。

「ただし俺は勝さんアンタが気に入った。幕臣じゃなくてアンタだからだ。だからアンタは勝さんで俺は三十郎。それで頼むぜ」

それを聞いた勝はまた笑いながらすぐさま応えた

「勿論さ。こちらこそ、そっちで頼むオイラは勝でアンタは三十郎だ。それが一番気持ちいいぜ」

 

蒸した空気はうざったいが雲は無く良い天気だった。

今の情勢もこれだけスッキリ晴れてくれたら気持ちよくなるのにと見上げながら思った。

それにしても蒸し暑い。

ああ、いやだいやだと大きな声で続けた。