旅立ち


猫の姿のまま半月が過ぎた

でもまだ言葉はわかるし
話しも出来ている
立って動く事もできるので生活するには今までと変わらない
食材などは電話やスマホで注文して配達してくれるので何とかなっている
外出が出来ないだけだ

それもいつまでのことだろう
四つ足で歩くことになるんだろうな

窓から見える景色は
全てが輝いている

ふと父親のことを思った
母と美鈴を捨てて出て行った父親

元気でいるのかな
亡くなったかな
あの世でお母さんと会っているのかな

縁のある人たちの顔も風景の中に浮かんで見えた


それから数日後
美鈴は完全に猫になった

完全に猫になってから
美鈴は朝と夕方に外に出てみることにした
視界が全く違う
初めは戸惑ったが少しずつ慣れてきた
人の目も気にしなくてもいい
ルールも何にも気にしない
猫界にはルールはあるかもしれないけど
猫も悪くないと思うようになってきた

3月も終わろうとする日曜の昼下がり
公園のベンチでウトウトしていると
懐かし匂いが近付いてきた

顔をあげると
いつか公園で見かけた黒猫だ
ベンチに向かって歩いてきた

和磨の匂いだ…
和磨は近くにいるのだろうか?
和磨が飼っている猫なのだろうか?

黒猫はチラッと美鈴を見たが、そのまま通り過ぎた

和磨…

呼んでみた

黒猫はビクッとした様子で立ち止まり
美鈴を見たがすぐに前を向き去って行った

わたしの声が聞こえた?
でも違うみたいね。
和磨まで猫になっているわけはないし

今日は黒猫を追いかけなかった
今はウトウトとおひさまの温もりを感じていたい


決意

美鈴は
行ってみたい場所があった。
賭けだ。
友達に大阪のトラックドライバーがいた
もう1年ほど連絡していない
こちらの仕事が減っているようで会えることもなくなっていた。
もう来ないのかな。

急に気になりだす
メールしてみようかな
見てくれないかな。

そう。
美鈴は姿は完全に猫にはなったが
人間の言葉はわかる。
タブレットなど操作もできていた

でもだめだな。
連絡はやめておこう

友達は来ていなくても友達の会社のトラックは来ているようだ。

行ってみよう。

美鈴は意を決して
友達が立ち寄るコンビニの駐車場へ行ってみることにした。
しかし猫の足では遠すぎる
どうやって行こか考えた

13章へ続く