デリーメトロが急速に延伸し、従来からある国鉄の通勤電車と合わせインドの首都デリーの鉄道網はどのくらいの規模があるのだろうか? 我が国の首都東京と比較しながら見てきたいと思います。

 

総延長世界第5位のインドの鉄道網でですが、主力である国鉄は中長距離の旅客・貨物輸送が中心で、通勤・通学に使うような列車は、デリー、ムンバイ、ハイデラバード、チェンナイ、コルカタの5都市を除いてほとんど走っていない。また、東急、近鉄など日本ではおなじみのいわゆる私鉄(民鉄)は存在しないという特徴があります。

 

インドにおいては、近距離輸送は長く、バス、オートリクシャーといった道路交通によって行われていたが、2002年にデリーメトロ・レッドラインが部分開業して以来、新しい都市交通の主力としてメトロの建設デリーをはじめ各地で進められています。

 

本編では

デリー首都圏(NCR)の通勤鉄道

デリー首都圏(NCR)と東京の鉄道網の比較

デリー首都圏(NCR)と東京の通勤電車を比較する(かなり主観です)

についてみていきたいと思います。

 

<デリー首都圏(NCR)の通勤鉄道>

デリーの通勤輸送はインド国鉄の通勤電車とデリーメトロの大きく2つに分けられます。

 インド国鉄の通勤電車

Delhi Suburban Railway と言われる郊外電車で、中長距離の旅客・貨物と同じ線路を走るが、全席自由席の普通電車で気軽に利用できるサービスです。首都デリーを中心に、衛星都市のファリダバード、ガジヤバード、パニパット、レワリといった周辺の衛星都市を結んでおり、またデリー市内を環状線のように走る列車もあります。

しかし、ムンバイやチェンナイなど他都市と異なり、ファリダバード方面以外は長距離列車と線路が分かれてないため、線路容量が少なく、各方面に30分から1時間間隔で来るという気軽に利用するには本数が少ない。

それでも朝夕のラッシュ時には多くの乗客に利用されています。

 車両はEMUと言われる電車で3両1ユニットが4本つながって12両編成、うち2両が女性専用車となっている。ドアは無く安全面の懸念も大きい。

インド国鉄の通勤電車

 

 デリーメトロ

インドでは1960年代から都市人口の増大にともなう交通改善が叫ばれていたものの、政治は民主主義、経済は社会主義という独特な統治体制を取っていたインドでは、官僚的な政治によって経済政策が一向に進まず、本格的に建設が始まったのは90年代後半からで、日本のODAも受けることにより、2002年の第1期のレッドラインのShahdara-Tis Hazari間8.3㎞が開通しました。

その後毎年のように路線が伸びて、現在は9路線、総延長347㎞となっています。

デリーメトロの高架駅

 

 

<デリー首都圏(NCR)と東京の鉄道網の比較>

デリー首都圏(NCR)と日本の首都であり最大の都市である東京を通勤電車、さらに交通事情について考えてみたいと思います。

まずは基本情報です。

 

人口

デリー:1678万人、デリー首都圏(NCR)4607万人

東京都:1396万人、一都三県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)3682万人

※NCRはデリー準州とハリヤナ州、ウッタプラデッシュ州、ラジャスタン州でデリーに隣接して関係の深い地域(グルガオン、ファリダバード、ノイダ、アルワルなど)を合わせた地域

 

デリーの方が人口が多いが、両社とも世界有数の巨大都市と言えます。とくにNCRの人口はスペインの総人口4670万人にも匹敵して、いかにインドが人口大国かわかりますね。

 

通勤電車路線網

デリーNCR

Delhi Suburban Railway:250㎞

(明確な定義は無いが、通勤電車らしき車両が運行されている、Palwal, Gaziabad, Rewari, Panipat までの路線で計算した)

メトロ389㎞

(デリーメトロ:347㎞、ノイダメトロ:30km、グルガオン・ラピッドメトログルガオン:12km)

合計639㎞

 

東京(一都三県)

JR:1385km

地下鉄:348km

私鉄:1326km

モノレール等:118km

路面電車:17km

合計3194km

 

デリーメトロ(および周辺のメトロも含め)は2002年に8.3㎞が開業してから、わずか20年あまりの間に400㎞近い路線網を伸ばすに至り、現在も路線の延長、新規路線の建設計画があります。まさに発展途上ですね。

 

一方、東京圏(どこまでを東京圏と呼ぶかは議論が分かれますが、本編では東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県としました)については、今からおよそ150年前の1872年に日本初の鉄道が開通して以来、1930年代までに国鉄(現JR)の路線網はほぼ固まり、同時並行で日本独特の経営スタイルである民営鉄道(私鉄)が東京中心から郊外へ向けて建設され、戦後の高度成長期には住都公団(現UR)によるニュータウン開発とそれに付随した鉄道建設もあり、さらに都心部には国と東京都の出資による営団地下鉄(現東京メトロ)や都営による地下鉄網が伸びていきます。

東京は100年以上の歴史を掛けて、戦争中の中断を除いて、一貫して鉄道網を整備してきたことが分かります。

こうした歴史の重みから、総延長だけを見ても東京の鉄道網の凄さは圧倒的と言えるでしょう。

 

<デリー首都圏(NCR)と東京の通勤電車を比較する(かなり主観です)>

路線延長の差以外にも、以下のような差異があると思われます。

・JR,私鉄、近年では地下鉄やモノレールまで、普通(各駅停車)の他に、快速、急行、特急といった列車種別があり、さらに主要駅で緩急(各駅停車と優等列車)が接続することで、広範囲に速達輸送を提供しています。

・JR、私鉄の多くの路線で地下鉄と直通運転をしており、都心部と郊外をスムースに結んでいます。

・複々線化工事や駅の改良により輸送力の増強が図られています。

・私鉄のロマンスカー、JRの通勤用特急のように追加料金を払うことでラッシュ時でも着席保証できるサービスがある。新幹線の通勤利用もあります。

・JR、私鉄、地下鉄に加え、バスやモノレールも利用可能なSuica、PASMOといったICカードサービスがあり、モバイルSuicaと言われる携帯電話アプリによるサービスもある。また、交通機関に限らずコンビニエンスストアなども利用できます。

など鉄道そのもののサービスでも多くの特色があるうえ、駅ナカ、鉄道と提携したクレカ、駅前保育園、系列ホテルや観光施設を利用した各種イベント、企画など、研究するだけで本が何冊も書けるくらい奥が深い

東京、というより日本の大都市の鉄道事業者は、世界でもトップレベルの安全・定時性・利便性の高い輸送はもとより、鉄道や交通という枠を超えてあらゆる面から地域住民へのサービスを提供している。

 

一方デリーNCRについては

・デリーメトロは最初の区間の開業からわずか20年弱で東京メトロを越える路線網を誇るまでに急成長している!

・国鉄線については、複々線区間が少なく、長距離列車、貨物列車と線路を共用するため、本数が少ない。

・行政区分がデリー準州、ハリヤナ州グルガオン、およびファリダバード、ウッタプラデッシュ州ノイダと複数に分かれるため、メトロネットワークが分断してしまっている。(デリーメトロ、ノイダメトロ、ラピッドメトロ)

・国鉄のメトロの連携の無さ、メトロ同士でも乗り換えが不便な駅の作り、輸送力増強に追われ、優等列車の運転など利便性向上策はほとんどない。

デリーというよりインド各地でメトロの建設が進む、国土が広く人口の多いインドは、数年後には同じく人口大国の中国と肩を並べるくらいのメトロ立国になると思われる。

しかし、他の新興国と同様、輸送サービスの面ではまだまだ発展途上であり、今後はいかに利用しやすい通勤電車にするか、ダイヤ・設備の増強・改善はもとより、周辺サービスなどまだまだ発展の余地がある。

 

日本のODAは巨大資本をようする鉄道というインフラ整備を資金面から、鉄道運営の立ち上げを技術面から支援してきました。

今後は、官ではなく民の力で、鉄道を軸とした総合サービスへ事業への転換を支援し、都市のさらなる発展を後押しすることが出来るのではないだろうかと思います。

 

 

参考サイト