インドでは国策によりインド主要都市を網羅する広域な貨物専用鉄道の建設が進んでいます。
今回は、
・貨物回廊建設の背景とは
・どこを走るのか?
・貨物回廊のスペックはどんなものか?
を解説します。
<背景>
インドは90年代に社会主義経済から市場経済への転換を進めていくにつれ経済成長が始まり、2000年代に入るとBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と言われるようになり、世界経済のけん引役ともいわれてきました。
そのため、国内の物流量も右肩上がりで増え続け、鉄道貨物輸送も2000年代に入ると毎年10-15%も伸びていました。同時に旅客数も増加、そもそも人口も増えているので今後も長期にわたり旅客・貨物とも伸びが見込まれます。
そこで、速度の旅客と貨物の線路を分けることにより、輸送力増強とスピードアップを行うことになりました。
2005年の小泉首相インド訪問から本格的な日印協議が始まり、2008年にシン首相が訪日の際、麻生首相が円借款を提供することが発表されました。ちなみに、円借款とは日本が途上国にインフラ整備など支援のためのお金を「貸す」ことです。貸すと言っても超低金利の長期ローンであり、民間金融機関では出来ない大型案件や有利な条件で行うことが出来ます。
また、民間レベルでも土木・建設をはじめ、信号システムなどで多くの日本企業が参加しています。
<具体的な計画>
インド全土に6路線、総延長約9500㎞にもおよぶ貨物専用鉄道になります。
ttps://dfccil.com/home/corridor から引用
全6路線のうち
現在建設中
西回廊(赤線 DADRI-MUMBAI):首都デリー近郊と西部最大都市で貿易港のムンバイまで
東回廊(赤線 LUDHIANA-DANKUNI):首都の北側にあるパンジャブ州の工業都市LUDHIANAから首都デリー周辺を迂回して東部の主要都市コルカタに至ります。
計画中
東西回廊(緑線 MUMBAI-ANDAL):東部最大都市ムンバイと西部最大都市コルカタを結ぶ横の動脈
南北回廊(青線および青点線 DELHI-CHENNAI):首都デリーと南部最大都市で貿易港のチェンナイを結ぶ
東海岸回廊(紫線 KHARAGPUR-VIJAYAWADA):インド東海岸をコルカタとヴィジャヤワダを結び南北回廊に乗り入れてチェンナイに至る
南海岸回廊は(ピンク点線 CHENNAI-MADGAON):マハラシュトラ州南部の港町マンガロール、およびリゾート地ゴアとチェンナイを結ぶ。構想中であり建設時期については不透明
上記区間は現在でも旅客・貨物ともに混雑している区間であり、多数の長距離急行列車が運行されています。(デリー-ムンバイ間で30-35本の急行列車が運行など)
輸送力増強のために新線を作ると言うと、日本では新幹線の建設を思い浮かぶ人が多いと思われます。インドの場合は逆で、貨物列車を専用新線に移すことになります。
昭和30年代、東海道本線が旅客・貨物の増加に追い付かなくなった時、輸送力を増強する目的もあって東海道新幹線が建設されました。
日本は高速の旅客列車(新幹線)を作ることで、既存の線路(在来線)に余裕を持たせ、そこへ貨物列車や普通列車が走るようになりました。
同じように輸送力がひっ迫しているインドでは、貨物専用鉄道で貨物部門のスピードアップ、輸送力増強にフォーカスします。
日本では、東京-大阪間をはじめ新幹線のメリットが出しやすい距離に大都市が点在してますが、国土が広く主要都市間が1000㎞以上あるインドでは、都市間旅客輸送は航空シフトが進むと思われるので、むしろ鉄道のメリットが発揮されやすい貨物輸送に重点が置かれているからと思われます。(実際、インドでは100以上の空港建設計画があります)
<主要諸元の比較>
貨物回廊の線路は、従来の在来線より多くの貨物を運べるように出来ています。参考までに日本の貨物列車も比べてみます。
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インドはもともとレールの幅が広く、日本より車幅・車高ともやや大きく、さらに長編成の貨物列車(50両編成程度の貨車)が走っていましたが、貨物回廊はこれを上回る、長く、重く、速い貨車を走らせることが出来ます。さらに、西回廊(デリー-ムンバイ間)では、海上コンテナを2段積みで運行することが出来ます。
一方、架線電圧、レール幅は在来線と同じなので、既存の機関車・貨車が直通することもできます。(2段積みコンテナを除く)
次回は、部分開業した西回廊と建設中の東回廊について、詳しく見ていきたいと思います。
その2