ハンガリーに伝わる民話に「勇者ヤーノシュと黒龍フェルニゲシュ」というものがあります。
主人公のヤーノシュが、黒龍にさらわれてしまった王女を助けるお話。
そのお話を読んでいると、
思わず声に出して「ああ、これめっちゃ好き」って言っちゃたほどの面白い部分がありました。
―前半省略―
色々あって黒龍フェルニゲシュの根城に王女を助けに来たヤーノシュ。
黒龍が留守のうちに、王女を馬で連れ出す事に成功しました。
やがて黒龍が帰宅すると、なにやら自分の馬が騒がしい。
黒龍は厩に赴き、馬に尋ねます。
「どうした? ノミでもたかったか? 食い物や飲み物が足りんのか?
それとも、俺様の美しい妻がいなくなったのか?」
「食べ物も飲み物も十分です。ですが、奥さまはいません。連れ去られました」
「食事の後でも、間に合うか?」
「食べて飲んでも、大丈夫。葉巻をどっさり燻らし、落花生をどっさり噛み砕き、
一寝入りしても大丈夫。私と一緒なら追いつけます」
黒龍と馬の暢気なやりとりが、彼らの余裕を表しているようで、
なんだか悪役としての風格を感じさせます。
黒龍は馬の言うとおり、ゆっくりと食事と食後の時間を堪能した後、
その馬に乗ってヤーノシュを追いかけました。
たちまち追いついた黒龍は、王女を奪い返してヤーノシュに警告します。
「今回は助けてやる、だが二度と同じ真似はしない事だ!」
ヤーノシュは落胆して帰っていきました。
後日、ヤーノシュは再び龍の留守を狙って王女を助け出しました。
前よりも良い馬を従えて。
黒龍が帰宅すると、また馬が騒がしい事に気づきます。
「どうした? ノミでもたかったか? 食い物や飲み物が足りんのか?
それとも、俺様の美しい妻がいなくなったのか?」
「食べ物も飲み物も十分です。ですが、奥さまはいません。連れ去られました」
「食事の後でも、間に合うか?」
「食べて飲んでも、大丈夫。葉巻を2度どっさり燻らし、落花生を2度どっさり噛み砕き、
二寝入りしても大丈夫。私と一緒なら追いつけます」
黒龍は、今度は食事や食後の時間をとるのもほどほどにした後、
その馬に乗ってヤーノシュを追いかけました。
馬が1回目の奪還よりもっとゆっくりしても大丈夫と、余裕の発言。
ところが、ここで黒龍は若干慌てている感じ。
どっちにせよ暢気に食事をとってはいる訳ですが。
結局また王女は奪い返されてしまい、ヤーノシュは3度目の挑戦を仕掛けます。
同じやりとりを行いますが、
今度は馬は「葉巻も落花生も寝入るのも3度してもOK」とかなりの余裕。
ですが黒龍は更に焦っていて、今度は何はともあれ急いで馬に乗って追いかけます。
余裕綽々な馬と、逆にどんどん焦っていく黒龍の対比が面白い。
ヤーノシュに追いついた黒龍は、今度は彼を八つ裂きにしてこらしめます。
手持ちの馬がいなくなってしまったヤーノシュは、良い馬を求めて旅立ちます。
またここで色々あるんですが、省略。
最高の馬を手に入れたヤーノシュは、再び黒龍の城へ赴き4度目の挑戦。
馬の騒がしさを聞きつけて、黒龍が厩を訪れました。
「どうした? ノミでもたかったか? 食い物や飲み物が足りんのか?
それとも、俺様の美しい妻がいなくなったのか?」
「食べ物も飲み物も十分です。ですが、奥さまはいません。連れ去られました」
「食事の後でも、間に合うか?」
「いくら食べて飲んでも、大丈夫。永遠に眠っていても大丈夫」
4度目はもう永遠ときたか。
さすがにワンパターンだなーと思いましたが、次の一言でやられました。
「だって、どう急いでももはや追いつきませんから」
今まで余裕を貫いてきて、回を重ねるごとにその余裕度が増えていった黒龍の馬。
4度目も相変わらずの余裕だな……と思わせて、実は諦めての発言だったという裏返し。
このあと、ヤーノシュと黒龍フェルニゲシュの最終決戦へと話が進んでいきます。
民話ながら素晴らしい展開。
むしろ、民話だからこそ、かもしれない。
「3匹のこぶた」も、ワラの家、木の家と吹き飛ばされて、最後にレンガの家で耐えるという
3回同じ事を繰り返しています。
繰り返しは下手をすればマンネリ化を招きますが、うまく利用する事で話が面白くなる。
うまいこと身につけたいものです。
このお話が載っている本は絶版だったので、Amazonで中古品を注文しましたが、買ってよかった。
一緒に買ったユーゴスラビアの民話1、2も読むのが楽しみです。
【[恒文社版]ハンガリーの民話 池田雅之/岩崎鋭子/粂栄美子 共訳編】
「勇者ヤーノシュと黒龍フェルニゲシュ」より