「そもそも島に進化あり」 | ちび子

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2013年に噴火で誕生した小笠原諸島西之島沖の小島はあっという間に西之島と合体して拡大し、2023年には元々の西之島をほぼほぼ呑みこんでしまった様だ。同年9月に行われた現地調査で、噴火以前から西之島で営巣していたカツオドリの減少が確認された。この調査には著者である川上和人が参加している。

   

「そもそも島に進化あり」川上和人著である。鳥類学者である。国立の森林総合研究所のエライ人である。「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」等の著者でもある。今回は『島』について語りつくしている。島の誕生からどの様に植物、動物が定着するか、どの様に動物達が進化するかの話だ。真面目な話なんだが、どうも著者自身は気持ちがあっちこっちにすっ飛んでるようで、進化学における説明では「ポケモンの世界ではピチューがピカチュウに進化する。しかし生物学者から見ればピカチュウは「成長」であって進化ではない」とか「多種多様なモビルスーツを開発したジオン公国では、たとえギャンが失われようとも戦局に影響はない」とか、例になってるのかなっていないのか、判る奴にしか判らない例がこれでもかと続き、真面目な「島の進化」の話を読みたいと思った奴の口を塞ぐ。勿論、俺はそんな文体が大のお気に入りなので文句どころかもっとやれと称賛している。

常々思う事なんだが、西之島の様に孤立した島の生態系の推移では、徹底的に人間を排除する事から研究が始まる。だが実際地球に人間がはびこっているのは事実で、それも一つの自然と考えれば前人未到の新西之島にふらっと人間が入植してそこに玉ねぎを植えて野生化させても、それも大きな意味でやっぱり自然なんじゃなかろうか。人間が干渉しなければきっとこうなるというのもとても大切な研究なんだろうけど、人間が干渉しない自然なんてもう殆ど残っちゃいないだろ? 最古の人間とされるサヘラントロプス・チャデンシスだって絶滅したって話だし、いつホモ・サピエンスが絶滅するかも判らないんだから、でっかい地球から見たらちっさな人間が何したって大した事にはならない気がするんだが。(温室効果ガス排出による人為的な気候変動の事は俺も憂慮しているが、この話とは別だと思っている)

何にせよ、こいつぁ面白い一冊なのだ。ニヤニヤ笑いながら学術的な知識(例えそれが専門的な知識のほんの一欠片に満たないとしても)が得られりゃ万々歳だ。

それ以前に、川上和人は面白い物書きだって事だな。