「まさか自分が」と思っている人が、最も騙されやすい。

結婚詐欺の被害者に共通するのは、真剣だったということだ。真剣だから信じた。信じたから、おかしいと感じても立ち止まれなかった。実例を知ることで、その「おかしい」に早めに気づけるようになる。

 

実例①:英国在住の韓国人を名乗る男からの送金要求

警察庁SOS47の公式事例に掲載されているケースだ。

40代の女性Bさんは、SNSを通じて英国在住の韓国人と名乗る男性Cと知り合った。メッセージのやりとりを重ねる中で親密になり、実際に会ったことがないにもかかわらず結婚を約束した。1

 

その後、CからSNSで「仕事で必要な金を立て替えてくれないか。立て替えてくれないと契約違反で警察に捕まって刑務所に入ることになる」という連絡が来た。BさんはCを信じ、指定された口座に複数回振込みをした。振り込んだ後に連絡が途絶え、Cのすべての情報が虚偽だったことが後に判明した。
 

この事例から学べること 実際に会ったことのない相手と「結婚を約束」した状態でも、金銭要求は詐欺のサインだ。どれほど感情的な関係が築かれていても、会ったことのない相手への送金は行わない。「刑務所に入ることになる」という緊急性を装う言葉は、判断を急かすための典型的な手口だ。

 

実例②:FX投資に誘導されて約1億5,000万円を送金

同じく警察庁SOS47の事例だ。

マッチングアプリを通じて知り合った為替アナリストを自称する女性から「恋人になって一緒に暮らすためのお金を稼ぎたい」としてFX投資を勧められた男性が、指定口座に現金を振り込み、約1億5,000万円をだまし取られた。
 

この事例から学べること 「2人の将来のために」という文脈での投資・副業の勧誘は、ロマンス詐欺の中で最も被害額が大きくなるパターンだ。警察庁の統計によれば、2024年のロマンス詐欺被害のうち8割以上が投資を口実にした送金だった。「あなただけに教える特別な情報」という言葉が出た時点で疑ってほしい。

 

実例③:タイ・ミャンマー国境地帯からの接触

外務省海外安全情報(2025年)に掲載されている手口だ。

最近の国際結婚詐欺では「タイ・ミャンマー国境付近の特殊詐欺拠点から抜け出すための費用が必要」という手口が出てきている。詐欺師が「自分も被害者」を演じることで、相手の同情心に訴えかける。外務省はこの手口について直接注意喚起を発出している。

この事例から学べること 「自分も困っている」という被害者ポジションを演じる手口は、相手の同情心を利用する高度な操作だ。感情的に「助けてあげたい」と思う気持ちが先に動くと、論理的な判断が後回しになる。

 

実例④:被害回復詐欺による二次被害

国民生活センターが継続的に注意喚起を行っているパターンだ。

国際ロマンス詐欺の被害を受けた後、「被害金を回収できる」と名乗り出る業者から連絡が来て、着手金を支払わせられたものの手続きが進まず、弁護士事務所とトラブルになるケースが多発している。

 

この事例から学べること 一度被害を受けると「取り戻したい」という心理を利用した二次詐欺が来る。被害回復を謳う業者には応じない。相談する場合は法テラスなど公的機関を利用する。

 

4つの実例に共通するパターン

事例を並べると、国際結婚詐欺に共通する構造が見えてくる。

【1】実際に会わないまま感情を育てる 4つすべての事例で、直接会うことなくオンラインのみでやりとりが続いている。会わないことは詐欺師にとって安全だが、被害者にとっては「本物かどうか」を確認できない状態だ。
 

【2】結婚・将来という文脈で信頼を深める 「2人の将来のために」「一緒に暮らすために」という言葉は、被害者の感情と金銭要求を結びつけるための言葉だ。結婚という人生の決断を前提にした関係性では、相手への信頼が深くなりやすい。
 

【3】緊急性・特別感・同情心で判断を急かす 「今すぐ必要」「あなただけ」「私も困っている」。これらはすべて、冷静な判断を妨げるための言葉だ。
 

【4】送金後に連絡が途絶える 最終的には送金後に連絡が取れなくなる。一度送金した後に「もっと必要」という要求が続くケースもある。
 

マッチングアプリの本人確認の現状

これらの事例は、本人確認の仕組みがある婚活・恋活アプリを通じて起きている。電話番号認証・セルフィー照合・AIによる不審行動の検出。これらは現在多くのアプリが実装しているが、それでも被害は減っていない。
 

理由は構造的なものだ。既存の本人確認は「このアカウントが怪しい行動をしているか」を確率的に判定するアプローチで、「このアカウントの背後に実在する固有の人間がいるか」を直接確認するものではない。時間をかけて慎重に行動する詐欺師は、これらの確認を通過できてしまう。
 

こうした背景を調べていたとき、Tinderがproof of human(人間であることの証明)の仕組みをパイロット導入したという話を知った。World IDという仕組みで、Orb認証を完了したユーザーのプロフィールに「ヒューマンバッジ」が表示される。1人の人間に1つのみ発行される設計なので、同じ人間が複数のアカウントにバッジを付けることはできない。
 

ただ、これは「詐欺を防ぐ」というより「実在する固有の人間のアカウントかどうかを確認できる」という機能だ。バッジがついていても、その人が誠実かどうかは別の話だし、バッジがない相手が全員詐欺師でもない。あくまで確認の一材料という位置づけだ。TinderとWorld IDの連携の詳細についてはTinderとZoomがWorld IDを導入した理由でまとめている。
 

自分を守るための行動指針

金銭要求が出た時点で立ち止まる 理由がどれほど説得力があっても、会ったことのない相手への送金は行わない。結婚を前提にした関係でも、感情を判断に持ち込まない。
 

第三者に相談する 家族や友人に「この相手どう思う?」と話してみる。感情的に距離が近い状態では気づけないことを、第三者は指摘できる。
 

公的窓口を早めに使う 消費者ホットライン(188)警察相談専用電話(#9110)国民生活センターのいずれかに、おかしいと思った時点で相談する。送金してしまった後でも、早ければ早いほど対処できる可能性が上がる。
 

被害回復業者には応じない 「被害金を取り戻せる」という業者には絶対に応じない。二次被害の入口だ。
 

まとめ

  • 実例に共通するのは「会わないまま感情を育てる・結婚という文脈・緊急性・送金後の失踪」という4段階の構造
  • 投資を口実にしたケースが被害全体の8割以上を占めており、「2人の将来のために」という言葉には特に注意が必要
  • 外務省が注意喚起を出しているように、「自分も被害者」を演じる手口も増加している
  • 現在のマッチングアプリの本人確認には構造的な限界があり、慎重に行動する詐欺師は確認を通過できてしまう
  • 金銭要求が出た時点で止まること、第三者への相談、公的窓口の早期活用が最も現実的な対策
     

よくある質問

会ったことのない相手と結婚を約束するのはおかしいことか

おかしいとは言い切れないが、会ったことのない相手に金銭的な要求が来た場合は、その関係性を詐欺の視点で見直すことが必要だ。感情と判断を分けることが大切だ。

すでに送金してしまった場合に取り戻せるか

振込先の銀行への地払停止申請を即座に行うことで、一部が回収できる場合がある。警察庁サイバー犯罪相談窓口か最寄りの警察署に相談する。チャット履歴・振込明細などの証拠は保全しておく。

被害回復業者から連絡が来たらどうすればいいか

絶対に応じない。着手金を要求する被害回復業者はすべて詐欺だと思っていい。法テラス(0570-078374)に相談する。


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