明日から大阪出張だ。15年ほど前、僅かな期間ではあるが住んでいた馴染み深い街。あの頃は碌に知り合いもおらず、休日のたび、一人アテも無く下町をフラフラしていたもんだ。
大阪の人はフレンドリーで親切で、私を孤独にさせてくれず、これは本当に有難かった。苦労の多い時期だったにも関わらず、楽しい思い出ばかりが残っている。
地元に戻ってからも、毎月大阪を訪れる機会に恵まれた。もう200回を超えている。正直飽き気味ではあるが この幸運に感謝している。
大阪独特の食文化は奥が深く、リーズナブル。一人カウンターに付くと、決まって隣席の知らない大阪人から「ニイちゃん、どっから来たん?」と絡まれ話し掛けられる。
「孤独のグルメは許さへんで」と構ってくれる。昔から変わらない。ホンマおおきに、である。
大阪は美味いモノが多い。ここでしか味わえないものもある。私の勝手な解釈である事をおことわりしておくが、「カレー」と「どて焼き」がその双璧だ。
特にどて焼きが好きだ。大阪に行くまで存在すら知らなかった自分を深く恥じているし、何故大阪人はもっと早く教えてくれなかったのか、憤りすら感じているレベルである。
どて焼き(以下ドテ)とは、大抵の串カツ屋や居酒屋で必ずメニューに載っている、攻・走・守が揃った万能選手のアレである。
全国的には「牛すじ煮込み」と呼ばれ、取り立てて珍しいモノでは無いように思われるかもしれないが、大阪と他所で決定的に異なるのは、そのバリエーション。
醤油ベース 写真は新大阪駅構内の「だるま」
醤油プラス味噌 大正「松栄」
若い頃は、(これも独特である)ソースの「二度漬け禁止ルール」が面白く、串カツばかりを食べていたのだが、最近は揚げ物よりドテの方を自然と好むようになった。
新世界「近江屋」のフワフワ串かつ
ドテを食べるためだけに大阪へ行きたくなる衝動に駆られる事もあるくらいだが… 自由な時間は少なく、これだけの訪問回数にも関わらず、なかなか有り付けていないのが現状。
会えないほど会いたくなるのは世の常、人間関係と何ら変わらない。頭の中はトロトロプルルンのドテに占領されてしまう。これは恋と呼んでも過言では無いだろう。
こうなると、自作以外の選択肢は無い。リンゴの皮もむけない私だが。幸い、おでんの具材として牛すじは容易に入手可能だ。
味付けは、最も新世界っぽい、甘さがクセになる白味噌一択。味噌は京都産を選択した。同じ関西だし相性良いはず。京都の人と大阪の人が仲悪いのは知ってるけど、この際だ無視しよう。
サンシャイン(©︎キン肉マン)も立ち寄った名店「てんぐ」のドテを目指し、⑴とにかく柔らかく⑵まろやかに甘く⑶七味で締める、という課題をクリアせねばならない。
そして圧力鍋、ここまではおでん同様の手順。これで⑴はクリアしたはず。
次は「甘さ」。白味噌はそれ自体甘さがあるものの、アレはそれだけでは無い。砂糖だとベタつくし、蜂蜜でも無い。
白味噌200グラムに、このみりんを大さじ4杯。大阪らしく「鰹出汁」(昆布と迷ったが、家にあったから)で、適当に味見しながら「のばす」。よっしゃ、間違い無く美味い。
だいたい400ccで、好みの味に。鰹と味噌だから、そりゃ美味い。茹でた牛すじを漬け込んで一煮立ちさせ、一晩寝かす。染みろ、もっと染みろと念じてみよう。
今回のミッションで最も苦心したのは「焼き」。写真の通り、焼いている。うん、どて焼きだもの。味噌で土手を作り、焼くからどて焼き(諸説あります)。
…こんな器機、持っとらん。でも焼きたい。焼かなければただの「煮込み」になる。
という訳で、キャンプ。子供達はどっか遊び行った。調理まで孤独だとは。
しかし、ドテの神様は私を見捨てていなかった。この鉄板、絶妙に丁度良い深さだ。
「焼け」ました。ありがとうございます。
てんぐのドテか?と言われれば別物かもしれないが、アルコールを受け付け無い私ですらビールが欲しくなる自分仕様の味、最高です。
次のキャンプでは少し九州の醤油を混ぜてみたい。コクが出るかもしれない。