「嫁ぐおまえに」 | 坐韻通信

「嫁ぐおまえに」

 長く、遠い、苦しみに満ちた険しい道のりを歩いてきたおまえ

 傷つき、疲れ果て、道端で数年眠り込んでいたおまえ

 眠りから醒めた時、幼児に還っていたおまえ

 親に二度も捨てられた心の傷は深い

 苦しみのはじまりから十五年がたち

 そんなおまえの前に

 突然、一人の青年がゆっくりとやってきて、がっちりした掌を差しのべた

 苦しみを多く抱えてきた人ほど、その人は幸せにならなければならん、と僕は思う

 だから、おまえはその資格が真っ先にある

 本当に、“よかった”、“よかった”と僕は心の中で涙して掌を合わせる

 そして、“有難うございました”とつぶやく

 

 夫婦になるということは

 お互いの命を相手に預けるということ

 「どうぞ、お先に」ということ

 相手のために生きるということ

 そして相手に命を捧げるということ

 本当の母性が身を捨てて赤子を守るように

 「どうぞ、お先に川をお渡り下さい」ということ

 「友のために命を捨てることほど大きな愛はない」と聖書は語り

 「己れ未だ救われざるに、まず他者を先に度すなり」と仏典も語る


 そう、最近のことでいえば、僕の好きな一青窈が「ハナミズキ」で、このことすべてを詠っている

  

  「一緒に渡るには

   きっと船が沈んじゃう

   どうぞゆきなさい

   お先にゆきなさい

   僕の我慢がいつか実を結び

   果てない波がちゃんと止まりますように

   君と好きな人が百年続きますように・・・」


 きょう、僕はあすの入籍のために

 この歌を贈ろう

 百年の幸福がおまえの胸の中に宿りますように、と


          アンティークス坐韻 店主

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