ルーマニア出身の彫刻家ブランクーシは、ブカレスト国立美術学校で学んだのち、1904年にボヘミアンのアーティストが集まるパリに出て、ロダンのアトリエ助手になりました。

しかし、クラシックな氏の彫刻には飽き足らず、自らのスタイルを発見するためにアシスタントを辞めて自分自身のアトリエで独自の制作に没頭し始めます。

モンパルナスのカフェで出会ったモジリアーニやマンレイ、マルセル・デシャンなど、

ダダやシュールのアーティストとの交流、

またピカソやブラックがコレクションしたアフリカのお面などに大きな影響を得て

つるりとした冷たいブロンズ彫刻を編み出していくのです。

 

映画『オーケストラシート』で主人公が売りに出すのは、ブランクーシの初期の代表作『接吻』です。

その切なくて温かな映画をきっかけに、私はブランクーシの作品に興味を抱き始めました。

どっしりした石のキューブを彫刻にしたこの作品は、シンプルでありながら

抱き合うカップルの熱い胸の鼓動が聞こえてきそうな名作です。

また、今回の展覧会には、

ヴェニスのペギー・グッゲンハイム美術館の「空間の鳥」や石橋財団アーティゾン美術館所蔵の「ポガニー嬢II」など、代表作が一堂に集まっています。

 

無駄を一切排除したピュアなライン。

当時の税関では作品とみなされず、ブロンズの塊として税金にかけられたという逸話さえあるものですが、

横たわる女性の横顔を形にした「眠れるミューズ」は、シュールの写真家、有名なマンレイに影響を与え、彼がモンパルナスのモデル・キキを起用して撮影した写真にもなりました。

 

現在、工事中のポンピドーセンターにはブランクーシのアトリエがあります。オープンした際には、再び、ブランクーシを見に行きたいと思いました。

 

〜7月7日

アーティゾン美術館にて

www.artizon.museum