小野薬品工業、提携でモダリティを多様化

 

 小野薬品の2024年3月期の売上収益は5027億円で、9期連続で過去最高を更新し、5000億円企業の仲間入りを果たした。好調な業績を抗がん薬の「オプジーボ」(ニボルマブ)が支えている。

 同社のパイプラインの保有件数は35件で、前年調査時より5件減少した(表6)。領域別に見ると、がん領域が6件減少したものの25件で最多(図14)。構成率は71.4%で、がん領域の比率トップの第一三共に続いている。最も多いプロジェクトは、LCM中のオプジーボの適応拡大で、併用薬の有用性を検証する試験を含めて18件を数えた。がん領域におけるオプジーボ関連プロジェクトの構成率は72.0%で、前年より高まっている。

表6 小野薬品工業のパイプラインの分布と開発段階
  第1相 第2相 第3相 申請中 合計 構成率
がん領域 13 5 6 1 25 71.4%
神経・精神領域 3 2 2 0 7 20.0%
炎症・免疫領域 1 1 1 0 3 8.6%
合計 17 8 9 1 35 100.0%
構成率 48.6% 22.9% 25.7% 2.9% 100.0%
図14 小野薬品工業のパイプラインの領域
 
小野薬品のパイプラインを領域別に見ると、がん領域がトップ。その数は25件で6件の減少だった。神経・精神領域は7件で1増、炎症・免疫領域も3件で1増だった。循環器領域は1減してゼロになっている
 
 
小野薬品のパイプラインのモダリティは、低分子薬と抗体医薬で2分されている。低分子薬が1件減少して19件、抗体医薬は4件減少の14件、新たに遺伝子細胞治療が1件加わった。モダリティの非開示が1件あった.
 
 
 
 

 ただし、適応拡大が進んだことや開発を中止したプロジェクトもあり、件数自体は減少傾向にある。2023年11月にはオプジーボの追加適応症として「悪性胸膜中皮腫を除く悪性中皮腫」が、2024年2月には「上皮系皮膚悪性腫瘍」が日本で承認された。一方で2023年8月に日本、韓国、台湾で実施していた、前立腺がんを対象とする第3相試験で有効性が確認できなかったため、開発を中止している。

 がん領域以外では、神経・精神領域は前年比1件増の7件で20.0%、炎症・免疫領域が同1件増の3件で8.6%を占めた。循環器領域は1件減少し、ゼロになった。同社は、2022年から5年間の研究開発への投資額を6000億円規模とする方針を打ち出している。重点領域にがん・免疫・神経・スペシャルティーの4つを掲げている。

 小野薬品のパイプラインのモダリティは、低分子薬(19件、構成率54.3%)と抗体医薬(14件、同40.0%)で大きく2分されている(図15)。同社の最大の課題が、2031年に迎えるオプジーボの特許期間満了への対策だ。そのときに備え、同社では多くの企業との提携を推進しており、モダリティの多様化を進めている。

 

 その成果の1つが、遺伝子細胞治療である。同社は、米Fate Therapeutics(フェイト・セラピューティクス)社との創薬提携契約に基づいて創製したHER2標的のキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法であるONO-8250/FT825について、開発・商業化するオプション権を行使。2024年1月には米国で、固形がんを対象にしたONO-8250/FT825の第1相試験が開始された。Fate社とは2018年9月にiPS細胞由来の他家CAR-T療法の創製に関する契約を締結。さらに2022年6月にはCAR-NK細胞療法の選択肢も追加した。

 

 ペプチド医薬では、ペプチドリームとの提携が2021年3月と2023年3月に発表されている。抗体医薬では、2022年3月にスイスNumab Therapeutics(ヌマブ・セラピューティクス)社とがん免疫領域における多重特異性抗体を開発するライセンス契約を実施している。同年11月にはスイスMemo Therapeutics(メモ・セラピューティクス)社とがん免疫領域における抗体医薬を創製するための契約を締結した。さらに、2023年8月に米Twist Bioscience(ツイスト・バイオサイエンス)社と自己免疫疾患に対する抗体医薬の創製についての提携契約を、同年9月には米Adimab(アディマブ)社と二重特異性抗体の抗がん薬の候補の創製について提携契約を締結した。

 このように、小野薬品の企業提携数は、国内の製薬企業では依然トップクラスにある。今後、小野薬品のパイプラインのモダリティがどのように多様化していくのか、さらにはオプジーボのパテントクリフを克服できるパイプラインを構築できるのか、注視していきたい。