がん治療薬オプジーボの小野薬品「特許の崖」どうする? 社長に聞く

 

 がんの治療薬「オプジーボ」をつくる小野薬品工業は2024年3月期決算で売上高5千億円を見込む。売上高は10年前の3.5倍に急成長した。だが、31年には国内での特許が切れる。他社が同じ薬をつくれるようになり、この薬の売り上げは落ち込む見通しだ。この「特許の崖(パテントクリフ)」と言われる製薬会社がたびたび直面する課題に同社はどう備えるのか。4月に社長に就いた滝野十一さん(56)に聞いた。

 ――どう備えようとしていますか。

 「ひとつはグローバル展開です。今は日本、台湾、韓国では自分たちで製品を売り、それ以外の欧米などでは、海外の製薬会社と組んで販売してもらい、特許使用料を受け取る形です。しかし、海外市場の大きさが日台韓の10倍ほどあることを考えれば、自分たちで売る自販に切り替えれば伸びしろが大きい。今ならできる体力もあります」

 ――今から海外展開しても遅くはないのでしょうか。

 「遅くはないと真剣に思っています。海外展開は事業を発展させるベクトルのひとつとして当然でしょう。製薬会社はそれぞれ得意とする治療薬の分野や、研究開発、技術が異なり、その会社じゃないとなかなかできないという面があります。そこで自分たちの強みを生かせば、海外展開は今からでも遅くはない」

 ――オプジーボのほかに海外で売る薬はありますか。

 「オプジーボのおかげで、昔に比べて研究開発でも技術的にもいろいろなことができるようになってきたと思います。新しい薬の候補を生み出す力や、その商品化に向けた臨床試験を進める力も強くなってきたと思います」

 ――具体的にはどんなことに取り組んでいますか。

 「私たちは以前から、大学や研究者といったアカデミア、バイオベンチャーといったところと組むオープン・イノベーションが得意で、この取り組みをどんどん進めます。ベンチャーが手がけている新薬の候補やアイデアがおもしろそうなら一緒にやります。自前にこだわらず、他社のものでも私たちが加わることで製品化までのスピードを上げる。必要であれば、今までまったくしてこなかったM&A(買収・合併)も選択肢です」

 ――大阪に本社を置いていますが、東京に移す考えはありますか。

 「社内では、『日本の薬の街・道修町』にこだわりも誇りも持っている人が多いと思います。大阪から世界に向かう元気印の会社になれたらいいなと思います」

 たきの・といち 1968年生まれ。京都大院薬学研究科修了、95年小野薬品工業入社。他社の薬を売る権利を得る交渉の担当が長く、研究本部長、取締役専務執行役員を経て、2024年4月から現職。