がん細胞に結合して正常細胞につかない抗体 阪大と東北大研究Gが取得成功 がん細胞のみを攻撃する医薬品開発に寄与

大阪大学と東北大学の研究グループは、がん細胞だけに結合して正常細胞には全く反応しない抗体の取得に成功した。その細胞選択性の理由を結晶構造解析などにより明らかにしている。この発見は、がん細胞のみを攻撃する抗体医薬品の開発に貢献できるという。米科学誌「ストラクチャー」に9日付で公開されている。

たんぱく質「HER2」はがんの治療における標的たんぱく質として注目され、これに結びつく抗体は、HER2陽性乳がんや胃がんに対する治療薬として利用されている。だが、がん細胞上のHER2にのみに合流する抗体医薬品はこれまで開発されていない。

研究グループはがん細胞によく結びつき、正常細胞には全く反応しない抗体「H₂Mab-214」を取得することに成功した。鎖状のアミノ酸「ペプチド」とH₂Mab-214の複合体の解析を行ったところ、抗体に結合したペプチドの形が既報のHER2の立体構造中に見られる対応する領域の形とは全く異なっていることが分かった。

先行研究では、この領域は比較的安定な構造「βシート」を形成していることから、H₂Mab-214はこの構造が壊れないとHER2に結合できないと示唆された。そこで、正常細胞上のHER2の立体構造を破壊してみたところ、H₂Mab-214が結合できるようなることが確認された。

がん細胞では HER2の立体構造の一部が正しく折りたたまれておらずH₂Mab-214はそれを認識するため、がん細胞のみに特異的に結合できると分かっている。

阪大の有森貴夫准教授は「本成果が、まだ有効な治療法が確立されていないがんにおける治療標的分子の発見や、安全性の高い抗体医薬品の開発につながることを期待する」と述べている。