9月21日に行なわれた第11回口頭弁論において、原告側はこの裁判においての「特段の事情」を論証した準備書面を提出しました。

提出において、原告側の弁護士より次のような補足説明がありましたので、まずはその時の全文を書いておきます。


松下PDP事件の最高裁判決が、派遣元と派遣労働者との間の法律関係について「仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行なわれた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効となることはない。」というふうに関しているのはご承知のとおり。

では、ここに言う「特段の事情」とは何なのか。

最高裁判所調査官※1によれば、「『特段の事情』とは労働局による指導等に対応して畜言すべき脱法的な違法派遣の対応は、今後様々なものが想定されることから、その対応によっては派遣元と派遣労働者との間の雇用契約が無効になる可能性がありうることを予め鮮明しておくという趣旨である。」ということです。

つまり最高裁が「特段の事情」と想定しているのは、脱法的な違法派遣の対応であり、派遣元と派遣労働者との間の雇用契約を無効とすべき強度の違法性を帯びた派遣法違反行為が、これに該当するものと考えられます。

この度提出しました第10準備書面は、このような最高裁判決の理解に基いてマツダによるクーリング期間の悪用が、特段の事情に該当するのだということを論証するものです。そして、その前提として「派遣法第40条の2」がいかに重要な規定であるか。マツダによるクーリング期間の悪用がいかに悪質な行為であるか。原告らが追い詰められた状況が、いかに過酷な状況であったかについて述べております。

派遣法は1985年(昭和60年)に制定されましたが、その7年前である1978年(昭和53年)頃からすでにその制定に向けた議論がなされて、制定前から「常用代替の防止」は派遣法の命題とされており、そのために派遣法は第1に「適応対象業務を専門的業務に限定すること。」第2に「派遣期間を限定すること」という2つの大きな手段を採用しています。

ただ当初は、適応対象業務が専門的業務に限定されていたことから、派遣期間の制限は告示で制限されているだけ。しかし1999年(平成11年)の改正によるネガティブリスト化(規制緩和)によって、常用代替防止の1つの手段であった「適用対象業務の限定」が外されることとなりました。これには当然強い反対意見があり、国会でも喧々諤々(けんけんがくがく)の議論がなされました。しかし結局、第2の手段であった「派遣期間の制限」を派遣法第40条の2※2として、派遣法に明記するするのと同時に、その実効性を担保するための職制を設ける法案修正が施され、異例の経過の下にネガティブリスト化が認められることとなりました。

この時、常用代替の防止という派遣法の命題は、専ら派遣期間を制限するという第2の手段。つまり派遣法第40条の2のみに委ねられることとなったのです。このことを今回の準備書面では「最後の砦」という言葉で表現しています。

派遣法第40条の2は、常用代替防止の「最後の砦」である重要性を有しており、これに違反することは他の職制に違反することとは異なる特段な悪質性を有しています。そしてマツダのサポート制度のしくみは、各派遣会社の理解と共同の下に実現された組織的且つ大規模なクーリング期間悪用の具体的システムであり、極めて悪質なものです。さらにマツダは原告らの生存権や個人の尊厳をないがしろにし、原告らから人たるに値する生活すら奪い去りました。

マツダの行為の悪質性は、まさに空前絶後のものであり、これ以上に悪質な違反採用というものは現実的にあり得ません。

これが「特段の事情」に該当しないとすれば、この他に該当するようなものはない。原告第10準備書面では、概要を今述べた事実から、マツダによるクーリング期間の悪用が「特段の事情」に該当するということを論調しています。







つまり、簡単に言うと…


松下PDP最高裁判決では、違法派遣があったからと言って、派遣労働者と派遣元との契約は無効になるわけではない。

但し「特段の事情」がある場合には、無効になる。

「特段の事情」というのは、最高裁判所調査官によれば、違法行為の度合いが特に悪質な時には無効になる。と言っている。

だから「特段の事情」の中身とは、違法性の程度(どれだけ悪質か)によることである。

派遣法が制定される時「常用(正社員)代替防止」というのが派遣法の大命題だった。

そのために「派遣先の業種の限定」「派遣期間の定め」を設けた。

しかし1999年、規制緩和により「派遣先の業種の限定」は取り外され、代わりに「派遣期間の定め」を「労働者派遣法第40条の2」※2として制定された。

つまり「第40条の2」は、労働者派遣法を支える唯一の大命題と言っても良い。(これを準備書面では『最後の砦』と言っている。)

マツダのサポート制度(派遣社員→期間社員→派遣社員)は「労働者派遣法第40条の2」の趣旨に真っ向から背く行為。

その行為を各派遣会社と共に組織的に、大規模に行なわれた。

これ以上悪質な行為は、他に見当たらない。これが「特段の事情」に該当しないとすれば、この他に該当するようなものはない。

このことが「特段の事情」と認められれば、派遣労働者と派遣元との雇用契約が無効となるから、労働者と派遣先との間に「黙示の労働契約」が成立する。







※1 最高裁判所調査官とは…



最高裁判所において、判例などや学説の調査など、色々な文書の事案を行なう役職の人。

もうちょっと掘り下げて言えば、最高裁の判決を実は書いている人。

裁判所にとって「調査官がこう言っている。こういう中身を解説している」というのは、他の学者や弁護士が言うより非常にインパクトがあり、説得力がある。





※2 



(労働者派遣の役務の提供を受ける期間)

第40条の2 派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(次に掲げる業務を除く。第3項において同じ。)について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない

(以下省略)