レイクウッドの再会・2



束の間だったが、アンソニーと二人だけで過ごせた幸せをかみしめながら、キャンディは夕食前のひとときを、自室で過ごしていた。
思うのは、レイチェルが残した言葉ばかり。

──あの日から、アンソニーは変わってしまった──

今までは二人で仲良くやってきたのに、レイチェルに対する気持ちが変わったというのか。
だとすれば、どんなふうに?
そのことに自分が関係しているのか。

次から次へと、とりとめのない疑問が浮かんできた。
だが、ほんの少しだけ嬉しくもあった。
アンソニーが変わったのは、もしかして自分に心が向いてきたせいでは?──そう思ったから。

(ごめんなさい、レイチェル。アンソニーを守ってきたのは、あなたなのに。私は彼に何もしてあげられなかったし、他の人を好きになってしまったわ。今更想う資格なんてないわね。でもこの気持ちだけは、どうしようもないの!) 



そのとき突然ドアがノックされ、使用人の声が聞こえた。

「キャンディス様、応接間にお客様がお見えでございます」
「お客様?こんな時間に誰かしら」
「はあ、それが『会えばわかる。取り次いでほしい』の一点張りでして。若い男性です」

若い男性?
益々見当がつかない。

「わかったわ。すぐ行きます」

日が落ちたせいか、少し肌寒さを覚え、そばにあった薄手のカーディガンを羽織る。
そして応接間へ続く階段を足早に下りていった。



階下に着いて、ドアをノックする。

「こんばんは、キャンディスです」

だが返事はない。
もう一度ノックして様子をうかがったが、それでも反応は無し。
仕方なく、「失礼します」と断ってからドアを開ける。

客人は後ろ向きに座っていた。
勿論顔は見えないが、髪の色は栗色。
そして見覚えのある後ろ姿。
もしや・・・
キャンディは胸騒ぎを覚えた。心臓がざわざわする。

「あの・・・どちら様ですか?」

辛うじてしぼり出した声は震えている。
先日アニーから聞いたニュースが脳裏をよぎる。

──キャンディ、驚かないでね。スザナが婚約するそうよ。しかも、フィアンセはこの人──

アニーが指差す記事に書かれていた名前は、「テリュース・グレアム」ではなかった。

(もしかして、もしかして・・・「あなた」なの?スザナが婚約するって聞いたわ。あなたは一人になるのね?だから私に会いに来てくれたの?)

胸の高鳴りは最高潮に達した。

「遅かったじゃないか、ターザンそばかす」

忘れるはずのない懐かしい声。ちょっと気取ったupper class accent(上流階級が話すイギリス英語)
そんなふうに自分を呼ぶのは、この世にただ一人、「あの人」しかいない。
そう、あの人!テリュース・G・グランチェスター。

キャンディは興奮して絶叫した。

「テリィなの?」

栗色の髪の客人はゆっくり立ち上がり、おもむろに振り返る。

「しばらくぶりだなぁ。ごきげんいかが?ターザンそばかす」

それは紛れもなくテリィだった。
三年近く前、ヤコブ病院で悲しい別れをして以来、初めて間近で見るテリィだった。
もっともそのあとキャンディは、ロックスタウンという街で偶然テリィの芝居を見たが、恐らく彼はそれを知らないだろう。

テリィはあの頃と少しも変わっていない。いや、益々いい男になった。
俳優として、いかに充実した日々を過ごしているかを物語っているようだ。
成功して自信をつけることで、男は光り輝いていく。
今のテリィがまさにそう。
人々から注目され続けることによって、磨きがかかったのだろう。
ロックスタウンで見かけたときの憔悴した様子からは、考えられないほどの変貌振りだ。
立ち直って本当に立派になった。
だから気安くしゃべっていいものか、キャンディはほんの少しためらいを感じてしまった。

「一体どうしたの?よくここがわかったわね」
「ポニーの家に行ったんだ。そしたら、先生たちがここを教えてくれた」
「そうだったの・・・」
「どうした?しばらくぶりで会ったのに、あまり嬉しそうじゃないな」
「そんなことないわ!」

ムキになるキャンディを見て、テリィはピンと来た。

「ははあ~、さては『彼女』のことが気になってるな」
「彼女?」
「スザナさ」

キャンディの心臓は一瞬、ドクンと音を立てた。

「それは気にしなくていい。スザナはこの秋、結婚することになったよ。勿論相手は俺じゃなくてね」

そう言ってテリィはウィンクする。

「キャンディのところへ行くように、背中を押してくれたのも彼女だ。だから迎えに来た。他の奴に取られる前に、はっきり申し込もうと思って」

(申し込むって?こんな突然・・・)

キャンディの胸は千々に乱れた。
唐突の申し出に返す言葉がなく、ただ黙って話を聞くだけ。

「スザナを熱烈に慕うファンがいたんだ。それはそれは、熱心に通ってきたよ。初めのうち、彼女は嫌って相手にもしなかったけど、女ってのは不思議だな~。段々気になる存在になって、ついに根負けした。それでこの前、プロポーズを受けたんだぜ」

そういうことだったの・・・!──ちょっと信じられなかった。
身を挺してテリィをかばい、片足を失ってもいいほど彼を愛していたスザナが、あっさりあきらめて、他の男性と結婚するなんて。
それとも、そんなにいい人だったんだろうか。フィアンセになる人・・・

「スザナは、その人のことを好きになったのかしら」

キャンディはつぶやくように言った。
同時にアルバートのことが頭に浮かぶ。
愛され、望まれていることに薄々気づきながらも、ついに自分は、彼の想いに応えることが出来なかった。
アルバートと結婚に踏み切る決断がつかなかった。
だから、スザナの潔さが羨ましくさえある。

「確かにそいつを好きになったんだろう、それが一番の理由さ。でも愛のない結婚に自信がなくなったのが本音じゃないかな」
「愛のない結婚?」
「つまり俺は、スザナを愛してなかったってことさ。同情と愛情は違う。別物なんだ。彼女もよくわかってたはず。自分を愛してくれない男と、これからの長い人生を歩いていくことに、不安を覚えたんだろう。当然だよな」

テリィが熱い視線を送ってくる。
胸がドキドキする。
こんな切ない目で見つめられたら、どうかなってしまいそうだ。
キャンディは何も言えず、ひたすらgreenish blueの瞳をなぞった。

「というわけで、フリーになった俺が、いろいろ身辺整理して、ついにキャンディス嬢を迎えに来たってわけさ。なんのために来たかは・・・わかるだろ?」

また意味ありげな視線が投げられる。
胸の高鳴りは極点に達し、テリィの顔をまともに見られない。
黙ったままモジモジしていると、すました声がまた聞こえてきた。

「いくつか確認したいことがあるんだ。今から直球の質問をするから、君も直球で返して欲しい。いいかい?変化球は一切なしだ。YesかNoで答えること!わかった?」

たたみかけるように言われたから、キャンディは考える余裕がなく、「ええ」と返すしかない。

「じゃあいくぜ。質問その一。君はまだ看護婦を続けてる?」
「Yes」
「質問その二。俺と別れてから、他に誰か好きな奴が出来た?」
「No」
「質問その三。なら、今でも俺に惚れてる?」

これには参った。
キャンディは真っ赤になり、「そ、そんなこと!」と大声になる。
そのリアクションを予想していたかのように、テリィはニヤッと笑ってウィンクした。

「おっと、最初の約束を忘れてもらっちゃ困るな~。質問には必ず、YesかNoで答えるんだったろ?」
「あ・・・」
「答えは二つに一つだ。さあ、どっち?」

熟れたトマトのようになったキャンディは、恥ずかしそうに「Yes」とささやく。
ほとんど自分にしか聞こえないような、蚊の鳴くような声で。
でもテリィは十分満足だった。

「待ってました!その一言。これで安心して次の質問に進める。ってことで、ラスト。俺がプロポーズしたら、一緒にニューヨークへ来てくれる?」

なんのためらいもなく、真正面から気持ちをぶつけるテリィに圧倒された。
彼は、こんなにストレートな男だったろうか。
素直になれず、いつも空回りしていた聖ポール学院時代の少年が脳裏に蘇る。
役者になって、大人になって、彼は一回り成長したようだ。
あのテリィが──学院一の問題児だったテリィが・・・!
なんだか不思議な気持ちになって、キャンディはふふっと小さく笑った。

「なんだよ!こんな大事な場面で笑ったりして」

テリィは拍子抜けしたが、すぐに気を取り直す。

「まあ、そんなところがターザンそばかすらしいんだけどな。その笑顔は、当然『Yes』と解釈していいんだよな?」
「え、ええ・・・」

思わずキャンディはそう答えてしまった。
相変わらず強引なテリィ。
でも、それこそが彼の一番の魅力。

(そういえばアンソニーを忘れさせたのも、この強引さだったわね)

キャンディは五月祭を思い出し、懐かしそうな目をした。

「じゃあ結婚の約束に、これを受け取ってくれないか」

テリィが差し出したのは、エメラルドの指輪。

「どうだい?君の目の色と同じだろう。これを見つけるの、結構大変だったんだぜ」

そう言いながらキャンディの手を取り、左の薬指にはめた。

「いろいろ悲しい思いをさせたけど、もう離さない。今度こそ二人でニューヨークへ行こう」

そして抱きしめた。
強く、強く。
万感の思いを込めて・・・

でもなぜか、素直に喜べない。
こんな近くにテリィがいるのに。
胸の鼓動が聞こえるほど、ほのかな香りが伝わるほど、近く近く肌を寄せ合っているのに。
嬉しいはずなのに、夢にまで見たことなのに!
抱きしめられながら、頭では他のことを考えている自分に戸惑う。
その正体は、一体何?

あまりに突然テリィが現れてプロポーズしたからだろうか。
だから驚いているだけなのだろうか。
確かにそれもあるだろう。
だがもっと大きな原因に、本当は気づいていた。

アンソニー・・・!

テリィの腕の中にいても、頭に浮かんでくるのはアンソニーの笑顔。

(なぜ?あんなに好きだったテリィが、こうして戻ってきてプロポーズしてくれたのよ。なのに、どうしてアンソニーの顔が浮かんでくるの?)

これからテリィと二人で生きるバラ色の人生が、目の前に開けようとしているのだから、他のことは考えたくないとキャンディは思った。
だが感情は正直だ。
いくら頭でわかっていても、理性では割り切れないものがある。
アンソニーを否定すればするほど、その面影は胸一杯に広がっていく。

キャンディはたまらなくなって、そっと抱擁をかわした。
まるでアンソニーの幻に操を立てるかのように。

一瞬の行為に、テリィは意外な表情を浮かべたが、あまり深く考えなかった。
それだけ深くキャンディを信じていたから。

(突然だったし、こんなに近くでお互いを感じるのは久しぶりだから、きっとびっくりしてるのさ)──そんなくらいにしか思わなかった・・・

「キャンディ、俺は今夜のうちにシカゴへ帰らなきゃいけない。今、公演の最中なんだ。でも、近いうちに必ず迎えに来る。だから、それまでにいろいろと準備しておいてくれ」
「準備?」
「ニューヨークへ行く準備さ。婚約発表は公演中にしたい。あと二、三週間ってところかな。俺たちのニュースはトップ記事になるぜ」

二、三週間、そんなに早く・・・
とても心の整理はつかないだろう。
困った挙句、本音をぶつけるしかなかった。

「ごめんなさい、婚約発表はちょっと待ってほしいの」

思ってもみない提案に驚き、「なぜ?」と食い下がる。

「だって、親しい人に報告とかあるし、仕事の引継ぎもあるし・・・。ニューヨークに行ってから発表するほうがいいんじゃないかしら」

しどろもどろな返答に、テリィは不安を覚えた。
それに、心なしかキャンディの表情が曇っている。
二つ返事で承知してくれると信じていたのに。

「ごめん。まだ看護婦を続けてるんだったよな。つい興奮して、自分の希望だけ押し付けちまった。君の都合も考えずに。よくわかったよ。じゃあ、もう少し待とう。でもプロポーズを受けてくれたことは、団長に伝えておくよ。いいね?それから、俺のファンの嫉妬なんか恐れるな。そんなことを気にしてたら、俺とは一生結婚できないぜ。なんせ人気絶頂の看板俳優なんだからな」
「まあ、テリィったら。しょってるのね!」
「本当のことだから仕方ないさ。だけど安心しろ、俺には君しかありえない。君でなきゃダメなんだ。だから一緒にいて欲しい。『俺が守ってやる』なんて偉そうなことは言えないけど、君となら、なんでも乗り越えられる気がするから」

キャンディは嬉しかった。
テリィはこんなにも想ってくれている。
そしてそれをストレートに言葉に出してくれる。
昔の彼なら、すねたり照れたりして、決してはっきり言ってはくれなかったろう。

だが感激に酔いしれながらも、迷いは深まった。

── 一体どうやって、アンソニーへの想いに決着をつければいいんだろう?──


「テリィ、お仕事は順調なの?」
「ああ、今はテリュース・グレアムっていう名前で舞台に立ってる。もうグランチェスターは捨てたよ。聖ポール学院を退学するときにな」
「知ってるわ。でも公爵家を出たからこそ、自由に俳優をやっていられるのよね?そうでなければ家名に縛られて、自分のやりたいことが出来ないでしょ?」
「そのとおり。イギリスでグランチェスターを名乗ってる限り、舞台俳優になるなんて、夢のまた夢だよ」
「それで良かったのよね?」
「当然さ。貴族の体面なんてクソ食らえだ!」

そのときまた、アンソニーの顔が浮かんだ。
彼はアードレー家の格式に縛られて、窮屈ではなかったろうか。
本当は自分のやりたいことを自由にやりたいのに、それが出来なくて、もどかしく思ったことはないのだろうか。
もしもそうだとしたら、なんとかして自由にしてやりたい、望みどおりの人生を歩ませてやりたい──そう思う。

(またアンソニー?何かにつけて彼を思い出すのね。なぜそんなに気になるわけ?あなたにはもう、プロポーズしてくれる人がいるのよ。あんなに堂々と。いい加減、アンソニーは忘れなさいよ!でなきゃ、テリィに失礼だわ)

心の中の別の声が、フラフラ揺れる自分を叱責する。

そうだ、テリィははっきりプロポーズしてくれた。
それに比べてアンソニーはどうだ?
少しは想ってくれているのか、それとも、ただ懐かしがっているだけなのか、それすらわからない。
おまけに彼にはレイチェルがいる。
二人の関係がなんなのかも、いまだにわからない。
とにかくアンソニーに関しては謎だらけだ。
そんな不確かなもののために、テリィの誠意を踏みにじってはいけないと、キャンディは強く思った。


「ところで、ここに誰と住んでるの?」

考え込んでいると、すまし声が耳元で聞こえた。
気を取り直し、努めて明るい声で答える。

「あなたが知ってるのは、アルバートさんとアーチーとアニーかしら」
「そうか・・・。ああ、アルバートさんっていえば、あの人、アードレー家の当主だったんだろ?新聞で読んで驚いたよ」
「そうでしょ。私も初めて知ったときは、びっくりしたわ」
「今まで何も言ってくれなかったなんて、彼も人が悪いよ。いろいろ事情があったんだろうけど」

テリィは肩をすぼめて笑う。

「当主ともなれば、私たちには想像も出来ない苦労があるのよ、きっと」
「それにしても庶民的に見えたな~。まさか大富豪のトップに立つ人だったなんて。人は見かけによらないな」
「まあ、テリィったら」
「で、アーチーとアニー?おしゃれでキザな奴と、おとなしい女の子かい?」
「そうよ」
「じゃあ今度君を迎えに来るときには、あいつと会わなきゃならないってことか」
「どういう意味?」
「野郎とは、顔を合わせるたびに一悶着あったからね」

確かにテリィとアーチーは、聖ポール学院時代、ひどく仲が悪かった。
ロンドンに来るずっと前からキャンディに好意を持っていたアーチーは、テリィに彼女を取られたことが面白くなかったのだ。
もっとも今は、アニーという素敵な伴侶を得たわけだから、昔のわだかまりも消えているだろう。
いや、消えていて欲しい!

「他には誰かいないの?俺の知ってる奴」
「ええ、あとはね・・・」

うっかりアンソニーの名を出しそうになり、あわてて引っ込めた。
テリィは彼の名前だけは知っている。
「死んでしまった」とはいえ、キャンディの初恋の相手であることも。
だから彼が実は生きていて、この屋敷に住んでいることを知ったら、死ぬほど動揺するだろう。
口が腐っても言えない。
だから適当に言葉をつなぐしかなかった。

「あとはね・・・あなたが知らない人ばかりだわ」


あれこれ話すうちに、二時間ほど経っただろうか。
テリィは時計を見て、もう帰らなければならないと言った。

「思い切って今日来て良かったよ。突然スケジュールがぽっかり空いてね。そしたら急に会いたくなった」
「来てくれて嬉しいわ。ついでにアルバートさんに会っていけば?」
「いや、汽車の時間があるから失礼するよ。よろしく言ってくれ。今度来るときには、ちゃんと『お嬢さんをください』って正式に挨拶するから」

そう言ってテリィはウィンクした。
キャンディは少しだけ笑みを浮かべる。

「その指輪、大事に持ってろよ。俺だと思って」
「勿論よ!毎日見て、あなたを思い出すわ」
「是非そう願いたいね」

テリィは白い手を取り、甲にそっと口付けた。
キャンディは顔を赤らめながら、照れ隠しに「お見送りするわ」と申し出る。



他愛ないおしゃべりを続けながら正門にたどり着くと、漆黒の闇の中、月が二人を見下ろしていた。
名残惜しさが襲ってくる。
彼と別れたくない。まだ二人で一緒にいたい。あれやこれや、とりとめもなく話していたい。出来れば朝まで・・・。
そんな気さえした。
だが同時に、妙な気分に襲われる。

(こんなところをアンソニーが見たら、どう思うかしら)

そう考えたら、いても立ってもいられなくなった。
心臓がドクンドクンと音を立てる。
見ているのは月だけ。他には誰もいない。
だからきっと、みつかりはしないだろう。
この闇夜に心から感謝した。

信じられないような、相反する二つの気持ち。
一方はテリィを求め、ここに引き止めようとする。
だがもう一方は、アンソニーの目を気にして、彼をここから遠ざけようとする。
一体どちらが本物?
いや、もしかしたら両方が本心なのかもしれない。
ならば、どう振る舞えばいいんだろう。


その瞬間、キャンディの心配をよそに、テリィは別れのキスをしようと身をかがめてきた。

「ダメよ!人目につくわ」

驚いて、思わずテリィの腕を振り払ってしまった。
その直後、ハッとする。

(私ったら、なぜこんなことするの?彼はプロポーズまでしてくれたのに・・・)

素直に真心に答えられない自分が悔しくて、苦しそうに顔をゆがめた。

「どうしたんだ、キャンディ。なぜそんな哀しそうな顔をする?」

テリィもまた、途方に暮れていた。
キスを拒まれただけではなく、キャンディがこんなに哀しい顔になってしまったことが、ショックだったのだ。

「どうかしてるの、私。今日は、あまりにびっくりすることがあったからだわ、きっと。気にしないで」
「ならいいけど。あんまり心配させるなよ」
「ごめんなさい」
「近いうちに必ず来る。そのときこそ、いつもの君でいてくれよな」
「大丈夫よ」

そして二人は別れた。
だがテリィは引っかかって仕方ない。
腑(ふ)に落ちないものを感じながら、不安な気持ちでシカゴへの帰途についた。