(初出:2019年5月25日)
ここは一体どこだろう?
こじんまりした家の窓辺。
後れ毛を揺らす風のささやきが聞こえる。
陽だまりに包まれてキャンディはまどろんでいた。
どこからか聞こえてくる懐かしい優しい声。
「・・・ディ、キャンディ・・・」
目を覚ますとすぐ近くにはスイートキャンディの花束を抱えた白いスーツのアンソニーが立っている。
「アンソニー、生きていたのね!死んだなんて嘘だったのね」
たまらなくなってキャンディは駆け寄る。
もう二度と大好きな人の姿を見失うことがないように。
こじんまりした家の窓辺。
後れ毛を揺らす風のささやきが聞こえる。
陽だまりに包まれてキャンディはまどろんでいた。
どこからか聞こえてくる懐かしい優しい声。
「・・・ディ、キャンディ・・・」
目を覚ますとすぐ近くにはスイートキャンディの花束を抱えた白いスーツのアンソニーが立っている。
「アンソニー、生きていたのね!死んだなんて嘘だったのね」
たまらなくなってキャンディは駆け寄る。
もう二度と大好きな人の姿を見失うことがないように。
だが気づくと、この瞬間までいたはずのアンソニーは消え、代わりに立っているのは丘の上の王子様。
「王子様、アンソニーはどこ?」
「王子様、アンソニーはどこ?」
今にも泣き出しそうなキャンディを、王子様は何も言わずに見つめるだけ。
心なしか悲しげなその表情が何を伝えたいのか、キャンディにはすぐ分かった。
心なしか悲しげなその表情が何を伝えたいのか、キャンディにはすぐ分かった。
――やっぱりアンソニーは――
もう帰ってこない。もう会えない。
絶望の淵に追いやられたとき、ものすごい衝撃が体中に走った。
「キャンディ、どうしたんだ!」
誰かが体を激しく揺すっている。
目を開けると一番初めに飛び込んできたのはアーチーの顔。
どうやら夢を見ていたらしい。
「すごい汗だよ。一体どうしたんだい?怖い夢でも見てたの?」
今度はステアの声だった。
二人が声をかけてくれたおかげで、やっと頭が覚醒した。
ここはいつもみんなで遊んでいる湖のほとり。
小春日和にまどろんでいたら、いつの間にか眠ってしまったらしい。
そうしたらあんな悪夢を・・・。
悪夢?そうよ、夢よね?
まさか本当にアンソニーが――!?そんなのイヤ。絶対にイヤ!!
不安になったキャンディは、また夢か現(うつつ)か分からなくなり、今にも食いつきそうな勢いでアーチーに尋ねた。
「アンソニーはどこ?ちゃんと元気にしてるわよね?」
「アンソニー」の名を耳にした途端、アーチーの瞳は不満げに揺れた。
「元気に決まってるじゃないか。いや、僕が思うに少々元気すぎやしないかな。きっと今頃『誰かさん』と・・・」
そう言いかけたとき、お目当ての人物が息せき切って走ってきた。
「ごめん、遅れちゃって。待たせたかな」
「10分の遅刻だぞ!午後の時間をみんなで過ごそうって言い出したのはアンソニーなんだから、張本人が遅れちゃ困るなあ」と茶目っ気たっぷりにウィンクするステア。
その横でアーチーはムッとした顔で仁王立ちしている。
ただ一人キャンディだけが、「ああアンソニー良かった、無事で。私、おかしな夢を見ちゃって心配してたのよ」とホッとしたように微笑んだ。
その健気な姿がアーチーの嫉妬心に火をつけた。
「アンソニー、ちょっと話があるんだ。一緒に来てくれないか」
「え?ここで聞くんじゃダメなのかい?」
「ダメだね」
唇をギュッと結んで難しい顔をしているアーチーを見て「これは何かある」と直観したアンソニーは、「キャンディ、すぐ戻るからもう少し待ってて」と言い残し、アーチーと連れ立っていく。
「なんだいアーチーの奴、わざわざアンソニーを連れ出して。心配だからついてってみるよ」とステア。
「私も行くわ」と食い下がるキャンディに、「女の子は首を突っ込まないの!」とステアは優しく言い含めた。
もう帰ってこない。もう会えない。
絶望の淵に追いやられたとき、ものすごい衝撃が体中に走った。
「キャンディ、どうしたんだ!」
誰かが体を激しく揺すっている。
目を開けると一番初めに飛び込んできたのはアーチーの顔。
どうやら夢を見ていたらしい。
「すごい汗だよ。一体どうしたんだい?怖い夢でも見てたの?」
今度はステアの声だった。
二人が声をかけてくれたおかげで、やっと頭が覚醒した。
ここはいつもみんなで遊んでいる湖のほとり。
小春日和にまどろんでいたら、いつの間にか眠ってしまったらしい。
そうしたらあんな悪夢を・・・。
悪夢?そうよ、夢よね?
まさか本当にアンソニーが――!?そんなのイヤ。絶対にイヤ!!
不安になったキャンディは、また夢か現(うつつ)か分からなくなり、今にも食いつきそうな勢いでアーチーに尋ねた。
「アンソニーはどこ?ちゃんと元気にしてるわよね?」
「アンソニー」の名を耳にした途端、アーチーの瞳は不満げに揺れた。
「元気に決まってるじゃないか。いや、僕が思うに少々元気すぎやしないかな。きっと今頃『誰かさん』と・・・」
そう言いかけたとき、お目当ての人物が息せき切って走ってきた。
「ごめん、遅れちゃって。待たせたかな」
「10分の遅刻だぞ!午後の時間をみんなで過ごそうって言い出したのはアンソニーなんだから、張本人が遅れちゃ困るなあ」と茶目っ気たっぷりにウィンクするステア。
その横でアーチーはムッとした顔で仁王立ちしている。
ただ一人キャンディだけが、「ああアンソニー良かった、無事で。私、おかしな夢を見ちゃって心配してたのよ」とホッとしたように微笑んだ。
その健気な姿がアーチーの嫉妬心に火をつけた。
「アンソニー、ちょっと話があるんだ。一緒に来てくれないか」
「え?ここで聞くんじゃダメなのかい?」
「ダメだね」
唇をギュッと結んで難しい顔をしているアーチーを見て「これは何かある」と直観したアンソニーは、「キャンディ、すぐ戻るからもう少し待ってて」と言い残し、アーチーと連れ立っていく。
「なんだいアーチーの奴、わざわざアンソニーを連れ出して。心配だからついてってみるよ」とステア。
「私も行くわ」と食い下がるキャンディに、「女の子は首を突っ込まないの!」とステアは優しく言い含めた。
五分ほど歩いてキャンディと十分距離を取ったことを確認すると、アンソニーは怪訝そうな顔で「一体どうしたのさ?」と切り出す。
まだムッとしたままのアーチーは、なかなかアンソニーを見ようとしない。
あさっての方角を見たまま腕組みをしている。
たまりかねたステアが「黙ったままじゃ分からないよ。文句があるならちゃんと言わないと」と、弟をたしなめる。
「同感だね」
そう言うなり、アンソニーは珍しくギラギラした目でアーチーを睨みつけた。
「じゃあ言わせてもらうけど、キャンディを心配させて一体どこへ行ってたんだ。どうせイライザと遠乗りだろ?」
図星だけに一瞬アンソニーはひるんだが、それでも負けてはいない。
「新種のバラを一株分けてくれる人がいるっていうんで彼女について行ったんだ。でも嘘だったよ」
「それ見たことか!大体ねぇ、バラとイライザとキャンディと・・・お前はどれが一番大切なんだ?僕ならキャンディを放ったままイライザと二人っきりで出かけたりしない」
「よく言うよ~。僕を責める資格なんてあるのかい?自分だってアニーにいい顔してるじゃないか」
「イライザと仲良く遠乗りするような奴に言われたくないね」
「だから言っただろ。僕だって好き好んで一緒に出かけたわけじゃない。大体アーチーは気が多いんだよ。キャンディと出会う前、何人の女の子と付き合ったか覚えてるのか?二股三股も珍しくなかったよな。忘れたとは言わせないぞ」
「あれはからかっただけの話さ。本気だったんじゃない。でもキャンディだけは違う」
「どこがどう違うんだ」
「キャンディは特別な子なんだ。僕はマジで想ってる」
「分かるもんか。所詮彼女だって大勢いる女の子の一人に決まってる。僕には未来永劫、キャンディ一人しかいないけどね」
「じゃあイライザは何なんだ」
「あれは向こうが勝手に・・・」
「なら、はっきり断ればいいじゃないか。嫌いなら悩むことないだろう。両方にいい顔するなんて、男として最低だぜ」
「その台詞、そっくりそのまま返すよ。お前こそアニーに興味ないならはっきり断れ。いつまでも鼻の下を伸ばしてないでさ」
「何をーー!」
「やるか?相手になってやってもいいんだぜ」
「望むところだ!」
一歩も引かない二人の顔は真剣そのもので、いつ取っ組み合いの喧嘩が始まっても不思議ではない状況だ。
慌てたステアが必死の仲裁に入る。
「いい加減にしないか二人とも。全く・・これだからアードレー家の男は血の気が多いって言われるんだ。先ずはアンソニー、お前はキャンディとステディになったんだろ?理由はどうあれ、いつまでもイライザに振り回されてちゃダメだ。言うべきときにはガツンと言わないと。それからアーチー、お前も!キャンディのことは諦めたんだよな?それなら男らしくすっぱり身を引け」
ステアが説得したから事なきを得たが、それでも怒りが収まらないらしく、互いを睨みつけたまま火花をバチバチ散らす。
まだムッとしたままのアーチーは、なかなかアンソニーを見ようとしない。
あさっての方角を見たまま腕組みをしている。
たまりかねたステアが「黙ったままじゃ分からないよ。文句があるならちゃんと言わないと」と、弟をたしなめる。
「同感だね」
そう言うなり、アンソニーは珍しくギラギラした目でアーチーを睨みつけた。
「じゃあ言わせてもらうけど、キャンディを心配させて一体どこへ行ってたんだ。どうせイライザと遠乗りだろ?」
図星だけに一瞬アンソニーはひるんだが、それでも負けてはいない。
「新種のバラを一株分けてくれる人がいるっていうんで彼女について行ったんだ。でも嘘だったよ」
「それ見たことか!大体ねぇ、バラとイライザとキャンディと・・・お前はどれが一番大切なんだ?僕ならキャンディを放ったままイライザと二人っきりで出かけたりしない」
「よく言うよ~。僕を責める資格なんてあるのかい?自分だってアニーにいい顔してるじゃないか」
「イライザと仲良く遠乗りするような奴に言われたくないね」
「だから言っただろ。僕だって好き好んで一緒に出かけたわけじゃない。大体アーチーは気が多いんだよ。キャンディと出会う前、何人の女の子と付き合ったか覚えてるのか?二股三股も珍しくなかったよな。忘れたとは言わせないぞ」
「あれはからかっただけの話さ。本気だったんじゃない。でもキャンディだけは違う」
「どこがどう違うんだ」
「キャンディは特別な子なんだ。僕はマジで想ってる」
「分かるもんか。所詮彼女だって大勢いる女の子の一人に決まってる。僕には未来永劫、キャンディ一人しかいないけどね」
「じゃあイライザは何なんだ」
「あれは向こうが勝手に・・・」
「なら、はっきり断ればいいじゃないか。嫌いなら悩むことないだろう。両方にいい顔するなんて、男として最低だぜ」
「その台詞、そっくりそのまま返すよ。お前こそアニーに興味ないならはっきり断れ。いつまでも鼻の下を伸ばしてないでさ」
「何をーー!」
「やるか?相手になってやってもいいんだぜ」
「望むところだ!」
一歩も引かない二人の顔は真剣そのもので、いつ取っ組み合いの喧嘩が始まっても不思議ではない状況だ。
慌てたステアが必死の仲裁に入る。
「いい加減にしないか二人とも。全く・・これだからアードレー家の男は血の気が多いって言われるんだ。先ずはアンソニー、お前はキャンディとステディになったんだろ?理由はどうあれ、いつまでもイライザに振り回されてちゃダメだ。言うべきときにはガツンと言わないと。それからアーチー、お前も!キャンディのことは諦めたんだよな?それなら男らしくすっぱり身を引け」
ステアが説得したから事なきを得たが、それでも怒りが収まらないらしく、互いを睨みつけたまま火花をバチバチ散らす。
キャンディのところへ戻ったあと、彼女を心配させまいと自制するにはしたが、それでも同い年の二人は腹の虫が治まらず、何だかしっくりいかない。
さすがのキャンディもいつもと様子が違うことに気づき、不安げに問いかけた。
さすがのキャンディもいつもと様子が違うことに気づき、不安げに問いかけた。
「ねえアンソニーにアーチー、二人とも何だか変よ。一体どうしたの?」
勘づかれたかと少々驚き顔のアンソニーが「別にどうもしないさ。なあ?」とアーチーに目をやる。
「あ?ああ、どうもしないよ」と、そっけなく返すアーチー。
だが二人ともまともに目を合わせようとしない。
「やっぱり怪しいわ。何かあるわね。私には言えないこと?」
空気が読めないキャンディは傷口を深くするような無神経な質問を続け、その場の雰囲気を凍りつかせた。
「まあまあ、今日のところはこのくらいにしないか?何だか寒くなってきたしさ。ボート遊びは明日にしよう・・・な?」
必死で取り繕おうとするステアの声が空しく響き渡る。
「だって今会ったばかりじゃないの。このまま解散するなんて・・・」
寂しそうに三人を見上げるキャンディが可哀想になり、アンソニーが頭をポンポンしようとした瞬間、鬼の形相でアーチーが遮る。
「キャンディ、屋敷に戻ろう!兄貴の言うとおり風が冷たくなってきたよ。風邪でも引いたら大変だ」
そう言いながらキャンディの手を引いて歩き出す。
「ちょ…ちょっと待てよ」
慌てて割り込もうとするアンソニーの肩を掴むと、ステアは頭を左右に振った。
「今日のところは丸く収めようぜ」
穏やかな声がそう諭すからアンソニーは足を止めざるを得ない。
一方のキャンディは、アーチーに引っ張られながら何度も何度もアンソニーを振り返っていた。
勘づかれたかと少々驚き顔のアンソニーが「別にどうもしないさ。なあ?」とアーチーに目をやる。
「あ?ああ、どうもしないよ」と、そっけなく返すアーチー。
だが二人ともまともに目を合わせようとしない。
「やっぱり怪しいわ。何かあるわね。私には言えないこと?」
空気が読めないキャンディは傷口を深くするような無神経な質問を続け、その場の雰囲気を凍りつかせた。
「まあまあ、今日のところはこのくらいにしないか?何だか寒くなってきたしさ。ボート遊びは明日にしよう・・・な?」
必死で取り繕おうとするステアの声が空しく響き渡る。
「だって今会ったばかりじゃないの。このまま解散するなんて・・・」
寂しそうに三人を見上げるキャンディが可哀想になり、アンソニーが頭をポンポンしようとした瞬間、鬼の形相でアーチーが遮る。
「キャンディ、屋敷に戻ろう!兄貴の言うとおり風が冷たくなってきたよ。風邪でも引いたら大変だ」
そう言いながらキャンディの手を引いて歩き出す。
「ちょ…ちょっと待てよ」
慌てて割り込もうとするアンソニーの肩を掴むと、ステアは頭を左右に振った。
「今日のところは丸く収めようぜ」
穏やかな声がそう諭すからアンソニーは足を止めざるを得ない。
一方のキャンディは、アーチーに引っ張られながら何度も何度もアンソニーを振り返っていた。