ここはレイクウッドのアードレー家。
大広間でクリスマスの立食パーティーが開かれている。
聖夜に招かれた特別なゲストたちはラガン一家を始めとする少数のアードレー一族とブライトン一家、それについ先日レイクウッドを訪れたアンソニーの父・ヴィンセント。
招待客の数こそ少ないが、豪華なディナーはキャンディが養女になったお披露目の席以来だろう。
上座のエルロイを中心にヴィンセントとラガン夫妻、反対側にブライトン夫妻や親族たちが控え、それぞれの子供たちが続く。
エルロイから一番離れた位置にいるキャンディはお披露目のときと同じ緑のイブニングをまとい、胸元にはローズマリーのブローチ。
エメラルドのそれは遠目にも圧倒的な存在感を放っている。
そして彼女の隣にはアンソニー。
エルロイやラガン兄妹から護るかのようにぴったり寄り添ってくれている。
おかげでイライザはキャンディに手を出せない。
それがかなりのストレスな上、見たこともない美しいブローチがイライザは気になって仕方ない。
怒りと嫉妬がないまぜになってイライラは極点に達していた。
(あのブローチ、一体どうしたのかしら。すごく高そう。豪華なのに嫌味がなくて上品だわ。キャンディが着けるなんて勿体なさすぎよ。もしかして大おじ様からの贈り物だったりして・・・)
まとわりつくような視線が気味悪くてキャンディは食事が喉を通らない。
新鮮な食材をふんだんに使ったディナーが台無しだ。
最後はげんなりして大きなため息をついた。
そこにアンソニーの優しい声。
へこんだときにいつもかばってくれる彼がいるから、この世界でも生きていける。
キャンディはホッとしたように青い瞳を見つめた。
「イライザなんか気にするな。何を企んでようが、僕が絶対護るから安心して」
「ありがとう」
嬉しくて涙が出そうになる。
アンソニーは自分の右手をキャンディの左手にそっと重ねてウィンクした。
食事が下げられたあとは恒例のダンスタイムに。
室内楽カルテットの生演奏が始まり、それぞれにパートナーを選んで一曲目のワルツを踊る。
「お嬢さん、僕と踊っていただけますか?」
誰よりも早く手を差し伸べるアンソニーに、「喜んで!」とキャンディは微笑み返す。
思い切り「お嬢様」っぽく応えたつもりだが、やはりしっくりこない。
照れ隠しに頭をポリポリ掻くと、アンソニーは「あはは」と小さな笑い声を上げた。
「やっぱり君はお嬢様って感じじゃないね」
「まあひどいわ!レディに向かってそんなこと言うなんて」
ぷーっと頬を膨らませて抗議する。
その顔と大人っぽい緑のイブニングがあまりに不釣り合いなので、無性に可愛く思えた。
(初出:2019年1月14日)
拙作は、「FINAL STORY」でアーチーが、「アンソニーは優しい奴だったが、同い年のアンソニーとはケンカもした」という趣旨の発言をしているところからヒントを得ました。
一体どんなことでケンカしたんだろう?
あの二人、一旦火がついたら、結構激しそう(^_^;)
二人のファンである私は、「アンソニーVSアーチー」にかなり興味を持ちました。
これまで書かれてきたVSネタのトップは圧倒的に「アンソニーVSテリィ」でしたから、たまにはマイナーテーマもいいかな・・・ということで、半ば強引に掲載させていただきます(爆)!
興味のある方だけお付き合い下さいませ♪
誰にも気づかれないように彼女の頬を一瞬つかんで横に引っ張ってみる。
まるでマシュマロみたいに柔らかい。
「もう!アンソニーったら子ども扱いして~」
「ごめんごめん。つい触ってみたくなっちゃって。でもこれだけは言わせてほしい。キャンディはお嬢様なんかじゃないよ。君はもっと自由でしなやかな女の子なんだ。雑草みたいな強さが僕は好きだよ」
聞いた途端、キャンディの頬は真っ赤になり、頭にカーッと血が上った。
嬉しいやら恥ずかしいやらでアンソニーの顔をまともに見れない。
「からかってごめん。お詫びに君の気が済むまでダンスの相手をするから」
まだはにかんで俯いているキャンディの腰に手を回し、「ほら、下を向いたままじゃ踊れないよ。僕の顔を見て」と言いながら、アンソニーは優しくリードしてくれた。
二人がいい雰囲気になっているのが気が気でないイライザは、嫉妬に怒り狂った目でキャンディを睨みつけている。
状況を察し、気を利かせたステアが爆発寸前のイライザを嫌々エスコートする。
「またあなたが相手なの?はっきり言って嫌なんだけど。まだ壁の花になってたほうがマシだわ。あそこにつっ立てる存在感ゼロのアニーみたいにね」
イライザは馬鹿にしたような視線をブライトン家の一人娘に注ぐ。
(壁の花のほうがマシだって?そのセリフ、そっくりそのまま君に返すよ)
ステアは目を合わそうともせず、フーっと深いため息をついた。
ひとりぼっちのアニーにダンスの相手を申し出たのはアーチー。
「今夜はようこそアードレー家のパーティーへ。また会えて嬉しいよ」
柔らかい笑みを浮かべるマリンブルーの瞳が眩しすぎて、「私こそ光栄ですわ」と返すのが精いっぱい。
女の子の扱いに慣れている優雅な身のこなしに導かれてアニーは夢見心地になっていた。
(キャンディ、今僕が手を取っている相手が君だったらどんなにいいだろう。そのためなら本気でアンソニーと争ってもいいって、ついこの前まで思ってた。でもそれは違うと教えてくれたのはアンソニー自身だったんだ。それにあそこにいるヴィンセントおじさん。だから僕は潔く身を引くよ。いつまでも君とは大切な友達でいたいからね)
アーチーの鼓動が聞こえるほどそばにいられる幸せにアニーは気を失いそうだったので、彼の目に切ない想いが見え隠れしていることに気づくはずもなかった。
アニーと踊っているアーチーを見てキャンディは思う。
(この前言ってた「好きな女の子」って、もしかしてアニーじゃないかしら?ええ、きっとそうよ!だとしたら、いつか私がキューピットになる日が来るかもしれないわね。二人の恋が実るように頑張らなくちゃ)
アーチーとアニーが恋人同士になって仲睦まじく見つめ合う姿を想像したら、我知らず顔がほころんだ。
「なんだかご機嫌だね。そんなに楽しい?僕と一緒にいると」
冗談交じりで笑うアンソニーを見上げ、キャンディは「勿論よ!」と胸を張る。
「それは良かった。ところでそのブローチ、とてもよく似合ってるよ。今夜のドレスにぴったりだ。緑色の瞳にもね」
胸元のリボンに重ねて付けられたエメラルドのブローチは効果的なアクセントになって人目を引きつける。
「お母様の大切な形見だもの。私、一生大切にするわ」
キャンディはブローチに右手を添え、愛しげに見つめる。
「ありがとう。母が聞いたらきっと喜ぶよ。今も生きてたら、君の一番の理解者になったと思う」
「私も是非お会いしたかったわ。でもこのブローチを身に着けてると、不思議にお母様と一緒に過ごしている気分になるの。それにあなたにはまだお父様がいらっしゃるでしょ?私たちを心から応援してくださる、それこそ一番の理解者だわ」
「そうだね。この前のパリ土産も、君の目の色を手紙で伝えたら、ぴったり似合うのを選んでくれたんで驚いたよ」
「ホントに素敵な帽子だわ。初めてお会いしたのにあんなに高価な贈り物・・・。感謝してもしきれないわ」
アンソニーとキャンディは少し離れたところに立っているヴィンセントに軽く会釈し、にっこりほほ笑んだ。
丁度こちらを見ていたヴィンセントはすぐ二人に気づき、手を挙げて微笑み返してくる。
「でも私、さっき大おば様に言われたことが不安で仕方ないの」
「ウィリアム大おじ様の命令?」
「ええ」
「大丈夫。何とかなるさ。っていうか、僕ら三人が何とかするから心配しないで」
「ホントに?」
「勿論さ。君と離れ離れになるなんて考えられないからね。ステアとアーチーも同じ考えだと思うよ」
アンソニーが言い終わった途端に音楽が止み、間もなく次の演奏が始まった。
パートナーが変わる。
アンソニーの手を放すのが辛くてしばしサファイアの瞳を見つめていたら、気持ちを察したのかアンソニーはキャンディの腰に手を回し、ほんの一瞬だけ自分のほうへ引き寄せた。甘い声がそれに続く。
「次のパートナーはアーチーだよ。楽しんでおいで」
振り返ると柔らかいマリンブルーの瞳が微笑んでいる。
「僕のお姫様、しばしお付き合いください」
「私で良ければ喜んで」
おどけてお辞儀するキャンディに、アーチーも笑う。
(キャンディ、これから僕は本物の騎士(ナイト)になるよ。もう君に恋したりしない。僕のものにしようって考えたりもしない。だって君にはアンソニーがいるから)
アンソニーとアーチーの衝突、それぞれの想いと決心、ローズマリーのブローチ、大おじ様の命令――
それらがどんな流れで今夜のパーティーに繋がるのか、少しだけ時を遡ってみよう。
まるでマシュマロみたいに柔らかい。
「もう!アンソニーったら子ども扱いして~」
「ごめんごめん。つい触ってみたくなっちゃって。でもこれだけは言わせてほしい。キャンディはお嬢様なんかじゃないよ。君はもっと自由でしなやかな女の子なんだ。雑草みたいな強さが僕は好きだよ」
聞いた途端、キャンディの頬は真っ赤になり、頭にカーッと血が上った。
嬉しいやら恥ずかしいやらでアンソニーの顔をまともに見れない。
「からかってごめん。お詫びに君の気が済むまでダンスの相手をするから」
まだはにかんで俯いているキャンディの腰に手を回し、「ほら、下を向いたままじゃ踊れないよ。僕の顔を見て」と言いながら、アンソニーは優しくリードしてくれた。
二人がいい雰囲気になっているのが気が気でないイライザは、嫉妬に怒り狂った目でキャンディを睨みつけている。
状況を察し、気を利かせたステアが爆発寸前のイライザを嫌々エスコートする。
「またあなたが相手なの?はっきり言って嫌なんだけど。まだ壁の花になってたほうがマシだわ。あそこにつっ立てる存在感ゼロのアニーみたいにね」
イライザは馬鹿にしたような視線をブライトン家の一人娘に注ぐ。
(壁の花のほうがマシだって?そのセリフ、そっくりそのまま君に返すよ)
ステアは目を合わそうともせず、フーっと深いため息をついた。
ひとりぼっちのアニーにダンスの相手を申し出たのはアーチー。
「今夜はようこそアードレー家のパーティーへ。また会えて嬉しいよ」
柔らかい笑みを浮かべるマリンブルーの瞳が眩しすぎて、「私こそ光栄ですわ」と返すのが精いっぱい。
女の子の扱いに慣れている優雅な身のこなしに導かれてアニーは夢見心地になっていた。
(キャンディ、今僕が手を取っている相手が君だったらどんなにいいだろう。そのためなら本気でアンソニーと争ってもいいって、ついこの前まで思ってた。でもそれは違うと教えてくれたのはアンソニー自身だったんだ。それにあそこにいるヴィンセントおじさん。だから僕は潔く身を引くよ。いつまでも君とは大切な友達でいたいからね)
アーチーの鼓動が聞こえるほどそばにいられる幸せにアニーは気を失いそうだったので、彼の目に切ない想いが見え隠れしていることに気づくはずもなかった。
アニーと踊っているアーチーを見てキャンディは思う。
(この前言ってた「好きな女の子」って、もしかしてアニーじゃないかしら?ええ、きっとそうよ!だとしたら、いつか私がキューピットになる日が来るかもしれないわね。二人の恋が実るように頑張らなくちゃ)
アーチーとアニーが恋人同士になって仲睦まじく見つめ合う姿を想像したら、我知らず顔がほころんだ。
「なんだかご機嫌だね。そんなに楽しい?僕と一緒にいると」
冗談交じりで笑うアンソニーを見上げ、キャンディは「勿論よ!」と胸を張る。
「それは良かった。ところでそのブローチ、とてもよく似合ってるよ。今夜のドレスにぴったりだ。緑色の瞳にもね」
胸元のリボンに重ねて付けられたエメラルドのブローチは効果的なアクセントになって人目を引きつける。
「お母様の大切な形見だもの。私、一生大切にするわ」
キャンディはブローチに右手を添え、愛しげに見つめる。
「ありがとう。母が聞いたらきっと喜ぶよ。今も生きてたら、君の一番の理解者になったと思う」
「私も是非お会いしたかったわ。でもこのブローチを身に着けてると、不思議にお母様と一緒に過ごしている気分になるの。それにあなたにはまだお父様がいらっしゃるでしょ?私たちを心から応援してくださる、それこそ一番の理解者だわ」
「そうだね。この前のパリ土産も、君の目の色を手紙で伝えたら、ぴったり似合うのを選んでくれたんで驚いたよ」
「ホントに素敵な帽子だわ。初めてお会いしたのにあんなに高価な贈り物・・・。感謝してもしきれないわ」
アンソニーとキャンディは少し離れたところに立っているヴィンセントに軽く会釈し、にっこりほほ笑んだ。
丁度こちらを見ていたヴィンセントはすぐ二人に気づき、手を挙げて微笑み返してくる。
「でも私、さっき大おば様に言われたことが不安で仕方ないの」
「ウィリアム大おじ様の命令?」
「ええ」
「大丈夫。何とかなるさ。っていうか、僕ら三人が何とかするから心配しないで」
「ホントに?」
「勿論さ。君と離れ離れになるなんて考えられないからね。ステアとアーチーも同じ考えだと思うよ」
アンソニーが言い終わった途端に音楽が止み、間もなく次の演奏が始まった。
パートナーが変わる。
アンソニーの手を放すのが辛くてしばしサファイアの瞳を見つめていたら、気持ちを察したのかアンソニーはキャンディの腰に手を回し、ほんの一瞬だけ自分のほうへ引き寄せた。甘い声がそれに続く。
「次のパートナーはアーチーだよ。楽しんでおいで」
振り返ると柔らかいマリンブルーの瞳が微笑んでいる。
「僕のお姫様、しばしお付き合いください」
「私で良ければ喜んで」
おどけてお辞儀するキャンディに、アーチーも笑う。
(キャンディ、これから僕は本物の騎士(ナイト)になるよ。もう君に恋したりしない。僕のものにしようって考えたりもしない。だって君にはアンソニーがいるから)
アンソニーとアーチーの衝突、それぞれの想いと決心、ローズマリーのブローチ、大おじ様の命令――
それらがどんな流れで今夜のパーティーに繋がるのか、少しだけ時を遡ってみよう。