BAD WEATHER NICE WEATHER 

初出 2005年4月19日

 

あっこさんの文才が冴え渡る逸品です♪
アンソニーファンの皆様のために、わざわざ書いていただきました。(ちなみにご本人はアルバートさんのファンです)
きつね狩りの日に、もし雨が降っていたら、アンソニーとキャンディの運命は・・・!?

 

 

 


その日、アンソニーは目を覚ますと真っ先にカーテンを開いて外を見た。
「雨か・・・・」
ひどく残念に思って、不満たっぷりに呟いた自分が可笑しかった。

10日前までの自分ならこの日は雨が降る事を願っていた。でも、今は違った。毎年恒例の一族の集う『狐狩り』に晴れることを願ったのは初めての事だった。

『狐狩り』、馬を操り犬を駆り立て野生の狐を仕留める、残酷なイギリス貴族の遊び。実際は貴族でもなんでもないアードレー家。ましてやここはアメリカ。
(楽しむために悪戯に動物の命を弄ぶなんて、何が上流階級だ・・・)
自分には到底理解できそうにない。だから毎年、この日は雨が降るように祈ってきた。しかし、覚えている限り不思議と雨だった事はない。そういう季節なのだ。

(せっかくのキャンディのお披露目なのに。)
晴れていたら、馬に乗ったキャンディをステアとアーチーと三人でエスコートするはずだった。そして、一番大きな狐を仕留めたヤツが午後のガーデンパーティーで彼女のダンスのパートナーを務める取り決めになっていた。そのためだけに、今年は心情を曲げても積極的に参加するつもりでいた。 
(しかし、我ながら現金だよなぁ・・・)
たかが、ダンスのパートナーである。しかし、相手がキャンディとなれば当然の事ながら話は違ってくるのである。

(去年、偶然見つけた大きな古狐の穴が役に立ちそうだったのに・・・・)
毎年、アンソニーは1人狐狩りの喧騒を離れて森の奥で馬を走らせ、時間を潰していた。その時に見かけた大きな狐の後をつけていって巣穴を見つけたのだった。もちろん誰にも教えてはいない。



軽いノックの音がして、現実に引き戻された。
「アンソニー、起きてるか?ついてないよなぁ。よりによって雨ときたもんだ。」
アーチーが入ってきた。
「一番大きな狐を仕留めてみせれば、間違いなくキャンディのハートは僕のものだったのに・・・・・・」
目の前で、アーチーが肩をすぼめておどけて見せた。
「アーチー、寝言は、寝てる時に言うもんだ。」
怪しい機械を手にステアも入ってきた。
「何、それ?」
アンソニーとアーチーが怪訝そうな顔でステアに訊いた。
「良くぞ聞いてくれました!これぞ、『大狐探知機』!!せっかく徹夜で作ったのに雨だなんて・・・」
ステアが腕を両目に当てて、大袈裟に泣いているような仕草をした。
「相変わらずセンスのないネーミングだな。どうせ失敗作なんだから、恥かかなくて済んで良かったじゃないか。」
アーチーが意地悪くからかった。
「失礼な!これは、自信作なんだよ。失敗など断じてありえない!!」
「そんなこと、分かるもんか。」
ステアとアーチーのいつものじゃれ合いが始まった。

放っておくと長くなりそうだったので、アンソニーは仕方なくアーチーに来訪の理由を訊ねた。
「あ、そうだった。さっき小耳に挟んだんだけど、今日の『狐狩り』は当然中止。
で、代わりに今夜『リゾート イン ホテル』の大ホールでパーティーだそうだよ。」
アーチーが溜息混じりに言った。
「リゾート イン ホテルねぇ・・・・」
アンソニーはさらに大きな溜息を吐いた。
「今夜は、イライザから逃げられそうにないな。アンソニー。」
ステアが悪戯っぽく言った。
「ねぇ、ステア。今度『イライザ探知機』を作ってくれないか?」
冗談とも本気ともつかない声でアンソニーが呟いた。
「そんなもの無くても、彼女の方から寄ってくるから大丈夫だろう?」
アーチーが、小バカにしたように言ってのける。
「違うって!!、彼女から逃げるために必要なんだよ。」
アンソニーが、そう言いながらアーチーの頭を小突いた。

『リゾート イン ホテル レイクウッド』、夏には避暑を求め、冬には雪景色を楽しむ余裕のある者たちが集う、隠れ家的超一流リゾートホテル。ここの大ホールでパーティーを開くという事はステータス以外の何物でもない。何が問題かといえば、このホテルグループのオーナーがあのラガン氏であるということである。ラガン氏の経営には何の問題もないが、彼がイライザを溺愛しているという事がこの場合大問題なのである。

「アンソニー、ここは1つキャンディのために犠牲になってくれ。」
ステアがアンソニーの肩に手を掛け、大真面目な顔で言った。
「なんで、僕なんだよ。君たちだっていいじゃないか。」
膨れっ面でアンソニーが抗議する。それを受けて、アーチーが止めを刺す。
「彼女は、君にぞっこんなんだぜ。僕らじゃ役に立たないね。もし君が、今夜ずっとキャンディをエスコートなんてしてみろ。また、ある事ない事言ってキャンディを窮地に追い込むかもしれない。」
調子に乗ってステアも、先を続ける。
「いや、それどころか嫉妬のあまりキャンディの飲み物にコッソリと毒を盛らせるかもしれないぜ。あそこはイライザのテリトリーだからな。何を仕掛けてくるのか見当もつかない。」
「・・・・・・・・」
アンソニーは返す言葉が見つからなかった。さすがに毒を盛るという事はないだろうが、キャンディを窮地に追い込むような事をするのは目に見えていた。
「決まりだな。」
ステアがウィンクを投げてよこし、アーチーが大袈裟に頷いていた。アンソニーは、わざとらしく大きく溜息を吐くと、肩をすぼめてお手上げだねというように手を広げてみせた。
「今回だけだからな。次のパーティーでは僕1人でエスコートさせてもらうからね。」
2人に釘を刺すのは忘れなかった。
「次は次さ。」
しれっと答えるアーチーとステアに呆れるしかないアンソニーだった。



「おはよう。アンソニー、アーチー、ステア。せっかくの狐狩りなのに残念だったわね。」
開け放してあったドアからキャンディが顔を覗かせた。
「おはよう。君にとっておきの狐のマフラーをプレゼントするつもりだったんだけどね。」
アンソニー、アーチー、ステアが同時に笑顔で言った。
「毛糸のマフラーでも十分に暖かいのよ。私のために狐を犠牲にする必要なんてないわ。」
キャンディの言葉に3人は顔を見合わせて笑った。
「キャンディらしいね。」
アンソニーが柔らかい笑顔を向けた。真っ赤になったキャンディが、話を続けた。
「代わりに今夜ホテルでパーティーなんでしょう?今、大叔母様から聞いたの。ついでに『あなたの精進が足りないから雨になどなるのです。』って言われちゃった。でも、何匹もの狐の命を救えるのなら雨も悪くないわよね。」
「本当にそのとおりだね。」
アンソニーが、キャンディを見つめたまま言った。

そんな2人の様子に気を揉んだアーチーが耐え切れなくなって口火を切った。
「そのパーティーだけど、君のエスコートは僕と兄貴に任せてもらうよ。」
「えっ、アンソニーは?」
キャンディが少し寂しそうな表情(かお)をアンソニーに向けた。
「アンソニーには最重要任務についてもらうのさ。」
ステアがおどけて言った。アンソニーが後を続ける。
「せっかくの君の晴れ舞台を、イライザの邪魔で台無しにするわけにはいかないからね。不本意ながら、お目付け役として今夜は彼女のエスコートをするよ。また、ある事ない事言われて傷つく君を見たくないしね。」
「アンソニー・・・・・」
キャンディが、真直ぐにアンソニーを見つめた。アンソニーもこれ以上ないというくらいの優しい眼差しでキャンディを見つめ返した。相変わらずアーチーが複雑そうな表情(かお)で2人を見ていた。
「まぁ、イライザがイライザであったことのご褒美みたいなものさ。でなけりゃ、僕らは君に会えなかったんだからね。」
ステアが笑顔で言った。
「そりゃ、そうだ。」
そこにいた全員が声を立てて笑った。
「そうと決まれば、話は早い。今夜の君のコーディネートは僕に任せてよ。」
言うが早いかアーチーはキャンディの手を取ると、そのまま引きずるように部屋を出て行った。例の機械を持ったままステアも後に続いた。

アンソニーは、キャンディが自分と同じ価値感を持っていることを心から喜んでいた。そして、キャンディを守るためだったら、今夜イライザのエスコートをする事なんてなんでもないことのように思えて気持ちが軽くなった。



パタパタと足音をさせて、今しがたアーチーに引きずられていったばかりのキャンディが部屋に飛び込んできた。そしてそのままアンソニーの前まで来ると、呼吸を整えるように大きく深呼吸をして上気した頬のまま笑顔で言った。
「アンソニー本当にありがとう。イライザの事ごめんね。私、早くアンソニーの隣に立っても誰からも文句の言われないレディになるから・・・イライザの意地悪にも負けないくらいに強くなるから・・・。だから・・・だから、もう少しだけ待ってて。」
アンソニーは、そんなキャンディの言葉を何とも言えない想いで聞いていた。
そして、軽く腰を落としてキャンディと同じ目の高さになると、その愛して止まない緑の瞳をじっと見つめたまま溢れ出る想いを言葉にして告げた。
「キャンディ、そんなに急がなくていいよ。それに、強くならなくもていい。君の笑顔はこの先、僕が守る。イライザのエスコートは本当に今回だけだから、なにも心配いらないよ。その代り、次のパーティーからは、あの2人がなんと言おうと君のパートナーは僕だけだからね。」

突然の言葉に驚いて、呼吸をするのも忘れてしまったようなキャンディにそっと顔を近づけると、アンソニーは野ばらのような小さな唇に優しく触れるだけの接吻(くちづけ)をした。
「今のは、誓いの証だよ」
そう言って、真っ赤になったまま茫然と立ち尽くしているキャンディの手をとると、アンソニーは自分の部屋を後にした。
「さぁ、アーチーのところへ行こう。離れたところからでも君を簡単に見つけられるように、彼に『素敵なレディ』にコーディネートしてもらわなくちゃね。
それから、髪にはスイートキャンディを飾ってもらえるように頼んでみよう。」

アンソニーはしっかり前を見てキャンディの手を引いて力強く歩いていく。
キャンディが手を引かれたままアンソニーの後をついていく。


それはまるで、幸せな未来へと続く最初の一歩のように・・・・
 
~ Fin ~