アンソニーVSテリィ in 聖ポール学院  ~第1話~

初出連載期間 2005年11月9日~2006年3月22日

 

 

アンソニーファンのお客様へ→第1話から最終話まで、順番にお読みください
テリィファンのお客様へ→第1話から第9話のあと、「テリィ勝利編」へお進みください


リクエストが一番多かった「夢のイケメン対決(爆)」です。懐かしいメインキャラが活躍する、シンプルなラブストーリーを心がけました。
小難しい設定もオリジナルキャラも一切抜きですから、お気軽にどうぞ♪

 

 

テリィファンのお客様へ~拙作はアンソニーファンが書いておりますので、テリィのイメージを壊してしまう恐れがあります。
「それでもいいわ」という方のみ、お読みになって下さいましね。

この但し書を無視した結果の非難コメントにはレスできませんので、何卒ご了承くださいませm(__)m

 




その少年は金髪に青い瞳をしていた。
深い、深い青。宝石のように美しいサファイアブルー。

院長室で転入手続きを終え、自室へと向かう廊下の途中、前方から疾風のように現れた障害物に押し倒され、少年はもんどりうって倒れこんだ。

「誰だ、君は!いきなり人にぶつかって失礼じゃないか」
「ふん。ボヤボヤしてる方が悪いのさ。ちゃんと目は付いてるのかい?金髪の坊や」

怒り心頭に発して見上げると、栗色の髪をした少年が馬鹿にしたように笑っていた。

ここはロンドン。王立聖ポール学院。
これから一人の少女を巡って対立することを、二人はまだ知らない・・・





始業ベルが鳴り響き、男子生徒たちは渋い顔をしながら、イヤイヤ着席する。
一時間目はシスター・クライスのフランス語。

「あーあ、つまんねえな。外国語なんかやったって役に立たないって。自分の国の言葉もおぼつかないのに」
誰かが言ったぼやきが漏れ聞こえ、皆は苦笑した。
「全くだよな、兄貴・・・」
アーチーは、隣のステアに耳打ちして笑った。
ステアもたまらず、ぷっと吹き出す。

「皆さん、お静かに!五月祭はもうとっくに終わったんですよ。いつまでもお祭り気分でいてはダメです」
そう言って一呼吸おくと、シスターは次の台詞を続けた。
「今日はアメリカから来た転入生を紹介します。早くここの環境に慣れるよう、いろいろ指導してあげるように。いいですね?」

突然の前置きに驚いた生徒たちが、ヒソヒソ囁きあって教室は騒然とした。

「転入生だって?そんな話聞いてるか?」
「いや、全然」
「アメリカからっていえば、ステアとアーチーもそうだよな」

皆の視線が一挙に兄弟へと向けられたが、二人には身に覚えがなかった。
「兄貴、どうやら同郷がもう一人増えそうだぜ。楽しみだな」
「まあね」

「静かになさい!何度言えば分かるんですか。こんなこと位で騒ぐなんて、精神の修行が足りない証拠です。そんなことでは立派な紳士になれませんよ」
一喝してからシスターは、廊下に控える少年に入室するよう手招きした。
「さあ、入っていらっしゃい」

おもむろに姿を現した転入生の姿を見たとき、ステアもアーチーも心臓が止まりそうになった。

「ア、アンソニー!!」

叫んだのは二人同時だ。
予想通りの反応を確かめると、少年は面白そうに笑いながら、二人に向かって軽く右手を挙げた。

「初めまして。アメリカから来たアンソニー・ブラウンです」




そしてその日の午後、男子寮の裏庭は大騒ぎになった。

「おい、アンソニー。お前、今までどこでどうしてたんだよ。まさか天国から帰ってきたなんて、冗談言わないよな」
思いもよらぬ再会に驚いて、ステアもアーチーも目を白黒させている。
「いろいろあってね。ごめん、心配かけて」
「いろいろあって・・・じゃ、納得できないよ。一体何があった?話すまで許さないぜ」
アーチーの青い目がいたずらっぽく笑って、隣のステアも「さあ、打ち明け話の始まり始まり~」と、茶々を入れる。
ここまでされては仕方ないかと観念して、アンソニーはゆっくり話し始めた。

「シャルヴィ・・・知ってるだろ?シカゴの権益争いで、アードレー家と肩を並べてるフランス移民」
「当然!」
「危篤状態の僕が人目に触れると、都合が悪かったらしいよ。シャルヴィにつけこまれて」

こう切り出した後、アンソニーは今までの経緯をつぶさに話し始めた。
きつね狩りの後、ニューヨークの病院に隔離されたこと。そこで意識が回復し、記憶も戻り、やっとアードレー家に帰れる手はずになったこと。

「ああ、いやだいやだ、大人の世界は。そんな面倒臭いことしないで、さっさと返してくれればいいじゃないか、なあ?折角生きてたんだから。そうしたらキャンディだって、あんな奴とは・・・」
そこまで言って、アーチーは「しまった」という顔をした。
「あんな奴?」
不審な顔をするアンソニーを見て、兄弟は途方に暮れる。一度出てしまった言葉は、もう引っ込められないのだ。
どうしたものかと黙りこくっていると、じれたアンソニーが、もう一度聞いてきた。
「ねえ、『あんな奴』って、誰?」  
「つまりね・・・」
観念したようにステアが言うと、隣のアーチーが渋い顔で兄の肘をつつく。
「だって仕方ないじゃないか。お前がうっかり口を滑らせたんだから。ここまで言っといて秘密にするなんて、アンソニーがかわいそうだよ。だろ?」
兄の説得に折れたのか、アーチーは「それもそうだな」と、ため息をついた。

「いいか、アンソニー。落ち着いて聞いてくれ。今、キャンディには付き合ってる奴がいるんだ」
「え!?」
驚きを隠せず、のけぞるアンソニー。
「兄貴、ちょっと待った!僕は『二人が付き合ってる』なんて思わないぜ。認めたくもない」
「お前が何て思おうと、どうにもならん。事実は事実さ」
「だって証拠が無いじゃないか。ただ仲がいいだけかもしれないし」
「それで十分なんだよ。キャンディの様子を見てれば分かるだろ?あれはどう見たって奴にホの字・・・」

そこまで言いかけてステアはやめた。
ボーッとしたまま力なく立っているアンソニーには、もう兄弟の言い合いなど全く耳に入っていないのだろう。
「おい、アンソニー、大丈夫か?」
ガックリしている彼を気遣うように、ステアはそっと肩に触れた。
「え?あ、ああ。ごめん。ちょっとびっくりしただけだよ。そりゃそうだよな。僕は死んだことになってるんだから、仕方ないさ。彼女が他の男を好きになったって」
そう言うのがやっとだった。
「諦めるのは早い!直接キャンディに聞かなきゃ分からないじゃないか。とにかく会ってこいよ。話はそれからだ」
鼻息荒くアーチーが言うと、「確かに一理ある」と、ステアも同調する。

「どこに行けば彼女に会える?」
「そうだな・・・」

ステアは暫く考えてから、「先ずは僕たちでお膳立てするよ。キャンディを驚かせてやろう。誰が待ってるか、正体をばらさずに呼び出すんだ。そしたらきっと・・・」
「そうさ。いくらテリィのことがあったって、アンソニーが生きていたのを喜ばないわけ無いよ。それに・・・絶対お前を選ぶに決まってる!」
アンソニーを振り返って、アーチーは力強く言った。
「っていうか、もしお前を選ばなかったら、僕はがっかりだよ」

(だってそうじゃないか!相手がお前だから、僕はキャンディを諦めたんだ。テリィなんかに取られるためじゃない)
アーチーはひっそりと、秘めた思いを呼び起こした。

「だといいけどね」
力なく笑うアンソニーの髪を、6月の風が優しく撫でていく。

「ところでそいつ・・・キャンディが付き合ってる相手・・・なんていう名前?」
「テリュース・G・グランチェスター。みんな『テリィ』って呼んでる」
ステアが静かに答えると、「公爵子息で、嫌みなヤツさ」と、アーチーは吐き捨てるように言った。
「そう。貴族なの。テリィ・・・か」

名前を聞いて闘志が燃えたのか、アンソニーの青い目は、さっきよりずっと鋭い光を放って揺れた。
 


次の日の昼休み、キャンディは胸をワクワクさせて「にせポニーの丘」へやってきた。

「私を待ってる人って、一体誰かしら?」

はやる心を抑えられず、自然とスキップしていた。
脳裏には昨日の光景が浮かび上がる。
夕食の後、アーチーとステアの部屋の明かりが点滅し、「男子寮へ来られたし」の合図が届いたのだ。
いつものようにターザンよろしく、ロープを使っての空中飛行で二人の部屋へ飛び込んでみると、兄弟からのメッセージはこれ。

「キャンディ、明日の昼休みに、にせポニーの丘へ行ってごらん。びっくりするような人が君を待ってるよ」
意気揚々と言うアーチーにせっついてみる。
「びっくりするような人って?」
「それは会ってからのお楽しみ~♪」
ステアはからかうようにウィンクした。
「二人とも意地悪なのね。教えてくれたっていいじゃない!」
ほっぺをプーッと膨らませたキャンディだが、それはほんの一瞬。すぐ機嫌を直して屈託のない笑顔を見せた。
「でも許してあげる。だって楽しみは後に取っておいた方がいいもの」
兄弟は顔を見合わせると、ホッとした表情を浮かべた。

「それでね、一つだけ約束して欲しいんだけど」
言いにくそうにステアが切り出すと、キャンディは「なあに?」と先を促す。
「君一人だけで丘へ行って欲しいんだ。いつも一緒にいる『お連れさん』は抜きで」
「え?」
何のことかはっきり分からず、首を傾げるキャンディを見て、アーチーが駄目押しする。
「つまりね、テリィは絶対連れて行かないでくれってこと。あいつが一緒だとぶち壊しになるからさ」

見る見る険しい表情になっていくアーチーを見て、キャンディの胸は少し痛んだ。いつものことだから、もう慣れっこになってはいたが、それでも「彼」が毛嫌いされていることが悲しかったのだ。アーチーのテリィ嫌いはこの先もずっと続くのだろうか。
そんなことを思いながら、「しょうがないわね。分かったわ」とキャンディはため息をついた。



考え事で夢中になっていると小石につまずき、危うく体のバランスを崩す所だった。
風がサワーッと吹いてきて、熱に浮かされた頭を冷やしていく。

テリィが一緒にいると、何故ダメなのかしら?──兄弟の意図が分からず、段々不安になってくる。スキップの足も止まって彼女は考え込んだ。

するとその時、後ろから肩をポンと叩かれた。
「お嬢さん、随分楽しそうですね」

ちょっと気取った声。格式ばったアッパークラスアクセント。(注・イギリス上流階級の人が話す英語です)

(もしかして「彼」がびっくりするようなお客様なのかしら?)

期待に胸を膨らませて振り返ると、そこに立っていたのはテリィだった。

「たまには驚かせてやろうと思ってさ。誰だかわからなかっただろ?俺だって一応は貴族なんだ。アッパークラスアクセントくらい話せるんだぜ」

いつもと同じ澄んだgreenish blueの瞳。すました横顔。顔を縁取る栗色の髪。

「なあんだ、テリィか・・・」

彼の姿が目に入るといつもはすごく嬉しいはずなのに、今日だけは違った。
キャンディにとって、「びっくりするような人」は、それほど気になる存在だったのだろう。
肩透かしを食らったテリィはご機嫌斜め。

「なあんだ、とは、何だよ。声かけたのが俺じゃあ役不足か?」
「そんなんじゃないわ。ただ・・・」
「ただ、何なんだよ」

問い詰められて困ってしまう。
ステアとアーチーが念を押した「あの約束」をどうしても守りたいが、まさかテリィに向かって、「あなたが今ここにいると台無しになるの」とは言えない。
どうしたものか、返答に困ってウジウジしていると、またもやテリィが詰め寄る。

「まさか俺に隠し事してるんじゃないだろうな」
図星を指されてギクッとした。
正直者のキャンディは、すぐ顔に出てしまうのだ。
「やっぱりか。で、どんな隠し事?俺に隠れて誰かとここで会うとか?」
再びギクッとして、今度は口をパクパクさせてしまった。
勿論、言い訳の文句も出て気やしない。

「誰なんだよ、その相手。男か?」
ジリジリとにじり寄ってくるテリィの瞳には、嫉妬の炎がめらめら燃えている。

「テリィったらおかしいわ。まるで五月祭前のあなたみたい。アンソニーを目の仇にしていた頃の」
「そんな名前、聞きたくもないよ。やめてくれないか。死んだ奴のことをまた話題にするのは!」
「あなたこそやめてちょうだい。アンソニーを侮辱されたら、私・・・」
「君はまだあいつにこだわってるの?なら、もう一度言ってやる。アンソニーは死んだんだろ?落馬して死んだんだろ?」
「やめて!テリィ」

思わぬことから口論になってしまった。
その時、二人の背後へ静かに歩を進める人影があった・・・




サイト開設一周年記念の 「お祭」に用意した駄作です。
細かいことは気にせず、せんべえでもボリボリ食べながら読み流してくださると嬉しいです♪

拙作のモットーは二つ。
1.オリジナルキャラを出さない
2.分かりやすいお話にする

「バラの薫る季節に」を気に入ってくださっているお客様には、少々物足りない=子供っぽいかもしれません。上記のような趣旨で書きましたので、どうぞお許し下さいましね。
小難しいことは書かず、わけの分からないオリキャラは出さず、「全てのキャンディファンの皆様に御礼の気持ちを込めて」準備しました。少しでも気に入っていただけるよう、ひたすら祈りながら・・・

拙サイトにはテリィファンのお客様も沢山お越しくださるようですが、「バラの薫る季節に」にテリィは殆ど出ません(今のところ)。いつも申し訳なく思っていました。これで罪滅ぼしできることを願ってます。
そしてアルバートファンの皆様に初めからお詫びです(汗)。今回彼には「智恵袋・アドバイザー役」に徹してもらってます。ホントにごめんなさい!!お気を悪くされないで下さいねm(__)m

(以下は↓、先日「お知らせ&たわごと」に書いた内容と同じものです。未読のお客様のために念のため転載しました。よろしくです・・・)

皆さんが思い描く「学院対決」って、恐らくこんな感じじゃないでしょうか・・・
「アンソニーが死なずに普通に生きていて、キャンディと一緒に聖ポール学院へ。そこでテリィと出会い、彼らの三角関係が始まる。初めはテリィに懐疑的なキャンディだったが、段々惹かれていくようになり、遂には「アンソニーよりも好きになってしまった」ことに気づく。そんな頃、アメリカへ帰国の命令が出て、キャンディは決断を迫られることに・・・。さあ、アンソニーを選んで一緒にアメリカへ帰るか?それともテリィを選んでロンドンに残るか!?」

結末はどうなると思いますか?当然テリィの勝利です(*^_^*) 私ならそうしますです。だって、「既存のラブラブをかきまわす台風の目」が、絶対的に強い存在だからです。いわばアンソニーは守り、テリィは攻め。攻めた奴が勝つ方が面白いに決まってます。
とはいえ、「アンソニーが生きていたら、キャンディは他の男(テリィ)には見向きもしないはず」とおっしゃる方もいます。それもありか・・・と思いますが、私的にはやっぱりテリィ優勢です。彼には魅力があふれてますから!古狸であるアンソニーは、相当分が悪いでしょう(T_T)

で、拙作の場合・・・一応ここはアンソニーサイトですからね~^_^; アンソニーファンのお客様にも喜んでいただかないと、アップする意味がありません。最初から最後までテリィの独壇場だったら、そりゃ面白くないでしょう(笑)。少しくらいアンソニーにも活躍してもらわんと・・・
ってことで、「え~、こんな設定なの?」って感じのスタートになりました。オーソドックスな学院対決ではなくてごめんなさい。

あとは御馴染みのステア、アーチー、アニー、パティ、ニール、イライザの登場です。意地悪兄妹が出てくるってことは・・・(笑)。
そして勝敗の行方ですが、アンソニーサイトだからアンソニーが勝つとは限りません。
っていう一言で、今は勘弁して下さいましね~