アンソニーの記憶が戻って一夜明けた。
彼はいつもと変わらない朝を、自分の部屋で過ごしている。ただ一つのことを思いつめながら。 
ただ一つのこと──キャンディは明日、テリィと一緒にニューヨークへ行ってしまうこと。
それを考えると、やるせなくて、どうにかなりそうだ。
無力な自分が腹立たしくなってくる。
レイチェルに恩義さえなかったら、彼女と自分が無関係でさえあったなら、力ずくでもキャンディを奪うのに。

彼女と再会してからずっと考えてきたが、今やアンソニーは、はっきり知ってしまったのだ。「自分はレイチェルを愛しているのではない」と。
そんな本心を知ってか知らずか、部屋に入ってきたレイチェルは、こう切り出した。

「キャンディたち、明日ニューヨークへ行くんですってね。あの素敵な青年は、テリュース・グレアムだそうよ。いつだったか、一緒に彼の舞台を見たわよね?昨日一目見たとき、見覚えのある顔だと思ったけど、やっぱり有名人だったんだわ。それにしてもキャンディ、いつの間に知り合ったのかしら?テリィの婚約は、ものすごいニュースになるはずよ」

彼女はこの上なく嬉しそうだ。
これで晴れて厄介払いが出来る、という安堵の表情に満ちている。

「ねえアンソニー、記憶も戻ったことだし、私たち、レイクウッドを出てシカゴの本宅に行きましょうよ。そこで正式にお披露目してもらうの。アンソニー・ブラウンは、アードレー家へ戻ってきました、って」

アンソニー・ブラウン・アードレーが生還したと、盛大に発表してもらうことに、レイチェルはこだわっていた。
彼の花嫁となって社交界にデビューするのも、彼女の夢。
だがそれを打ち砕くかのように、アンソニーの答えは素っ気なかった。

「残念だけど、僕はもう、アンソニー・ブラウン・アードレーには戻らないよ」
「えっ!?でも大おば様やアルバートさんは、あなたをアードレー家に戻すために、わざわざ私たちをここへ呼んだんでしょ?」

意外な答えに、レイチェルはすっかり動揺してしまった。

「大おば様たちがどう思っていようと関係ないさ。僕は人形じゃないからね」

今日のアンソニーは、やけにとげとげしい。
言葉をかけても、いちいち跳ね返される。

「ちょっと出かけてくる」
「待って!私も一緒に・・・」
「悪いけど一人になりたいんだ。頼むから、そっとしといてくれ」

とりつく島もないほど、アンソニーは何かに苛立っている。こんな彼を見るのは初めてだ。

レイチェルは直観的にわかっていた。
彼の頭は、キャンディのことで一杯なのだ。
だがテリィの存在が自分たちを守ってくれると、心のどこかで信じていたかった。

(あなたがキャンディを好きなのは、よくわかってるわ。だけどそれも、今日でおしまいよ。明日になれば、彼女はテリュースと一緒に、遠いニューヨークへ行ってしまう。そうすれば、あなたも以前のように、私だけを見つめてくれるはず!)





バラの門を出てしばらく行くと、アーチーに会った。

「よお、大丈夫か?心配したんだぜ」
「ありがとう、なんとか生きてるよ。悪かったな、夕べはほとんど話が出来なくて。昔のことを思い出したら、真っ先にアーチーといろいろ話したいと思ってたんだけど」

アンソニーが申し訳なさそうな顔をする。

「それはこっちも同じさ。昔話が出来るのは、もうお前しかいないもんな」

二人は同時にステアのことを考えていた。
もしここに彼がいて、また三人で笑い合うことが出来たなら、どんなにか楽しいだろうに。

「なあ、ステアはどうして志願兵になったんだ?」
「僕にもわからない。いつからか兄貴は無口になって、物思いに耽ることが多くなってた。今思えば、あの頃から、戦争に行くことを考えてたのかもしれないな。気づかなかったなんて、弟失格だよ」
「仕方ないさ。いくら兄弟でも、心の奥までは見えないから」
「きっと兄貴は愛する人のために、平和な空を守りたかったんだと思う」
「かもしれないな。大空に散っていくなんて、いかにもステアらしいよ」

こんな身近なところにまで、戦争の影が忍び寄っているなんて!アメリカも、一体いつまで平和でいられるだろう。
いざというときには、自分も愛する人を守れるだろうか──そう思うと、アンソニーの心は揺れた。

「ステアに恋人はいたの?」
「いたよ。パトリシアっていう可愛い子だった。彼女は兄貴のことを心から愛してくれたし、兄貴だってパティを本当に大切にしてた。それなのに、なぜ・・・」
「愛してたからこそ、譲れなかったんじゃないか?この平和な世の中が、戦争で汚されていくのが。きっと彼女に見せたくなかったんだよ」
「そういう考え方もあるだろうな。人それぞれ、愛し方は違うってことだ。僕ならいつまでもアニーのそばにいて、守ってやるのに」

空を見上げて深く息を吸い込むアーチー。
その隣で、アンソニーは感慨深く言う。

「正直驚いたよ、あのステアに恋人がいたなんてね。機械いじりにしか興味ないと思ってた。いつの間にか、ステアもお前も、キャンディ以外の女の子を好きになってたんだな」

彼女をめぐって思い思いのアプローチをしていた自分たちを、アンソニーは懐かしく思い出す。

「そう言えば、『キャンディにはフェアでいこうぜ』って、よく兄貴が言ってたよな」
「あった、あった!そんなこと。でも不思議だなぁ、三人とも同じ女の子を好きになったのに、ケンカにならなかったのはどうしてだろう」
「それは、お前の情熱にやられたからさ」

フッと笑ってアーチーは片目を閉じる。

「情熱?」
「キャンディが泥棒のぬれぎぬを着せられて、メキシコへやられそうになったこと、覚えてる?お前、あのとき食ってかかったろ。『もう僕は、大おば様と口をききません』って」
「そう言えば、そんなことあったな」
「とにかくすごい剣幕だった。僕も兄貴も圧倒されちゃってさ。こいつは本気だと思ったね。それからだよ、迫力負けして、一歩引くようになったのは」
「そんなふうに思ってたのか。全然知らなかった」 

アンソニーは照れくさそうに言う。

「もっともキャンディは、はなっからお前にしか興味なかったみたいだけどな」

アーチーは今になっても、まだ悔しそうな顔をしている。
「そうかぁ?」とアンソニーはとぼけたが、まんざら嘘でないことを知っていた。
何しろ自分は、彼女の「初恋の王子様」に瓜二つだったのだから。
キャンディは無意識のうちに、自分とその王子様を重ねていたのだろう。
あの当時は面白くなかったが、「キャンディが好意を持ってくれるきっかけ」をくれた王子様、つまりアルバートに、感謝しなければならないとさえ、今は思う。

そんなことを考えていると、空想をかき消すようにアーチーが続けた。

「だからお前が死んだとき、正直言って、ちょっと期待したんだ。今度こそキャンディは、僕を見てくれるかな、って。とんでもないけど、もう時効だからいいか・・・」
「『なんて奴だ!』って言いたいとこだけど、特別に許すよ。なんたって、今までさんざん世話になったし、落馬したときは、真っ先に救いの手を差し伸べてくれたそうだから」
「当たり前じゃないか!」
「で、どうだったんだい?」
「どうって?」
「僕が死んだあとのキャンディの反応さ。アーチーの期待通りになびいてくれたの?」
「残念ながら玉砕だ。あの子は、『生きてる僕より、死んだアンソニーを愛してる』ってことが、はっきりわかったんだ。妬けたなぁ、あのときは。僕はお前に本気で嫉妬したよ」
「あはは・・・悪い悪い」

つい真剣になってしまい、ムッとするアーチーをなだめるのに苦労する。

「そのうちキャンディに、『アニーをよろしくね』って言われちゃってさ。気づいたら、いつの間にか、アニーとつきあうことになってた」

アーチーは、過ぎ去った過去を、名残惜しそうに思い返した。
もしあのとき、アニーを引き受けていなければ・・・。キャンディにもっと食い下がっていたなら・・・。
そんな思いが、今も残る。

「それでお前は良かったのか?もしかしてまだ、キャンディのことを」

言いかけのセリフを、アーチーがさえぎる。

「実は、キャンディに告白しようとしたことがあるんだ。だけどそのときにはもう、彼女の中には、『あいつ』がいた」

瞬間、アンソニーは硬直する。

「『あいつ』って?」
「決まってるだろ。テリィさ」

わかっていたとはいえ、はっきり聞かされると、身を切られる思いだ。

「あの男が、いつからキャンディとつきあうようになったのかは知らない。だけど、どうしても好きになれないんだ。初めからウマが合わないのさ。今でも絶対キャンディを渡したくないと思ってる」

アーチーは本気だった。もしかして、まだ心残りがあるのではないか、と思えるほどに。

「だからあいつにだけは負けるなよ。彼女を幸せにするのは、アンソニーしかいないんだからな!」
「わかってる。本当は僕だってそうしたいんだ。だからこれから一人になって、頭を冷やしに行くところさ」

アンソニーも真顔で答えた。
かつて同じ少女を愛したライバルとして、出来ればアーチーの望みをかなえてやりたい。
そして何より、自分の望みをかなえたい・・・!

「それはそうと、ちょっと気になるんだけど」
「なに?」
「アニーのこと、愛してるんだろ?」

少し心配になったアンソニーは、念を押すように尋ねる。

「当たり前だ。昔は昔、今は今だよ。もう腹はすわってる。僕はアニーと一緒に生きていくさ」
「良かった。それを聞いて安心したよ」

アンソニーはわずかに笑い、ふざけて小さなパンチを繰り出す。
アーチーも笑い、掌(てのひら)でそれを受け止める。
「ピシャリ」と小さな音がした。



二人の会話を聞いていたかのように、アニーとアルバートが正門のほうから、こちらへ向かって歩いてくる。

「どうしたの?二人とも真剣な顔で話し込んで」

アニーが驚き顔で見つめる。

「そんなに恐い顔してた?」

優しい表情に戻ったアーチーが尋ねると、「ええ、とっても。アンソニーの具合が、また悪くなったのかと思っちゃったわ」とアニー。

「ごめん、心配かけて。僕なら大丈夫だよ、ピンピンしてるから」

アンソニーはとびきりの笑顔でアニーに応える。

「庭でウロウロしてたら彼女に会ったんだ。アーチーを探してるって言うから、多分バラの門じゃないかと思って、一緒に来たんだよ」

アルバートはいつも勘がいい。
広い邸宅の中でも、誰がどこにいるかを当ててしまうから、すごいのだ。

「アルバートさんは僕が何を考えてるか、すぐわかるんですね」

ちょっとびっくりしながらアーチーは笑う。

「そりゃわかるさ。夕べの君は、アンソニーと話したくてウズウズしてたからね。今朝は真っ先にバラの門へ来て、待ちかまえてたんだろ?その気持ち、わかるよ。実は僕もアンソニーと話すのが待ちきれなくて、ここへ来たんだから」
「そうだったんですか。なら失礼しますよ。もう話は済みましたし。さあアニー、部屋へ帰ってブランチにしよう」

アーチーは婚約者をエスコートして、屋敷へ入ろうとしている。
アニーは嬉しそうに自分の腕をアーチーに絡ませた。

「じゃあアルバートさん、アンソニー、積もる話があるだろうから、二人でゆっくりしてください。ぼくらは引っ込みます」

そう言って立ち去ろうとしたとき、アンソニーが耳打ちした。
アニーに聞こえないよう、こっそりと。

「彼女を大切にしろよ」

「わかってる」と言いたげに、アーチーはクスッと笑ってうなずいた。





二人が行ってしまったあと、早速アルバートが話しかける。

「もう出歩いて大丈夫なのかい?」
「ええ。すっかり元通りになりましたよ。レイクウッドのことなら、全部思い出したし」
「そいつは良かった。でもきつね狩りの日、一体どうして落馬したんだい?」
「きつねを捕まえるワナがあったんです。馬を走らせていると、急にきつねの親子が出てきて、それを避けようとしたら、馬の足がワナにはまってしまって・・・」
「それで馬が暴れ出し、君は放り出されたわけだな」

アンソニーはうなずいた。

「あのときのキャンディの悲鳴が、今でも耳に残ってます。それきり僕は、何もわからなくなってしまったけど」
「君がああいうことになって一番悲しんだのはキャンディだ。それはもう、見るに耐えられない悲しみようだったよ」

その言葉で、彼女が自分を本当に愛してくれていたことがわかり、喜びがこみ上げてきた。

「で、キャンディが立ち直るように慰めてくれたのが、アルバートさんなんでしょ?ありがとうございます」
「な~に、当然のことをしたまでさ。『君はこのまま一生泣き続けるつもりかい?運命は自分で切り開くものなんだよ』と言ってあげたんだ。あの子は間もなく立ち直ったけど、今となっては、それがアンソニーにとって良かったのか悪かったのか、悩みのタネさ」
「どうしてですか?」
「だってキャンディは、君を失ったショックを乗り越えて、テリィを好きになってしまっただろ?」

そうだ──キャンディはロンドンに渡ることを選び、そこでテリィと運命的な恋に落ちたのだから。

「テリィを好きになったことが運命なら、キャンディはもう一度、自分の手で運命の扉を開けます。僕は信じてますよ」

アンソニーが強い口調で言ったので、アルバートは少しだけ安堵した。

「しかしこうして見ると、君は僕の若い頃にそっくりだなぁ」
「昔からよく似てましたよね。僕が小さい頃、母のそばには、いつも少年のあなたがいた。キャンディはポニーの丘で、その頃のあなたに出会い、『丘の上の王子様』と名付けて、ずっと憧れてたんですよ」
「らしいね。僕がその王子だと正体を明かしたとき、彼女はとても驚いてたっけ。ちょっといい気分だったよ」

アルバートは得意げにウィンクして見せた。

「そりゃそうでしょ!あなたはキャンディの憧れの王子様だったんですから。そういえば、こんなこともありました。彼女が目を輝かせて王子様のことを話すのを聞いてたら、ひどく腹が立ったんです。それで思わず聞いてみたんですよ。『君は僕がその王子様に似てるから好きなのか?』って」
「案外ストレートなんだな。それでキャンディは、なんて答えたんだい?」

アンソニーは遠い目をした。
今でもあのときのキャンディの声が、はっきり聞こえるのだ。

──王子様が誰だって、もうどうでもいいの。私、アンソニーはアンソニーだから・・・アンソニーだから好きなの──

「おいおい、一人で思い出してにやけるなよ。どうせ、とびきりの答えをくれたんだろ?言わなくていいさ。こっちが恥ずかしくなるから」

自分一人の世界に入り込んでいたアンソニーは、叔父の一声で現実に戻り、思わず顔を赤らめた。

「なあアンソニー、人を好きになるってのは素晴らしいことだ。いつでも誰に対しても、そういう熱い情熱を持てるわけじゃないからな。だから君はキャンディと出会って、彼女を好きになったことに感謝しなきゃいけないよ。その気持ちを大切にしてほしいんだ。勿論彼女のために。そして君自身が輝くために。今まで随分悩んで苦しんできたみたいだが、君の中では、もうとっくに答えが出てるんだろう?」

真剣に話を聞く甥の姿が、そこにあった。
既に出ようとしている結論に、叔父が後押ししてくれたので、あとは勇気を出して一歩を踏み出すだけ!

「恩義は愛情とは違う。勘違いして自分を縛るな。そしてレイチェルに、偽りの夢を見せてもいけない。わかるね?」
「ええ。ホントは前々からそう思ってたんです。でも義理にとらわれて、決心がつかなかった。今は解き放たれた気分です。ありがとう、アルバートさん。これから一人になって、ゆっくり考えてみますよ、森の山荘で」
「それがいい。レイチェルも、さすがにあそこは知らないだろうから、血相変えて押しかけることもないだろう」

二人は顔を見合わせて笑う。

「いろいろ感謝してます。僕があなたにそっくりだってことも。おかげでキャンディは、王子様に激似だった僕を、一番先に好きになってくれましたから」
「いや、違うな。たとえ君が王子様に似てなくても、キャンディは愛しただろう。アンソニーはアンソニーだから、好きになったのさ」

それはまさに、キャンディの告白と同じセリフ。
アルバートは、あの日の彼女と同じことを言ってくれたのだ。
これで更なる確信を持つことが出来た。

(キャンディが愛してくれたのは、王子様に似ている自分ではなく、ありのままの僕だったんだ!)


優しい叔父に、益々の信頼を抱きながら、アンソニーは森の山荘へと歩いて行った。
後ろ姿を見送りながら、アルバートは少し複雑な思いで自分に言い聞かせる。

(アンソニー、少し前なら、僕は君と対決しようとして、冷たく当たってしまったかもしれない。でも今は違う。君が生きていてくれて、本当に良かった。何もしてやれないまま逝かせてしまうなんて、叔父として情けないよ。死ぬまで君のことを心配して、『アンソニーをお願い』と言い残したローズマリーにも、申し訳ないからな。今こそ力になろう。だって君は、ローズマリーの大切な息子で、僕の甥なんだから。それに僕は、キャンディを大きな愛で包みたいと思ってるんだ。恋愛の対象としてではなく、ね。だから君たち二人のために、笑って道化になるさ)



アンソニーが立ち去って間もなく、今度はキャンディがこちらへ歩いてきた。
アルバートはすかさず声をかける。

「やあ!その様子だと、君も相当悩んでるな。テリィはどうしたんだい?」
「夕べのうちにホテルへ帰ったわ。ニューヨークへ行く前に、どうしても片づけなきゃいけない仕事があるそうよ。いよいよ明日出発だから・・・」
「そうか、明日だったな。ということは、アンソニーと二人でゆっくり話が出来るのは、もう今日しかないってわけだ」

アルバートは、少し考えこんでから続けた。

「アンソニーは今、森の山荘へ向かったところだ。急いで行けば追いつくだろう。彼といろいろ話し合っておいで。あそこなら、レイチェルも行かないはずだから」
「ホント?アンソニーが森の山荘に?ありがとう、アルバートさん。すぐに追いかけるわ!」

目を輝かせてそれだけ言うと、挨拶もそこそこに走り出して行ってしまった。
その嬉しそうな表情と言ったら、さっきの暗く重い顔と、まるで対照的だ。
明るい笑顔を見れば、どんなにアンソニーを想っているか、手に取るようにわかる。

彼女にとっても、答えは一つだけ・・・。
もうわかっているはずだ。

そのときアルバートは考えた。
もしもキャンディの前に現れるタイミングが逆だったなら──つまり先にテリィが現れてプロポーズしたあとで、アンソニーが生きていることがわかったなら ──それでも彼女は、アンソニーを好きになっただろうか。
それとも懐かしいと思うだけで、愛しはしなかったろうか。
今頃はなんのためらいもなく、愛するテリィと二人で、人生の新しいスタートを切ろうとしているのか。
アンソニーとレイチェルの幸せを祈りながら。

そうかもしれない。
テリィはたまたま、あとで現れただけのこと。
だがそれも運命。
そしてキャンディをさらって、無事にニューヨークへ行けるかどうかも運命だ。
ニューヨークまで行ってしまえば、彼女もすべてをあきらめて、テリィの気持ちに応えるだろう。
彼にはそれだけの魅力がある。
なにしろ、「愛しい初恋の人・アンソニー」を忘れさせた男なのだから。

人生には、いくつかの分かれ道があって、そこに来るたび、人は立ち止まって悩み、どちらかの道を選びとって生きていくのだという。
生きるということは、その繰り返しだ。
キャンディは今まさに、その分かれ道に立っている。
どちらの道を選ぶのかは、誰にもわからない。
運命は、キャンディ自身の手で切り開いていくものなのだから・・・!