あの日の約束 

 

初出 2005年10月15日

 

 

 

9巻ラストのポニーの丘で待っているのが、もしもアルバートさんじゃなかったら・・・!?
拙作ラストに「仕掛け」がありますので、指示に従ってお進みください(笑)。

 

 


ただいま、ポニーの丘 私のふるさと

一緒に来たいと言っていたアンソニーは、この丘にのぼらないまま逝ってしまった
そして冬の日、一人でこの丘にたたずんでたいテリィ
この丘にはいろいろな思い出がしみこんでいる・・・私の子供の頃からの涙も笑いも




 
感傷に浸って思わず涙ぐむキャンディが、丘の上にたたずんでいた

「泣かないでベイビー 君は笑った顔の方がかわいいよ」

懐かしい言葉に、思わず振り返る

優しい声 金色の髪 青い瞳

「あなたは・・・アルバートさん?」

目の前に立っている金髪の青年は、白いシャツにダークグリーンのズボン姿。
めくり上げたシャツからは、少し日焼けした逞しい腕が覗く。
そして手元には、数え切れないほどの白いバラ。

(違う、アルバートさんじゃない。顔も背丈も体格もすごく似てるけど、違うわ。この人はもっと若い)

キャンディの胸は懐かしさに躍り、青年の青い目を、穴の開くほど見つめた。

(まさか・・・まさか・・・)

「どうしたの?もう忘れちゃった?あれから四年も経つんだから、無理ないかな」
青年は少し寂しそうに、エメラルドの瞳をなぞった。
「もし僕のことを忘れても、このバラは覚えてるだろ?」
手元のバラに視線を落として、静かに呟く。
「スイートキャンディだよ。僕が作った・・・」

「じゃあ、じゃあ、やっぱりあなたは!?」

キャンディは頭の中が真っ白になった。

(だって『あの人』は死んだはずでしょ。四年前のきつね狩りで落馬して。私は泣いて泣いて、いろんな人に慰められて、そしていつの間にかその死を乗り越えて・・・。あれからテリィを好きになったわ。彼とも別れて、今は・・・)

「ねえキャンディ、僕の名前を呼んでみて」
サファイアの瞳がいたずらっぽく笑い、上から覗きこんだ。

「アンソニー・・・」
震えながらキャンディは懐かしい名前を声に出した。

大好きだった人。いつもそばにいて欲しかった。
そしたら飽きるほど呼べたのに。「アンソニー、アンソニー」って。
でもいつの頃からか、呼ぶのが怖くなった。
呼ぶとあの哀しい事故を思い出してしまうから。
そして私は彼の名前を心にしまい、そっと鍵をかけた。

「アンソニー?」
キャンディはもう一度言ってみた。
「良かった。覚えててくれたんだね」
「本当にアンソニーなの?私ったら夢を見てるのかしら」

びっくりしすぎてそれ以上は続かなかった。
嬉しくて泣きたいのに、広い胸に思いっきり飛び込んで泣きたいのに、体が硬直して少しも動けなかった。

「驚かせてごめん。ウィリアム大おじ様が正体を現して、アードレー家も代替わりしただろう?だからお許しが出て、君に会えることになったのさ」

アンソニーは話してくれた。
落馬した後、息を吹き返したが、エルロイ大おば様の命令でフランスへやられ、そこで今まで過ごしてきたことを。

「大おば様は、僕とキャンディの交際によっぽど反対だったんだろう。もの凄い剣幕で、とても反抗なんか出来なかった。僕もまだ子供だったしね。でも決心したんだ。フランスでしっかり勉強して、一人前の男になろうって。そして君を迎えに来る資格が出来たら、その時こそ・・・ってね。そしてやっと今日の日が来た」

アンソニーはスイートキャンディを足元に置くと、その手をキャンディの両肩に移した。
「僕らが会えなくなってから四年の歳月が流れてしまった。今、君の心が誰にあるのか僕は知らない。でもこれだけは言わせて欲しいんだ。たとえ君にとっては迷惑でも」

(アンソニーは何を言おうとしてるのかしら。その言葉を聞いたら、私・・・私・・・)

嬉しいような、怖いような、恥ずかしいような・・・
キャンディの胸はあの頃と同じ、甘酸っぱい想いで一杯になり、キュンと締め付けられた。

「君に会える日のためだけに頑張って生きてきた。もし、今でもまだ僕のことを好きでいてくれるなら、この手を取ってくれないか」
「アンソニー・・・」

熱いものがじんわりにじんできた。
驚きとショックで今まで感情が停止していたのが、やっと元に戻ったのだ。
それからは涙が止まらない。後から後から頬を伝い、景色は歪んで何も見えなくなってしまった。

「でもアンソニー、私なんか!あなたの手を取る資格はないわ。だって、だって・・・」
「聞いたよ。テリィのことだろ?君が誰かを好きになったって、それは当たり前だよ。僕は死んだことになってたんだから。もし僕が君でも、きっと同じ状況になったと思う。そしてもし君だったら、新しい恋を見つけて幸せになった僕を、喜んで許してくれるだろう?」
キャンディは泣きながら何度も頷いた。
「僕も同じさ。ましてやテリィとは辛い別れだったって聞いてる。十分苦しんだ君を責めたりなんか出来ないよ。だからもう、過去は気にしないで、これからのことだけ考えて欲しい」

泣きじゃくるキャンディは、アンソニーの顔をまともに見られず、うつむいたままでいた。
「分かってくれたよね?」
アンソニーは身をかがめると、キャンディの目に視線を合わせてニッコリ微笑んだ。
「分かったら、笑って!ほら、君に泣いた顔は似合わないよ」

濡れた頬を優しく拭ってくれる長い指。
一瞬の後、温かい唇が彼女の頬にそっと触れた。

「アンソニー!」
びっくりして目を開ける。

「二年だけ待って欲しい。僕はまだ大学を卒業してないんだ。ウィリアム大おじ様のお披露目パーティーに呼び出されて、急に帰国することになったからね。来週にはフランスへ帰って、残りの単位を履修しなきゃいけない」
「また離れ離れになるの?」
不安そうな顔をするキャンディに、アンソニーはウィンクして見せた。
「二年なんてあっという間だよ。そしたら今度こそ、僕は正々堂々と君に言えるんだ。結婚して欲しいってね」
「まあ・・・」

キャンディの泣き顔にやっと微笑が戻り、頬が紅潮した。

「私、待ってる。あなたが迎えに来てくれる日まで。絶対に待ってるわ」
「本当に?」
「本当よ」
「じゃあ、これを僕だと思って大事にして欲しい」

アンソニーは足元のスイートキャンディを拾い上げると、キャンディの手を取って抱えさせた。
甘く懐かしい香りが鼻先をくすぐる。

「分かったわ。あなただと思って、いつもそばに置くわね」
キャンディは手元のバラを愛しそうにじっと見つめた。

「じゃ、必ず迎えに来るって約束の印、受け取ってくれる?」
「え?」

彼女が返事をしようとする前に、サファイアの瞳が急に近づいてきて、強い力で抱き寄せられ、もう何もしゃべれなくなった。
熱い唇が桜色の小さな唇に重なり、静かに浸透してくる。
唐突の出来事に戸惑いながらも、キャンディの全身はあらがいがたい想いで満たされていく。

「愛してる・・・」

かすれた声で囁いた彼の瞳は、熱に浮かされたように潤んでいた。

(ああアンソニー、帰ってきてくれたのね。もう離れたくない。いえ、絶対離れないわ!)

彼女は思わず背伸びをして、アンソニーの首に自分の両手を絡ませた。
彼の逞しい腕がキャンディの細い体をすっぽりと包み込む。

その瞬間、手に持っていたスイートキャンディが地面に落ちた。
一陣の風が吹いて、花びらが散っていく・・・




我に返るキャンディ。
そこには誰もいない。スイートキャンディも消えている。

そんな・・・今までここにはアンソニーが。
愛してるって言ってくれたのに。必ず迎えに来るって約束したのに。
あんなにはっきり、あんなに堂々と。
もしかして、あれは幻?

キャンディは狂ったように走り出し、思いの丈を叫んだ。
「アンソニー!」

「アンソニー、どこにいるの?お願い、帰ってきてちょうだい。一人にしないで!もう待つのは嫌よ。結婚しようって言ったじゃない。あの約束はウソ?」

その時、遙か彼方の雲間から、甘い声が降りて来た。

「約束は守ったよ。ほら、君は覚えてる?きつね狩りの日、僕は言ったよね。いつかポニーの丘へ一緒に行こうって。果たせないまま四年が過ぎて、僕の心は痛かった。苦しかった。だから君に会いに行ったんだ。約束を守るために」

キャンディはハッとした。

アンソニーは来てくれたんだわ。天の上から。
わざわざあの日の約束を果たすために。

「でもあなたはまた行ってしまうんでしょ。もう会えないのね?」
「いや、僕らはいつだって会えるさ」
「どうやって?」
半分泣き顔、半分恨み顔で、キャンディはを空を見上げた。
「バラの門へ行ってごらん。今が花の盛りだ。僕が魂を注いで君のために作ったバラが、いつでも歓迎してくれるよ。それに・・・」
「それに?」
「僕はいつだって君の中にいる。会いたくなったら、心の扉をノックするといい。それでも頼りない時は、ウィリアム大おじ様やアーチーやアニーや・・・君が愛してやまない大勢の仲間が、きっと支えてくれる。一人じゃないんだ」

アンソニーは目を閉じて一呼吸置いてから、もう一度言った。

「幸せになるんだよ、キャンディ」

思わず涙が溢れた。

私はいつだってアンソニーに愛されていた。
きつね狩りで彼を失ったあの日からも、ずっとずっと。
テリィを愛して揺れて、彼と別れて泣き暮らした日々も、ずっとずっと。
今日だってきっと、慰め、力づけるために来てくれたんだ。
それなのに私は一体彼に何をしてあげただろう。

「分かってくれたみたいだね。じゃあ、僕にもお返しをくれるかい?」
「どうすればいいの?私はあなたに何がしてあげられる?」
心から叫ぶキャンディの上に、優しい声が返って来た。
「笑顔を見せて欲しい。世界一幸せそうな笑顔を。だって君は、泣いた顔より笑った顔の方がかわいいから」

涙を拭いて、精一杯笑って見せるキャンディ。

バラの門で初めて会った日と同じ風が流れ、切なく懐かしい微笑みが、光の中に溶けていった・・・
 
~ The End ~




 「アンソニーの誕生日」ってことで、傷心のキャンディを慰めるために彼が降臨する話です。細かい設定は考えずに、サラッと読み流してくださいね。
結局、ほろ苦い結末になってしまいました。ラブラブ100%にするつもりだったのに、どうしてもこういう路線になるかばくん。性格なんでしょうね。ホント、すみませんですm(__)m 

「いんや、今日こそは許さないわよ!」というアンソニーファンのあなた様、良かったらずーっと下へスクロールしていってください。
「秘密の別バージョン(爆)」をご用意してあります。

但し、ちょっとウフフな描写(!?)もありますので、そういうものがお嫌いな方にはおススメ出来ません(>_<)

「キャンディとアンソニーのカップリングなんて論外!」というお客様は、嫌悪感を抱くかもです(汗)。このままお帰りくださった方がいいかなぁ・・・?
納得してお読みの上で、「キキーッ!」となられても、かばくんは責任を負えませんので、十分ご注意下さいまし(笑)。


お帰りのお客様は→  またのお越しを心よりお待ちしてます!

突撃して「ウフフ」をお読みになりたいお客様は
























































 


 あの日の約束 
ウフフバージョン
(茶色い文字の部分は、上のバージョン↑と同じ内容です)


ただいま、ポニーの丘 私のふるさと

一緒に来たいと言っていたアンソニーは、この丘にのぼらないまま逝ってしまった
そして冬の日、一人でこの丘にたたずんでたいテリィ
この丘にはいろいろな思い出がしみこんでいる・・・私の子供の頃からの涙も笑いも




感傷に浸って思わず涙ぐむキャンディが、丘の上にたたずんでいた

「泣かないでベイビー 君は笑った顔の方がかわいいよ」

懐かしい言葉に、思わず振り返る

優しい声 金色の髪 青い瞳

「あなたは・・・アルバートさん?」

目の前に立っている金髪の青年は、白いシャツにダークグリーンのズボン姿。
めくり上げたシャツからは、少し日焼けした逞しい腕が覗く。
そして手元には、数え切れないほどの白いバラ。

(違う、アルバートさんじゃない。顔も背丈も体格もすごく似てるけど、違うわ。この人はもっと若い)

キャンディの胸は懐かしさに躍り、青年の青い目を、穴の開くほど見つめた。

(まさか・・・まさか・・・)

「どうしたの?もう忘れちゃった?あれから四年も経つんだから、無理ないかな」
青年は少し寂しそうに、エメラルドの瞳をなぞった。
「もし僕のことを忘れても、このバラは覚えてるだろ?」
手元のバラに視線を落として、静かに呟く。
「スイートキャンディだよ。僕が作った・・・」

「じゃあ、じゃあ、やっぱりあなたは!?」

キャンディは頭の中が真っ白になった。

(だって『あの人』は死んだはずでしょ。四年前のきつね狩りで落馬して。私は泣いて泣いて、いろんな人に慰められて、そしていつの間にかその死を乗り越えて・・・。あれからテリィを好きになったわ。彼とも別れて、今は・・・)

「ねえキャンディ、僕の名前を呼んでみて」
サファイアの瞳がいたずらっぽく笑い、上から覗きこんだ。

「アンソニー・・・」
震えながらキャンディは懐かしい名前を声に出した。

大好きだった人。いつもそばにいて欲しかった。
そしたら飽きるほど呼べたのに。「アンソニー、アンソニー」って。
でもいつの頃からか、呼ぶのが怖くなった。
呼ぶとあの哀しい事故を思い出してしまうから。
そして私は彼の名前を心にしまい、そっと鍵をかけた。

「アンソニー?」
キャンディはもう一度言ってみた。
「良かった。覚えててくれたんだね」
「本当にアンソニーなの?私ったら夢を見てるのかしら」

びっくりしすぎてそれ以上は続かなかった。
嬉しくて泣きたいのに、広い胸に思いっきり飛び込んで泣きたいのに、体が硬直して少しも動けなかった。

「驚かせてごめん。ウィリアム大おじ様が正体を現して、アードレー家も代替わりしただろう?だからお許しが出て、君に会えることになったのさ」

アンソニーは話してくれた。
落馬した後、息を吹き返したが、エルロイ大おば様の命令でフランスへやられ、そこで今まで過ごしてきたことを。

「大おば様は、僕とキャンディの交際によっぽど反対だったんだろう。もの凄い剣幕で、とても反抗なんか出来なかった。僕もまだ子供だったしね。でも決心したんだ。フランスでしっかり勉強して、一人前の男になろうって。そして君を迎えに来る資格が出来たら、その時こそ・・・ってね。そしてやっと今日の日が来た」

アンソニーはスイートキャンディを足元に置くと、その手をキャンディの両肩に移した。
「僕らが会えなくなってから四年の歳月が流れてしまった。今、君の心が誰にあるのか僕は知らない。でもこれだけは言わせて欲しいんだ。たとえ君にとっては迷惑でも」

(アンソニーは何を言おうとしてるのかしら。その言葉を聞いたら、私・・・私・・・)

嬉しいような、怖いような、恥ずかしいような・・・
キャンディの胸はあの頃と同じ、甘酸っぱい想いで一杯になり、キュンと締め付けられた。

「君に会える日のためだけに頑張って生きてきた。もし、今でもまだ僕のことを好きでいてくれるなら、この手を取ってくれないか」
「アンソニー・・・」

熱いものがじんわりにじんできた。
驚きとショックで今まで感情が停止していたのが、やっと元に戻ったのだ。
それからは涙が止まらない。後から後から頬を伝い、景色は歪んで何も見えなくなってしまった。

「でもアンソニー、私なんか!あなたの手を取る資格はないわ。だって、だって・・・」
「聞いたよ。テリィのことだろ?君が誰かを好きになったって、それは当たり前だよ。僕は死んだことになってたんだから。もし僕が君でも、きっと同じ状況になったと思う。そしてもし君だったら、新しい恋を見つけて幸せになった僕を、喜んで許してくれるだろう?」
キャンディは泣きながら何度も頷いた。
「僕も同じさ。ましてやテリィとは辛い別れだったって聞いてる。十分苦しんだ君を責めたりなんか出来ないよ。だからもう、過去は気にしないで、これからのことだけ考えて欲しい」

泣きじゃくるキャンディは、アンソニーの顔をまともに見られず、うつむいたままでいた。
「分かってくれたよね?」
アンソニーは身をかがめると、キャンディの目に視線を合わせてニッコリ微笑んだ。
「分かったら、笑って!ほら、君に泣いた顔は似合わないよ」

濡れた頬を優しく拭ってくれる長い指。
一瞬の後、温かい唇が彼女の頬にそっと触れた。

「アンソニー!」
びっくりして目を開ける。

「二年だけ待って欲しい。僕はまだ大学を卒業してないんだ。ウィリアム大おじ様のお披露目パーティーに呼び出されて、急に帰国することになったからね。来週にはフランスへ帰って、残りの単位を履修しなきゃいけない」
「また離れ離れになるの?」
不安そうな顔をするキャンディに、アンソニーはウィンクして見せた。
「二年なんてあっという間だよ。そしたら今度こそ、僕は正々堂々と君に言えるんだ。結婚して欲しいってね」
「まあ・・・」

キャンディの泣き顔にやっと微笑が戻り、頬が紅潮した。

「私、待ってる。あなたが迎えに来てくれる日まで。絶対に待ってるわ」
「本当に?」
「本当よ」
「じゃあ、これを僕だと思って大事にして欲しい」

アンソニーは足元のスイートキャンディを拾い上げると、キャンディの手を取って抱えさせた。
甘く懐かしい香りが鼻先をくすぐる。

「分かったわ。あなただと思って、いつもそばに置くわね」
キャンディは手元のバラを愛しそうにじっと見つめた。

「じゃ、必ず迎えに来るって約束の印、受け取ってくれる?」
「え?」

彼女が返事をしようとする前に、サファイアの瞳が急に近づいてきて、強い力で抱き寄せられ、もう何もしゃべれなくなった。
熱い唇が桜色の小さな唇に重なり、静かに浸透してくる。
唐突の出来事に戸惑いながらも、キャンディの全身はあらがいがたい想いで満たされていく。

「愛してる・・・」

かすれた声で囁いた彼の瞳は、熱に浮かされたように潤んでいた。

(ああアンソニー、帰ってきてくれたのね。もう離れたくない。いえ、絶対離れないわ!)

彼女は思わず背伸びをして、アンソニーの首に自分の両手を絡ませた。
彼の逞しい腕がキャンディの細い体をすっぽりと包み込む。

その瞬間、手に持っていたスイートキャンディが地面に落ちた。
一陣の風が吹いて、花びらが散っていく。



ここから先が「ウフフ・バージョン」です

「あ、大切なバラが・・・」
キャンディは絡めていた手を離し、彼と距離を置こうとした。
だがアンソニーは離さない。
強い力で抑えられ、身動きすることも出来なかった。

「バラなんていいよ。レイクウッドへ行けば、いくらでも咲いてる」
「でも」
「今は、いい。それより・・・」

アンソニーは苦しいような、切ないような表情を浮かべ、搾り出すように言うと、抱きしめる腕に力を込めた。

(今は君を感じていたい)

互いの温もりを知ってしまった今、彼女の手を離すことなど到底出来ない。
制御の利かなくなった機械のように、ほとばしる想いに身を任せ、アンソニーはキャンディを抱きしめた。

そしてキャンディは、すっかり「男」になったアンソニーを感じていた。
広い胸、ガッシリした腕、見上げるような長身、力強い抱擁、服に染み付いた大人の匂い・・・
四年前は、まだ少年だと思っていた。
アンソニーと会うと、いつもバラの香りが漂っていたっけ。
だけど今日は、その中に、ほんの少しタバコの匂いが混ざっていることに気づいて、何故かドキドキした。

(あなたも、もう子供じゃないのね)

埋めた胸から顔を僅かに起こして、キャンディはフフッと笑った。
その笑顔がたまらなく愛おしい。

(このまま君を僕のものにしたい!)

その台詞は声にならなかったが、代わりに唇がキャンディの額に触れた。
そして頬へ、首筋へ。段々熱を帯びて、そして・・・

アンソニーは自分を止める術を知らなかった。
情熱の赴くまま、狂ったように柔らかい肌を滑っていく。
まるで会えなかった彼女との時間を埋めるように。激しく、大胆に。
そして手は、緩やかな曲線を描く腰のラインへ伸びていこうとした。

「アンソニー!?」

猛り狂った彼を見たことがないキャンディは、少しだけ怖くなって、静かな叫び声を上げた。

瞬間、それ以上の行為へ進もうとする自分の手を、彼女の声が強引に押し留めた。

(僕は何をやってるんだ?まだ学生のくせに。責任も取れないくせに!)

抱擁が急に緩むと、安心するやら少し物足りないやら、複雑な気持ちでキャンディはアンソニーを見上げた。

「ごめん。こんなことして。驚いただろう?ずっと会えなかったから、どうかしちゃったのかもな。僕は約束を守るために帰ってきたんだ」
出し抜けに言われて、キャンディはきょとんとする。
「約束?」
「ほら、君は覚えてる?きつね狩りの日、僕は言ったよね。いつかポニーの丘へ一緒に行こうって。果たせないまま四年が過ぎて、僕の心は痛かった。苦しかった。だから帰ってきたんだ。約束を守るために」
「覚えてるわ。当然よ。いつもひどい人だと思ってたわ。だって約束したきり、私の前から消えてしまったんですもの。でも許してあげる。ちゃんと夢をかなえてくれたから」

キャンディは嬉しそうに微笑んだ。

「今日はもう一つ約束が増えたね」
「ええ。今度こそ、嘘をついちゃ嫌よ。私、絶対待ってるから。どんなことが起きようと、誰に誘われようと、あなただけを待ってるから」
「二年だ、キャンディ。二年経ったら正式にプロポーズする。その時はyesと言ってくれるね?」

キャンディは目を潤ませて静かに頷いた。

「そしてもう一つ約束して欲しい」
「なあに?」
「その時は、さっきの続き・・・させてくれる?」
キャンディは真っ赤になりながら、「まあ、アンソニーったら」と返すのが精一杯。
「イヤだと言っても、僕は強引だからね。でも今日はキスだけで我慢するよ」

そしてキャンディを抱き上げると、地平線に隠れようとしている赤い太陽を指差した。

「見て!日が落ちていくよ。もうこんな時間なんだね。みんなが心配してるだろうから、ポニーの家に戻ろう」
「そうだわ、アーチーとアニーを待たせてあるの。それにウィリアム大おじ様も後から来るって言ってたし」

微笑みを交わす二人を夕陽が照らし、オレンジ色の光の中で、唇が静かに重なり合った・・・


~ The End ~



 大丈夫でしたか?
嫌悪感を抱いていらっしゃらないことを、切に祈っております。
ご気分を害された方には、心よりお詫び申し上げます。
ま、アンソニーの誕生日ってことで、ちょっとだけキャンディを貸してやってください(^^ゞ。
彼も若死にして、いろいろ飢えてるでしょうから(爆)。