初出 2006年12月14日、20日

 

旧サイトから転載したので文字色が見にくい部分がございます。

申し訳ありませんが、その場合は「反転」してお読みくださいm(__)m

 

 


クリスマス・イブの朝、アンソニーはなんと女の子に変身!そしてテリィやアーチーやステアに次々と言い寄られ・・・。
キャンディよりもモテモテになってしまった「アントニーナ」の運命は!?果たしてアンソニーはもとの姿に戻れるのか?

 

 

 

大切な但し書です。お読みになる前に、是非どうぞ

キャンディはちょっとヒール(悪役)入ってます。
いつもイケメンにモテモテで、いい思いばっかりしてるから、たまにはいいですかね~^_^;
最初から最後まで、とんでもないギャグです。
キャラをおちょくって書いている部分が多々ありますので、
シャレだと割り切れる方以外は、御気分を害すおそれがあります。
そういうふざけた話は読みたくないというお客様は、HOMEへお戻りくださいませ。
この但し書を無視した結果の非難コメントにはお答えできませんので、何卒ご了承くださいませ。
誠に申し訳ありませんm(__)m

 





アンソニーが生きているとして、聖ポール学院でテリィと争っている頃の物語です・・・



不思議な夢を見た。

学院の裏庭で、僕とテリィはいつものようににらみ合っていた。
(絶対にキャンディを渡すもんか・・・!)
頭の中でそのセリフがガンガン響いてる。

あいつだって同じことを思ってるはずだ。
二人とも一歩も引かない覚悟で火花を散らす。

でも一瞬のあと、僕の顔に寂しげな色が浮かんだ。
そしてこう言ったんだ。

「もし僕が女なら、こうやってテリィと争う必要はないのに・・・」




窓から太陽の光が差し込み、あまりのまぶしさにアンソニーは目を覚ました。
今日は12月24日──クリスマス・イブ。

「クリスマスか・・・。いよいよ今夜はダンスパーティーだ。見てろよテリィ、キャンディのパートナーはこの僕だ。僕だけだ。今夜という今夜は白黒つけてやる!」

身支度を整えてドアを開けると、タイミングよくステアとアーチーも登校するところだった。

「よお!」
「やっとクリスマスだな。ダンパではキャンディを狙ってるんだろ?」
「当然!」
「キザ貴族なんかに負けるんじゃないぜ。僕は100%お前の味方だから」
「恩にきるよ」


そのとき特別室のドアが開いて、話題の男が出てくるところだった。

「噂をすればなんとやら・・・だな」
ステアが笑う。
「朝から気取った野郎だぜ。気に食わないんだよ、全く!」
アーチーの鼻息が荒い。

「これはこれは、皆様おそろいで。どちらへお出かけですか?」
「どちらへって、学院に決まってるじゃないか」
「ほお~、学院にね。クリスマスだってのにご苦労なことですな」

アーチーの顔が険しくなる。
「君こそどこへ行くんだ」
「俺は君たちと違ってモテる男なんでね。クリスマスともなれば忙しいんだよ、いろいろと。それにしても・・・こんな日まで勉強しなきゃいけない奴らの気が知れない。よっぽど成績悪いんだなぁ。まあせいぜい頑張ってくれたまえ」

あはは・・・と高笑いしながら去っていくテリィに、つかみかかろうとするアーチー。
それをあわててステアが止める。

「やめとけ、クリスマスだぞ」
「だって兄貴、あそこまでバカにされて悔しくないのか?」

ステアは無言のままだったが、唇が固く結ばれている。
それを見て、アーチーはやっと気をしずめた。

さっきから傍観したままのアンソニーは、なぜか一言も口をはさめなかった。
何かに縛られたように体が固くなって動けないのだ。
テリィを見たらいつも腹が立って熱くなるのに、今日は妙な気持ちが支配している。
怒る気もしない。
おかしな気分だ。

(なんなんだろう、この感覚。体中がむずがゆくて、くすぐったくて。夕べ変なものでも食ったかな?)

それが──これから起ころうとしている、とんでもない事件の予兆だなんて、アンソニーは思いもしなかった。


「おい、どうしたんだよ。さっきから黙りこくってさ」
怪訝(けげん)そうな顔でアーチーが覗き込む。
「いや、なんでもないんだ。悪いけど先に行っててくれないかな」
「気分でも悪いのか?」
心配そうに言う兄弟に、愛想笑いを浮かべる。
「ホントになんでもないよ」
「そんなに言うなら・・・」

二人の背を見送りながら、アンソニーは部屋へ戻って顔を洗った。
このモヤモヤを洗い流し、少しでも気分を高めようと思って。




教室へ入った途端、クラスメイトの嬌声(きょうせい)に驚いた。

「女だ!女の子が入ってきたぞ~」
そう言って絶叫する者もいた。

「すっげー美人。見たことない顔だな。転校生かな?」
「是非ともお近づきになりたいもんだ」
「こうなったら誰でもいいや。今夜のダンパに来るんなら、絶対お相手願いたい」

方々(ほうぼう)からそんな声が聞こえてくる。

そして驚くべきことが・・・

少年たちが熱い眼差しを向けているのは、なんと自分なのだ。
あっちからもこっちからも、絡みつくような視線を感じる。
アンソニーはその事実に気づいて驚いた。
そして戸惑った。

こいつら、一体どうしたんだ?僕を見て女だとか、美人だとか・・・


「君!ここは男子クラスだよ。シスターに怒られないうちに移動したほうがいい」
「そうそう、ちょっと残念だけどね」
振り返ると、ダークブラウンの髪とサラサラの金髪がにっこり笑っている。

「あ!ステアにアーチー」

「あれ~、僕らの名前を知ってるの?そりゃ光栄だな」
茶髪はこの上なく嬉しそうだ。

「知ってて当然だろ!何言ってるんだよ、お前ら」

可愛い女の子が急に男言葉で怒鳴ったので、二人は唖然とした。

「なあ、ホントにしっかりしてくれよ!僕だよ、僕。わかってんだろ?」

まだわめいている美少女を優しく諭(さと)すように金髪が言う。
「しっかりするべきなのは君のほうさ。さあ、シスターに見つからないうちに早く女子クラスへ行くといい。なんなら送ってあげるよ」

目の前でウィンクされてドキッとした。
しかもなぜか彼は自分を見おろしている。

アーチーって、こんなに背が高かったっけ?確か同じくらいの身長だったはず。
でも目線が合わない。
おかしい・・・


「ねえ君、なんて名前?」
今度は茶髪が聞いてきた。

今更「なんて名前?」はないだろう!一体何年一緒にいると思ってんだ!!

怒り心頭に発したが、グッとこらえて答える。
「アンソニー」

途端、兄弟は同時にヒューッと口笛を吹いた。
「へえ~、アントニーナっていうんだ。なんてキュートな名前だろう!」

おいおい、ちょっと待ってくれ。
誰もアントニーナなんて言ってない。
僕はアンソニーだよ。アンソニー・ブラウン!!
ホントにもう、どうしちゃったんだよ、二人とも。



「ステアにアーチー、さっきからずるいぞ。彼女を独り占めしてさぁ。僕らにも話させろよ」

気づくとまわりに沢山の少年たちが集まってきていた。
みんな、アントニーナと話したいのだ。

冗談じゃない!僕は見世物じゃないぞ。君らの話し相手なんかしてられるか。

また怒りがふつふつと込み上げてきたが、同時にすごく不安になった。
なぜみんなは、自分がアンソニーだと気づかないのだろう。
ステアやアーチーまで勘違いしているところをみると、異常事態が起こったに違いない。

待てよ・・・もしかすると

急に思い立ったアンソニーは、「どいた、どいた!ちょっと通してくれ」と叫ぶと、少年たちをかき分け、あわてて教室を出た。

「あ、アントニーナ!」
ステアとアーチーは後を追おうとしたが、彼女の猛スピードにはとても及ばない。
指をくわえて後姿を見送った。

「可愛いけど活発な子だなぁ。男言葉なんか使ってさ」
「こりゃ、キャンディ以上のおてんばかも」
二人は顔を見合わせて笑った。

だが既に頭はアントニーナでいっぱいになっていた。
一瞬のうちに心をとらえられ、クリスマスの妖しい魔法にかかってしまったのだ。



洗面所へ駆け込んだアンソニーは、鏡に映る自分を見て、「あ--!!!!」と絶叫した。

そこに写っているのは──金髪の縦ロールにピンクのリボンをつけた、天使のような美少女。

なんだ、なんだ!?まさかこれって・・・

冗談にしてはリアルすぎる。
試しに右へ首をかしげてみた。
すると鏡の中の少女も同じ動きをした。
左へ首を傾ける。少女も同じことをする。

今度は両頬に手を当てて「僕はアンソニー」と言ってみた。
すると少女も頬に手を当てたが、「アンソニー」ではなく、「僕はアントニーナ」と言った。

なんでそこだけ違うこと言うんだよ!

頭にきたが、現実は変えられない。
もしかして悪夢を見てるのかも・・・そう思って、思い切り頬をつねってみる。

「い、痛っー!!」

もう間違いない。
なぜだかわからないが、とにかく自分はアントニーナになってしまったのだ。
こうなったら、あがいてみたところで仕方ない。
なりゆきに任せ、美少女のふりをするだけだ。
そのうちいつか、このおかしな魔法も解けるだろう。
それを待つしかなさそうだ。

腹をくくったアンソニーは、鏡の中の自分を観察した。

ふーん、よく見ると可愛いじゃん。
男どもが騒ぎ立てるのもわかる気がする。


ふうーっと息を吸い込んで「よし!行くぞ」と気合いを入れると、アントニーナは廊下へ出た。

目指すは女子クラス!!




教室に入ろうとすると、入口にシスター・クライスが立っていた。

うわ~、まずい。いきなり関所かよ!

だが驚いたことに、彼女はニコニコしてこう言ったのだ。
「待っていましたよ、アントニーナ。今日は初日だからクラスの皆に紹介しますね」
「へ?」
「さあ、一緒に中へ入りましょう」

ちょっとちょっとー!
このオバサン、どうして僕がアントニーナだってわかるんだ?
転校生が来る予定でもあったのかな。


またもやわけがわからないが、促されるままに入室すると、シスターはこう紹介してくれた。

「皆さん、今日からお仲間になるアントニーナ・ミハイロヴァさんです。名前からおわかりのように、彼女はロシア人。ご実家は立派な貴族です。粗相のないよう、親切に対応してあげるように。わかりましたね」
「は~い」

なんだって?ミハイロヴァだ?ロシアの貴族だ?
一体どうしてそういうことになるわけ?


どぎまぎしていると、シスターが言う。
「あなたの席はイライザの隣にしましょう」

うへ~、よりによってイライザかよ!やめてくれ~(>_<)

「さあアントニーナ、行って着席なさい。イライザ・・・頼みましたよ」
「はい、シスター」

頼まれなくていいってば~(T_T)

心の声が絶叫したが、そんなことに関係なく、イライザは早くも好奇の目を向けて意地悪そうに笑った。

キャンディ・・・キャンディはどこにいる?

きょろきょろすると、彼女はイライザの斜め後ろに座っていた。

良かった・・・近くの席だ。
ねえキャンディ、君にさえも僕はアントニーナに見えるのかい?
きっとそうだよね、残念だけど・・・


いそいそと歩いて行って着席すると、イライザへの挨拶もそこそこに、キャンディに一礼して微笑んだ。

(ま!何よ、このロシア女!キャンディなんかに愛想笑いするなんて。許せないわ)

にっこり微笑まれたキャンディはなぜかドキッとした。

「アントニーナよ。どうぞよろしくね」
「わ、わたしはキャンディ。こっちこそよろしく・・・」

思わずどもってしまった。
同性なのに心臓がドキドキする。
青い目で見つめられたら、なんだか妙な気分になった。


この人、不思議。
どうしてこんなにときめくの?可愛い女の子なのに。
もしかして私・・・私・・・

キャンディは急に不安になった。


もしかして私ってば、「その気(け)」があったのかしら~~(^_^;)
ああアンソニー、テリィ、ごめんなさい~い!!!



授業が終わってから裏庭を通ったら偶然テリィに会った。

いつもなら、あの冷めた目で見下して、嫌みの一つや二つ言ってくるのに、今日は違う。
やっぱり違う。
彼の目にも、アンソニーは「アントニーナ」として写っているんだろう。

相手にするのが面倒くさいから無視して通り過ぎたら、背中に絡みつくような視線を感じた。

「お嬢さん!」

その声で、今度は背筋に悪寒が走った。


お嬢さん?それってもしかして僕のこと?

「お嬢さん、ちょっと」

再三の無視にもめげず、テリィは後ろから追いかけてきた。


うわ~、マジかよ~

「君、これ落としたよ」

仕方なく振り返ると、そこにはハンカチを持ってにっこり微笑むテリィの姿が。

こいつでも笑うことあるのか?
っていうか、笑うとかなり好感度アップする・・・
普段僕に見せる顔と全く違うし~
まるで別人だ。
そうやってキャンディの前でいつもデレデレしてるんだな、この野郎!


はらわたが煮えくり返ったが、作り笑顔で猫ダネ声を出した。

「ありがと♪」
「どういたしまして」
「じゃ、失礼しますわ」
「あ・・ちょっと!」

まだ何か用かよー(-_-;)

いい加減うんざりして見上げると、テリィは意気揚々と迫ってきた。

「今夜のダンパ、もうパートナー決まってるの?」
「は?」
「もしまだなら、その・・・俺と踊ってくれない?」

なんだなんだ、いきなりナンパか?
キャンディはどうすんだよ。ほっといていいのかよー


かなり頭が混乱したが、とりあえず「いえ、まだ決まってないわ」としぼり出す。

「良かった。じゃあ俺のこと、覚えといて。テリィ・・・テリュース・Gグランチェスターだ」
「知ってるわよ。学院一の不良でしょ?」

このときとばかり、思いっきり鼻で笑ってやった。
だが彼はめげない。

「これはこれは、ご挨拶を・・・。ま、それは世を欺(あざむ)く仮の姿さ。ところで君の名前は?」

答えたくなんてなかったが、無視するわけにもいかなさそうだから、仕方なく小声で言った。

「アントニーナ」
「へえ~、なんてキュートな名前なんだ。じゃあアントニーナ、君の前では違う顔を見せてあげるから。ね!楽しみにしてて」

バチッとウィンクすると、つむじ風のように行ってしまった。


毎度ながらキザなヤツ。
「楽しみにしてて」、だって?
楽しみなわけないじゃないか、バカヤロー


心の中でそう叫び、アンソニーは学院の外へ出た。



するとどうだろう、前方からアルバート出現!
しかもアードレー当主として正装している。

うわっ、今度は叔父さん?しかもフォーマルスーツで。
じゃあ、アルバートとしてじゃなく、ウィリアムとして仕事中かな?


ボーっとそんなことを考えているうち、気がつくと目の前に叔父が立っていた。

「君、良かったらアードレー家の養女にならないか?」

出し抜けにきわどいセリフと満面の笑顔。
アンソニーは呆れて返答も出来ない。

おいおい、キャンディはどうすんだよ。
まさか養女を解くなんて言い出さないだろうね?


「そんなことを急におっしゃられても困りますわ。第一、アードレー家がどんな家柄かも知らないのに」
「おっと、これは失礼。確かにそうだ。イギリス人の君にはわからないだろうが、シカゴじゃ指折りの富豪さ」

イギリス人って決め付けるなよ~
僕は今、ロシア貴族の令嬢ってことになってるんだから。


「嘘だと思うなら、これをあげよう。うちの財力を納得してもらえるはずだ」

そう言いながら、アルバートは一歩下がって控えている黒髪の男に、顎(あご)で合図した。

「ジョルジュ、このご令嬢にその包みを」
「は、はあ・・・しかしこれはキャンディス様に差し上げるものでは?」

いいぞ、ジョルジュ~、思いっきりたしなめてやれよ。
鼻の下を伸ばしたこのオヤジをさ!


アンソニーの願いも空しく、アルバートは険しい顔で「いいんだよ、さっさとよこせ!」と包みをふんだくった。
「あ、ウィリアム様・・・」
ジョルジュは泣きそうだった。

「良かったらこれを着てくれたまえ。娘のために作ったパーティードレスだが、かまわんよ、君に差し上げよう」
「で、でも・・・そんな大切なもの。いただけませんわ」

アンソニーは一応しおらしい顔をして見せた。

「遠慮はいらない。この私がいいと言ってるんだ。アードレー家総帥のこの私が。それにね、君、この程度のドレスを作ることなんかわけないのさ。娘には我慢してもらうことにするよ。どうせ今まで腐るほどあてがってあるんだ。だから受け取ってくれたまえ」
「は、はあ・・・」
「君が着たほうが似合う。娘よりずっと美人だからね」

殺し文句と同時に、ぞわっとするようなウィンクが発射された。

う、うわ~。勘弁してくれ。
叔父さんってば、しっかりしろよ!
そんな色目を使っていいのか、この僕に。
キャンディはどうすんだよ~~




断るに断れず、叔父からのプレゼントを仕方なく受け取り、アンソニーは寮へ帰ろうとした。
そしてふと立ち止まった。

待てよ、男子寮には帰れないぞ。
この格好のまんまで行ったら、また男たちに囲まれて騒ぎになる。
かといって行くあてはないし。
ちきしょー
パーディーが始まるまで、そこらへんをぶらぶら歩くか。


アンソニーは仕方なく街をうろついて時間を潰した。




そして夜がやってきた。
アルバートからの戦利品が、思わぬところで威力を発揮することになろうとは・・・
男子寮の裏庭にある物置でこっそり着替えると、アンソニーは足早にパーディー会場へ向かった。



ダンスホールへ入ると、もう沢山の生徒が集まっていた。
どこへ行っていいものやら困り果てていると、真っ先に声をかけてくれた少女が・・・
キャンディだった。

「ねえ、アントニーナっていったわよね?良かったら私たちと一緒にどう?いとこのアーチーとステアを紹介するわ」

「それには及ばないよ、キャンディ。もう僕らは知ってるから。彼女のこと」
ステアが嬉しそうに言う。

「あら、もう知り合いだったのね。どこで?」
「今朝、男子クラスでちょっと・・・」
アーチーが含みのある笑いを浮かべると、キャンディは「男子クラス?まさか~。女の子のアントニーナが行けるわけないじゃない」と目を丸くした。

「まあまあ、詳しいことはいいじゃないか。それよりアントニーナ、お腹すいてない?」
ステアがかいがいしく世話を焼く。
「大丈夫よ。気にしないで」
アンソニーはにっこり微笑んだ。

「そのドレス、すごく奇麗だね。瞳の色とそっくりなサファイアブルー。君にピッタリだよ」
早速ドレスを評価したのはアーチー。さすがだ。
色がたまたまサファイアブルーだったなんて、偶然の一致にしては出来すぎてる。
アンソニーはおかしくなってふふっと笑った。

その微笑が気になったのか、アーチーは少しばかり心配顔で聞いてきた。
「誰の見立て?」
「はぁ?」
「このドレスを選んで君にプレゼントしたのは誰?」

そんなこと言われてたって困るよ~
さっき叔父さんから強制的に贈られたなんて言えないじゃないか。


「えっと・・・大切な人からの贈り物」
しばしの沈黙が流れたあと、そう言って適当にごまかした。

「大切な人・・・」
アーチーの顔が見る見る曇る。
次の瞬間、とんでもない爆弾発言が飛び出した。

「じゃあ今夜は僕がなってあげるよ、君の大切な人に。今夜だけならいいだろ?初めて見たときから好きだったんだ。どうか僕のパートナーになって欲しい」

「こいつ、狂ったか・・・」
隣で傍観していた兄は呆れ果ててつぶやく。
「お前だけがそんなこと言うなんてずるいぞ。それなら僕だって彼女が好きだ。今朝会ったときからな。今度という今度は譲らない。いつも影で見守ってるだけだったけど、アントニーナは別だ。僕にだって告白する権利はある!」
躍起になって我を失う兄。

「うるさいぞ!兄貴にはパティがいるじゃないか」
「それを言うならお前にだってアニーがいる」
「そんなの、この際どうでもいいんだよ」
「じゃあ僕だって同じことだ」
「いや、兄貴は違う」
「どこがどう違うんだよ」

見苦しい兄弟げんかが始まった。
女性の取り合いで二人が露骨に割れたことはなかったので、アンソニーは死ぬほど驚いた。
普段はすごく仲がいいステアとアーチーなのに。

キャンディを取り合ってた頃でさえ、紳士協定を結んだじゃないか
フェアでいこうって。


もっと驚いたのはキャンディだ。
自分をさておき、二人ともアントニーナに夢中になっている。
面白くない。
今までは常に一番モテモテだったのに・・・

何よ、ステアもアーチーも
さっきからアントニーナ、アントニーナって。
忘れてない?私が・・・キャンディ様がここにいるのよ!
頭に来たから他の男の子と踊ってやる!

「ステアにアーチー、私、ちょっと向こうにいる男子とお話してくるわ」
あてつけに言い放った。

「キャンディ、ごめんよ。僕らと踊ろう」・・・すぐにそう言ってくれるのを本当は期待していたのだ。

ところが・・・

「ああそう?どうぞ、どうぞ。存分に楽しんできてよ。ごゆっくり~」
二人揃ってそう言ったので、思いっきりコケた。



キャンディが行ってしまうのを待っていたかのように、満を持して「ある男」が現れた。
テリィだ。
しかも正装。
きちんと身なりを整えて、彼が公の場に現れるなんて、まさに青天の霹靂(へきれき)なのだ。
よっぽど気合いが入っているのだろう。
だが、どうやらお目当てはキャンディではないらしい。

「アントニーナ、こんなバカ兄弟ほっといて俺と踊ろう」
「へ?」
「ほら!昼間裏庭で会ったとき約束しただろ?」

約束なんてしてねーよ

アンソニーはげんなりしたが、テリィはしつこく食いついてくる。

「俺は今夜、誰にも見せたことがない本当の顔を、君にだけ見せてあげたいんだ」

耳元でささやかれたから、背筋がゾクッとした。

「誰にも見せたことがない顔?」
「ああ」

まさか狼男にでも変身するんじゃあるまいな(^^ゞ

「どんな顔かしら。なんだか怖いわ」
引きつった笑いでお茶を濁す。


そのとき、テリィの肩をむんずとつかむ手が・・・
アーチーが怖い顔で威嚇してきた。

「おい!バカ兄弟とは何だよ。そっちこそキザ貴族のどら息子じゃないか。大体ね~、君には恋人がいるだろう。アントニーナは僕に任せて、さっさとエスコートしろよ、キャンディを」

にじり寄るアーチーを押しのけ、テリィは鼻息を荒くした。

「都合のいいときだけ恋人にしないでくれよな、キャンディを」
「違うって言うのか?」
「勿論!彼女はアンソニーの女だ。俺には関係ない

ちょっと待ったー!
それは初耳だぞ~
そんなにあっさり認めるんなら、今までのもめ事はなんだったんだ。
「キャンディは絶対渡さない」って踏ん張ってたのは、どこのどいつだ。
彼女は
アンソニーの女だって?
はっきりそう言ったな?
男に二言はないな?
ちきしょう、録音しときゃ良かった




今度は背中から薄気味悪い猫なで声が・・・
恐怖のイライザだ!

「テリィ~、そんなわけのわからない新参者を相手にするのはおよしなさいよ」
その皮肉がアントニーナに向けられているのはすぐにわかった。
「それにステアとアーチーもひどいじゃない?恋人をほったらかしてそんな子に夢中になるなんて、ねえ」

イライザが後ろを振り返ると、影からぬーっと出てきたのはアニーとパティ。

「う、うわっ!」
驚いたコーンウェル兄弟は大声を出した。

「ひどいわ、アーチー、私というものがありながら!」
「そうよそうよ。ステアもどうかしてるわ。そんな子を追い掛け回すなんて」

ちょ、ちょっと待ってくれよ~
みんなして僕一人を責めるのか?
僕だって好き好んでこんな格好してるんじゃない。気色悪い!
文句あるなら、「妖しい魔法」をかけたヤツに言ってよ。


アニーもパティも泣き出した。
最悪の展開だ。
男は女の子の涙に弱い。滅法弱い。
こうなった以上、放っておくわけにはいかないだろう。
ナンパはあきらめて、アーチーもステアも仕方なく彼女たちの手を取った。

「ごめんよ、お詫びにこれからエスコートするからさ」
苦笑しながら声をそろえる兄弟に、アニーもパティもやっと微笑んでくれた。
「それなら許してあげる」
嬉しそうに腕を絡めると、半ば強引に男たちを引っ張って行ってしまった。