本日十月十三日、『舞台FUTABA え?JKが10万人を救う?』の初日公演を見てきました。

場所は渋谷。久々に訪れた渋谷は、わたしが知っている渋谷とあまりにも違っていて、しばらく意味もなく馬鹿デカい歩道橋をうろうろし、気づけばかつての職場の近くまで行ってしまいました。

変な汗が出た。

劇場までの道のりで迷うというのはいつものことなのですが、今回は時間がギリギリだったので大変に焦りました。

間に合って良かった!!!

 

というわけで、ここから感想です。

今回はあまり忖度せず、感じたことをそのまま書こうと思います。

ネタバレがありますので、これから観劇しようと思う方はその点ご注意下さいませ。

 

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《あらすじ》

女優を目指す女子高生、金城ふたばは落ち込んでいた。高校の演劇部では気に入らない演目をやらされ、学外で受けるオーディションにも落ち続ける。何をやってもうまく行かない日々に腐って落ち込む毎日だ。

そんな時、同じ演劇部に所属する親友のりりかが「秘密の場所」に連れて行ってくれた。そこは日本の女優第一号である川上貞奴が生前暮らしていた「双葉館」だった。

ふたばを元気づけようと連れてきてくれたりりかだったが、そんなりりかとふたばは大げんかしてしまう。互いに今まで言いたかったこと、言おうとも思っていなかったことを言い合い二人は喧嘩別れになってしまう。どうしようもない気持ちになったふたばは、双葉館の象徴とも言える螺旋階段で伝説の女優川上貞奴になりきり大見得を切る。するとその時、不思議な力が動き出し、ふたばは過去へと飛ばされてしまう。

気がつくと目の前にいたのは、この館の主である福澤桃介と、川上貞奴だった。

 

ふたばは人生の師とも言える貞奴や、双葉館を訪れる名士たち、女中仲間との交流を通し、自分が本当にしたかったことを見つめ直してく。

そして迫り来る関東大震災。

未来を知っているのはふたばだけ。

果たしてふたばは10万人を救えるのか。それとも・・・。

 

というような内容でした。

 

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これから感想を書きますが、いつもよりちょい辛口ですので、ご注意を。

 

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簡単に言うと、今流行りの歴史改変タイムリープものと「千と千尋の神隠し」を足して二で割ったような内容です。過去の歴史をうっすらと知っている程度の女子高生が、スマホで現代と繋がることが出来るというチートを使って、関東大震災の被害を最小限に抑える為に奮闘するという話。

「よくある話」と「知っている話」を足して二で割っているので、特にストーリーに真新しさを感じることはありませんでした。

そしてこの「ふたば」という主人公の女子高生。清潔感があり可愛らしい女優さんが演じているのでそれはとっても素敵だと思ったのですが、キャラクター造形自体はあまりにも定型すぎると感じました。端的に言えば、驚くほど無知で他者に対し失礼すぎる。いくらフィクションのキャラクターといえど、ここまで戯画化された登場人物だとストーリーとそれを受け取る自身の心との間に、隙間風が吹きまくってしまいます(少なくともわたしが知っている「最近の若い子」は、もっと賢く、礼儀正しいです)。

そして肝心の「ふたばがしたこと」といえば、スマホと親友の力というチートで過去の偉人達に関東大震災が起こることを伝え、あとはその偉人達になんとかしてもらう。それだけ。タイトルにもなっている「JKが10万人を救う」とは、未来から過去へ情報を伝達をするだけなのか、と驚きました。

そして物語の肝であるはずの「女優であること」や「演じることへの情熱」が、ストーリーの根幹に関わることがほとんどないことにも肩透かしを食らった気分になりました。確かにふたばは貞奴から演じることの楽しさや情熱、自由に夢を追いかけることの出来る「現代という時代」の幸福を教わるのですが、それが「関東大震災の被害を減らすこと」に一切繋がらない。唯一繋がる点は、貞奴の復帰公演が関東大震災当日に予定されていたという点だけ。

この女子高生が女優志望でも作家志望でもなんでも、このストーリーは描けたのではないかと思わずにはいられませんでした。

 

このように、ストーリーを構成する要素の一つ一つが繋がる事なくただの点の集合として存在している。そのせいで要素が多いストーリーとしか思えないというのが正直な感想でした。

 

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ストーリーに関して言えば、正直に言ってあまり面白いものではなかったように思います。

しかし途中で席を立たなかったのは、演じている役者さん達の演技が素晴らしかったからです。

 

川上貞奴の、ピンと伸びた背筋。可憐なお辞儀にみられるような、優雅な立ち居振る舞い。稽古中の張りのある声。若い女優の卵達に注がれる母性に満ちた瞳。一つの時代を作った人間の偉大さが滲み出ていて、ついつい目を奪われました。

 

金城ふたばの、まるで美しい獣のような若さと奔放さ。彼女の可愛らしさがあるからこそ、失礼さがギリギリで嫌味にならずチャーミングに見えて、とても微笑ましく思えました。

 

若い女中さん達の姿勢の美しさと、心に秘めた葛藤。その青さが懐かしく、愛おしく感じて。

 

ふたばの親友のりりかも、気の強さと生真面目さと心根の優しさが表情から伝わってきて、とても素晴らしいと感じました。

 

そして福澤桃介。このキャラクターに対して特に強く感じたのは慈しみの感情でした。貞奴に対する、恋愛というよりむしろ崇敬に近い情。それをふとした視線や、ちょっとした動きで感じさせるのが素晴らしかったです。彼女を守る為に怒りを爆発させるシーンにも、貞奴の気持ちを守りたいという保護者的な愛情を強く感じました。堅さと柔らかさを併せ持つ大人の男性であり、自分を守ってくれる理想的なパートナー像。桃介にはそのような印象を強く持ちました。

 

台詞やストーリーに基づいて演じているはずなのに、それ以外の、それ以上の表現を見せつける役者さん達は、本当に凄いと思います。目線、呼吸、体の緊張、表情や声色、歩くスピードや歩幅、背中の丸まり具合。分解できっこない全ての表現で、この世界に存在しない人間を舞台の上に出現させる、それが役者さん。

その素晴らしさを改めて実感させられる時間でした。

 

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今回は忖度なく、感じたことを想ったまま書きました。

なので読んでいて不快になる方もいたかと思います。

しかしいち観客として真剣に観て、真剣に考えて書きました。

観劇も、もしかしたら最後になるかもしれないので。最後くらいファンとしてではなくただの観客としての感想を。と、思いまして。

 

長々と失礼いたしました。

それでは、また。