
「 かぶとむし 僕らの記憶の名勝負 」
夏休みになると
田舎の祖父母の家に いとこたちと集まり、
庭の林で 捕まえた かぶとむしの雄同士に
相撲を させていた。
あの日の歓声が、耳朶に残っている。
とてつもなく 楽しい夏休み。
わくわくした僕らの夏休み。
祖父母の家に 蚊帳を張り、
いつまでも 布団の上で
笑いころげた。
翌朝、闘いに敗れたかぶとむしが
死んでいた。
僕らは、皆で 泣いた。
お母さんが言った。
死んだものは、かりとられて
また、種まきの時期に 蒔かれ、
ふたたび、芽を出すのだと。
ああ、この かぶとむしも
ふたたび、死ぬる生きるを
繰り返し、その先で また
僕らと 出会うかも知れない。
お母さんの話を聞いて
なぜか 安心して
皆で 林の中へ行き、
死んだかぶとむしの亡骸を
葬り、手を合わせた。
記憶の中の僕らは、
今でも 虫取り網をもって、
冒険している。
忘れられない 夏休みの記憶。
忘れられない 繰り返す命を
知った あの夏休み。