けさ、仕事に出かけるとき、
いつも通りに 君に
「行ってくるね」と 言って
玄関を出た。
君は、いつも通りに
悲しそうな顔で、眉毛を下げた。

いつものように、通勤バスに乗り、
窓側に座る。
今日は、右側の席が
空いていた。
バスが、ゆっくりと進んでゆく。
窓から、ありすの部屋が見えた。
あっ! と、息をのんだ。
ありすの部屋の窓に、
赤茶色のキャバリア犬が、
眉毛を下げて、私のほうを
見ていたのだ。

ああ、ありす❗❗
君は ずっと、ずっと、
私を見送ってくれていたんだね。
私は、7年間も、
そのことに 気がつかなかった。
なんて、無慈悲なんだろうね、
君の相棒は。

けれどもね、
聞こえたんだ。
聞こえたんだ。
今日、初めてだけど、
君の馬鹿な相棒に、
君の「いってらっしゃい」という声が。
ああ、ありす。
私は、君の姿に
君の 私を見送る姿に
この7年間の私の馬鹿さ加減を
殴りたいほどだ。
そして、私は
バスの中で、嗚咽した。
ああ、ありす。
許してください。
この、君の馬鹿な相棒を。
私は、今日の君の
いってらっしゃいの声と
君の眉毛は下げた見送りの顔を
一生、忘れない。

「ママ、いってらっしゃい 」