『本当に恐い話…。』
ある若者グループ五人がシンガポールミステリーツアーに参加していた。
『訳ありホテル』と、条件付きではあったが、若者達はむしろハプニングでもあったほうが楽しいくらいの余裕があった。
まずホテルにチェックインするときにフロントでこう言われた。
『本日は当ホテル最上階300階のスイートルーム3004号室をご用意しております。なお、本日の午後11:00より、エレベーターの定期点検がございます。翌朝8:00迄はご利用になれませんので、必ず11時までにはお部屋にお戻り下さい。』
――― なるほど、そういうことか。
確かにエレベーターが止まるとゆう日にわざわざ高層階に泊まりたがる客も少ないだろう。
万が一の時を考えると恐い気もするが。
しかし、若者達は不安とは逆に、普段泊まることの出来ないスイートと聞いて、舞い上がっていた。
まだお昼だったので若者達は街に遊びに行くため、いったん荷物をフロントに預けた。
観光をしたり、ショッピングをしたり、カジノに行ったり…と、
遊びに夢中になっていた若者達はすっかり時間のことなど忘れてしまっていた。
気が付いたときにはすでに深夜12時をまわっていた。
今ならまだ間に合うだろうか…
少しの期待を胸にホテルへ戻ったがやはりエレベーターは止まっていた。
フロントにはすでに誰もおらず、「cloose」の文字。
フロントの電話で番号を鳴らし、ホテルマンを呼んだ。
ようやく鍵を受け取とった。
「3004」と書かれた鍵。
そう、最上階のスイートルームまで行く道のりはただ一つ…。
階段のみ・・・
若者達はしかたなく階段で最上階まで昇ることにした。
これはかなり長期戦になりそうだな、そういってみんなロビーの自動販売機で缶ジュースを買い、 一服してから、『よし!我々のスイートに行ってやろじゃないか!』と、出発した。
ロビーで朝まで寝てもよかったが、若者達はせっかくのスイートが、と少々意地になっていた。
階段も本当はもっと明るいのだろうが、時間はすでに深夜1時を回っていたので、
普段の半分くらい、いやもう少し暗かったかもしれない。
はじめは『さすがミステリーツアーだなぁ!』と余裕の表情もこぼれていたが、
いくらのぼっても景色も変わらず、疲労だけが増していった。
やっと前半の100階に付いた時点で、体力もほぼ限界を迎えていた。
こんなに辛いと思わなかったなぁ。ここまで来たんだ、もう昇るしかないよ!
互いに励まし合い、また昇り始めた。
「あと残り100階だ!」やっとの思いで200階までは何とか来れた。
が、しかし、すでに皆、足はガクガク、疲労から目も開いているのか、閉じているのか…
精神的にも限界だった。
そうだ、ここからは一階上がるたびに交替で何か一つ、怖い話をして行こう!
と、一人が言いだした。四人も賛成した。五人は、一つ階を上がる毎に踊り場で怖い話を順々にしていった。
静かな薄暗い空間に響きわたる男たちの低い声…。
そこからは階段を上がる、とゆうより怖い話を楽しむ、という行為に変わっていた。
そんなに時間はかからなかった。
そして気が付けば、そう、やっと辿り着いたのだ!
300階に。
怖い話も100話目になる。
さぁ!最後だ!とびっきりのヤツで締めてくれよ!!
順番が回ってきた男は、いつもの調子で怪談話を始めようとしたが一瞬、
…何かに気付き、言葉を失った。
一気に血の気が引いた。
吐き気までした。
まわりのみんなもその変化に気付いた。
この世の物とは思えない表情をしていたのだ。
そして、青ざめた顔で、ゆっくりと、こう言い始めた…。
『いいか、…誰も何も言わずに黙って…聞いてくれ。100も怖い話が出たが
…俺が今から言う話は…、…冗談でも何でも無い……。
昔から怪談100話といって‥‥怖い話を100回すると‥‥本当に呪われて…
あの世へ連れて行かれてしまう…とかゆうのがあるが…
いまからする話は……それどころじゃない…』
あまりにそれまで冗談混じりに怖い話をしていた友人が急に何かに取り付かれたかのように顔色を変え言葉をつまらせながら話し始めたので、
一人の男が我慢できずにこう言った。「前置きはいいから早く言えよ!」
『いいか、……本当にびびるんじゃないぞ……。』
生唾をゴクッと飲み込み、男は口を開いた…
『………一階に……、………鍵を忘れた……。』
おしまい。
