もう1冊、最近読んだ本のご紹介を。
原田マハ 著
徳間文庫
原田マハさんの作品です。
描くものによって、
社会派だったり、軽いラブコメだったり、印象が変わる作家さんだなと思っているのですが、
今回の作品は、そのどちらもの良いところを合わせたような、
切れ味のある社会派でありながら、軽妙なテンポでどこか明るく進んでいく、そんな感じで楽しく読ませていただきました。
とにかく、テーマは重いのです。
こんな重いテーマをさくさく読ませるのはマハさんのポップなラブコメ感があってこそ。
いじめがきっかけで引きこもりとなってしまった青年が、母親にも見捨てられ、絶望のギリギリのところで
幼少期に可愛がってもらった祖母を思い出し、会いに行くのですが、
その祖母は認知症になっていて…
いきなりそんな風にヘビーに始まるこのお話。
引きこもりの主人公は、
携帯依存で、お母さんを大事にしなくて、自分のことしか考えない、正直カッコ悪い奴です。
でも、なんでそうなってしまったのか、
そこを読むともう辛いですね。
彼は認知症の祖母を助けるため、
祖母のやっていた「米作り」を代わりにやることになります。
田舎の自然の中で、
周囲の人に助けられ、成長していく姿には、
とても胸が震えます。
どんなに傷ついても、人はちゃんと立ち直れるんだなぁって思います。
都会で生きていくことに悩み、傷ついた若者たちが他にも登場しますが、
現代を生きる人々が抱える課題を、
これでもかと描くのは、
それでもわたしたちが生きていかなくちゃいけないから、
そして、生きるって本当は素晴らしいことなんだよ、っていうことを
伝えようとしてくださっているような気がしました。
蓼科を舞台とするこの作品。
表紙の絵は、作中にもキーポイントとなって出てくる、東山魁夷の名画。
キュレーターの原田マハさんらしいしかけですね。
素晴らしい本だと思いました。
ぜひ読んでみてください。