​台湾は南の島

 冬の台湾へ行った。


 「今は雨季で寒波が来ている」と聞いて北海道で過ごすような完全防備の服装で行くと、Tシャツにパーカー程度で過ごせるほど暖かい。


 台湾は沖縄より南にある島なので北海道よりかはそりゃダンゼン暖かく、海外旅行へ出るというのに地図すら見ていなかったことに気がついた。







  

​いざ九份へ

 用事が済み、千と千尋の神隠しのロケ地と聞いてなんとなく憧れていた九份へ。九份は日本語では「キュウフン」と読むけれど地元の人は「ジャウフェン」と発音するっぽい。


 バスに乗っていざ九份へ!と思ったらバスで後ろから女性に声をかけられた。いや、正確には携帯の画面のGoogle翻訳を見せられた。


『どこからきましたか?』

「Japan!」

 と言うと彼女は微笑んで

『どこへ行きますか?』

 と聞かれて自分も翻訳を立ち上げて

『九份へ行きます』

 と返す。

『1人できたの?』

『そうです』

 二人組の彼女達もそこへ行くらしく、一緒に行きませんか?と聞かれ「行く!」と元気に返事をして一緒に九份をめぐることとなった。ちょっとだけ詐欺とかじゃないといいなと思ったけれど、それを後で恥じることとなる。






 

​ホステルであたふた

 バスを降りて私がホステルに荷物を置きたいと言うと彼女達はついてきてくれた。赤い提灯の並ぶ道を行くと強い雨が降り出して靴がすっかり濡れた。ホステルに着き、店主と電話をしていると私の英語が下手なせいでほとんど意味が通じず慌てていると、彼女たちは電話を代わって台湾語で通話をしてチェックインを手助けしてくれてた。


雨の九份



​はじめはご飯へ行きましょう


 無事チェックインを済ませると、彼女達は待ち合わせがあるからと「張記伝統魚丸」という魚のすり身団子のスープ屋へ私を連れて行き、そこで男女のカップルと合流した。話を聞くと、恋人達が喫茶店の店主で女性二人組はその店の常連客らしかった。喫茶店で出会い、仲を深め、四人で出かける仲のようだ。(そういうのあこがれる!)彼らのほとんどは英語が分からず、私はほとんど台湾の言葉がわからず下手な英語で話し、少しチグハグだけれど、和やかな雰囲気が漂っていて素晴らしい気持ちだった。スコールのような雨が降っていて濡れて寒かったので暖かいものが胃に染みた。食べ終えてお金を払おうとすると首を横に振られ、ご馳走になった。騙されてないかしらと思ってごめんなさい!!!

 

「張記伝統魚丸」


​・魚の団子スープ
・青梗菜の油炒め
・鶏肉の冷菜


​次はデザートよ!

 「次はデザートよ!」と言われるがまま、また赤い提灯が並ぶ階段をてくてく五人で登っていく。細い曲がりくねった道に心細くなる頃、急に大きな窓のある空間へ出た。


    「阿柑姨芋圓」の店内

 そこは「阿柑姨芋圓」という芋の団子屋さんだった。団子のぜんざいのようなものをお盆に乗せて喫茶店の男性からどうぞと渡される。プラスチックのレンゲですくってみると緑や赤の豆とタピオカ、いろんな色の芋もちが入っていて全体的にふよふよとした食感。優しい味だった。ここでもまたご馳走に。






 

「阿柑姨芋圓」


​・芋圓熱飲綜合


​小心!(シャオシン)

 芋団子屋さんのスコールで霞む崖間際の風景はなかなか壮観だった。芋団子を食べ終えると最後はお茶ね、と言ってまた五人で歩き出す。変わった階段の前で「シャオシン」と常連客の女性が言い、私は「写真!」と思い写真を撮った。


「小心(シャオシン)」

 その後、階段を登る時や、段差がある場所で「シャオシン、シャオシン」と言われて写真を撮っていた。そして帰る頃にシャオシンは「小心」で「気をつけて」の意味だと気がついた。フォルダには沢山の「気おつけて」ポイントが残されていた。


 滑りやすい雨水が川のように流れる階段や坂道を伝って歩いて行く。途中、小さな滝があったり、九份を見渡す展望スペースがあった。






​最後はお茶ね!

  喫茶店に着き、中へ入るとまた眺望のよい窓がある。雨に霞む崖は山水画のようだ。ハーブティーのお店らしかった。名前の書かれた小瓶に茶葉が詰められたものを試しに嗅ぐことができた。


海風という名前のブレンドティー

 ごぼうや蜜柑の皮が入ったお茶を頼み、話し始める。1人は傍で切り絵を作りながら話をしていておしゃれに見えた。

『あなたは私の娘ぐらいに見えるわ』

 と言われ、子供が1人で旅行しているから心配されていたのでは?と気づく。1人でも平気なのよと思ったけれど、ホステルのチェックインに戸惑っていたので平気ではなかった。

 鈴カステラにカスタードが入った菓子が出され、食べるととんでもなくおいしい。とろっとろだ。上には固めで甘さが控えめなクリームが盛られていた。目を輝かせて食べていたためか

『若い人は食べるのが仕事よ、もっと食べなさい』

 と言われる。恐縮していると

「ぶーかーちぃ」

 といわれた。首を傾げると

『気にしないで』

 と見せてくれる。


 その後、少しだけ中国語を教わった。


「是(とぅえ)」は「はい」

「小心(シャオシン)」は「気をつけて」

「不用担心(ぶーかーちぃ)」は「気にしないで」

 

 カップルが営む喫茶店がどうやら近い駅にあるらしかった。板橋という町だ。私は今日は九份に滞在するので帰りがけに寄れることを伝えると、明日の2時に喫茶店を開けるから、また明日会いましょうと約束をした。

 

 ティーポットのお湯がなくなると店員さんがお湯を足してくれた。窓が曇っているのを利用して店員さんが輪模様を描いていたり、猫がわがものがおでお客の上着に潜り込んでいて素敵だった。席を立ち、お金を払おうとするとまたも断られる。まごまごしていたら、『私たちが日本に来た時ご馳走してちょうだい!』と彼女は言う。『来る時は必ず連絡してくださいね』と言い、私たちは連絡先を交換した。


 残念ながらお店の名前を控え損ねたけれど、ぜひまた行きたい。


 

喫茶店
・「海風の思い出」というハーブティー
・卵ケーキ
・ベーグル




また明日!

『貴女がホステルに帰れるか心配だわ』

 と言われ、「大丈夫!」と答えるもわたわたしている間に送っていただいた。人生で一番親切にされたと思うけれど、彼らは全然気にしていない様子で神々しく感じた。なんだか普段言葉の言い回しで優しくできるように考えあぐねてギスギスしがちな自分が馬鹿みたいに思える。言葉なんてうまく通じなくっても優しくなりたければただ優しい気持ちがあればいいらしかった。ものすごく安かったホステルのカプセルホテル的な寝室に横たわると、シーツはシワなくまっすぐ引かれていて、それすら感動的に思えて泣けた。