ゴールデンウィークに入って長い冬から本格的な春、新緑の5月を迎える
前日の夕方一本の電話が入る。 一年前の真冬、娘婿の葬儀の時に
僕らが行くと、隣の自宅から杖をついて話しをしに来ていたお婆ちゃんが
息を引き取ったという知らせでした。 すぐに搬送準備を済ませて出発。
自宅も指定病院も隣接市で、移動する30分車中でお婆ちゃんの話や
その時の葬儀の話になった。 過去あんしんサポート施行葬儀の中でも
強く記憶に残っている葬儀のひとつです・・・
来社してくれた長男夫婦から依頼され自宅に伺うと弟2人と母親の5人
が待っていてくれ部屋に案内されました。1階は1間だけでワンルームマン
ションのように台所も全て見えて、トイレは部屋から扉1枚で入れますが、
初めての僕らではトイレを借りるのは無理、って思えます。
(変った作りだなぁ)と思っていると長男が言います。「ここ元々は倉庫だっ
たのを改装して住んでて台所も丸見えなんです。 父親が事業に失敗
して自己破産したからなんですけどね」と言う。
(なるほどぉ、そんな理由があったのかと納得した頃) 軽く挨拶をし小さ
なテーブルを囲んで座ると、お茶を出してくれたお母さんが言います。
「昨日来た葬儀屋さんは、斎場で葬儀する時、受付の人間を二人も
無料で用意してくれると言っていました」それを聞いた僕は訳が分からず
「はぁ?なんの話しですか? まだ何も決まってないのに受付の事なんて
ずっと先の話しですよ」 そう言って母親の顔を見ると少しムッとした表情
に変ったようです。「ところで、僕を呼んだのは、その受付の話しではない
ですよね?」 母親はさらにムッとした顔をしました。
受付の人間を無料提供するかどうか、などという土俵に上がる気の無い
僕に対し長男がくちを開きます。 母親は1〇〇万円あるから、それで出
来る限りの葬儀をしてあげたいと言い昨日来た葬儀屋も、それが供養に
なって良いと言ったらしいのですが、父親は葬儀なんて要らない、火葬で
良いと言ってた人らしく、子供達は火葬だけでも良いのではと主張をして
互いの意見が合わず、意見調整する数日を過ごしているのだと言う。
この数日は仕事が終わると毎晩、葬儀討論会だと言うのです。やはり、
昨日感じた違和感は間違えてないと確信できたのでくちを開きます。
「ある程度の話しは分りましたが、根本的な部分に間違いがあるような
気がするので少し僕の話しを聞いて貰って良いですか?」と話し始めた。
「確かお父さんの余命は最長で3週間ですよね? だとしたら、葬儀の
打ち合わせは確かに大事だけど、もっともっと大切な事があるでしょ?
そっちを優先して残った時間で打ち合わせすれば良いだけじゃないの?
良いですか? あと最長でも3週間経ったら、お父さんとは話しだって出
来ないし、声だって聞けなくなるんですよ。 だから今、みんなが第一に
考えることは、少しでもお父さんと一緒に過ごす事じゃないの?
お母さんは明日、家中にある写真やアルバムを全部を持って病院に行
って、お父さんと過ごした全ての時間をさかのぼって一枚、一枚の写真を
振り返ること。 子供達は仕事が終わったら ほんの少ししか時間が無く
てもできるだけ病室に行って、お父さんの子供として時には男同士として
話しをすること。 出来れば新たな思い出を作ることだよ。
みんなは看病とでも思っているようだけど、もう看病の時期は過ぎちゃった
んだよ。 だから食いたい物があれば食わせる。 行きたい所があるら、
医師の許可を無理矢理とってでも家族全員で連れて行く。 その結果
連れ出した途中で死んだとしても、父の望みを叶えようとした自分達の
心に後悔なんてないはずだよ。 父親が逝った時、自分達一人一人の
心の中に後悔ではなく、達成感や満足感が残せる大切な最大3週間、
それが今じゃないの? 違う? それ以外の時間を使って葬儀の相談
なんてすれば良いんじゃないの?」 そう語る僕の目からは涙が溢れ、
その話しを聞く家族全員、先ほどまではムッとしていたお母さんでさえ、
目を真っ赤にして涙ぐんでいます。更に話しは続きます。 「お母さんは、
今ある全財産百万円を使って出来る限りの葬儀をしたいと言いました。
気持はよーくわかりますが、自分が病気になる可能性はゼロですか?
予想外の出費は絶対に無いと言い切れますか? 葬儀のあとで、お母
さんが病気になったら、お金が無くて医者にも行けないのを、あの世から
お父さんが見たらどう思いますか? そこまでして豪華な葬儀をして欲し
いって、お父さんは言いますか? ねっ・・・だから無理はしちゃ駄目なん
ですよ。葬儀で無理をした結果、残った家族の生活全てが悲惨になる
事だってあるからなんです。 それと先ほどお父さんが自己破産されたって
言いましたが、豪華な葬儀を債権者の人達が見たら、どう思うでしょう?
自己破産後、お父さんはできる範囲で返済をしていたって言ってましたが
それは無くなった自分の信用を取り戻す為でもあり、あとに残る奥さんや
息子達の為ではないでしょうか? その努力が無駄にはなりませんか?
そしてお父さん本人の意に添わないようだし、火葬だけにせよ。家族での
葬儀にせよ。この部屋での葬儀を大前提に、考えたらどうですか?
とりあえず全てを白紙に戻して組み立てるくらいの時間は、充分にありま
すから全く問題はないですよ。 いかがですか?」
初めて会った家族でしたが、この家族に今必要な事だと思ってした発言
、、それは僕の中にある本音の言葉でした。・・・つづく
【今回のブログは著書『一銭も要らないお葬式』から一部抜粋しています
次回は『娘を襲った原因不明の病が治ったのがきっかけの信仰心』
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