委託型募集人について、週刊ダイヤモンド(2014.1.11号)「金融庁の豹変で保険業界激震 迫られる代理店運営の見直し」でも取り上げられました。
興味のある方は、書店でお買い求めになってはいかがでしょうか。

以下、引用いたします。
デイリーダイヤモンドのウエブ版でもご覧になれます。

http://dw.diamond.ne.jp



金融庁の豹変で保険業界激震
迫られる代理店運営の見直し

長らくグレーゾーンながらも認められてきたと思われた委託型募集人。
ところが年末、金融庁は豹変し、保険業法違反たと断じた。1月には保険会社に対して報告徴求命令を出し、実態把握に乗り出す。

昨年12月25日、世間がクリスマス気分に浮かれる中、保険業界にとっては、悪夢のような“クリスマスプレゼント”が金融庁から贈られた。

この日午前、生命保険協会の幹部が当局に呼び出されたのをはじめ、午後には損害保険協会、日本損害保険代理業協会、外国損害保険協会の業界3団体に加え、大手保険代理店で構成される保険代理店協議会の幹部たちが、金融庁に相次いで足を運んだ。そこで驚きの通告を受けたのだ。

「1月中には、保険業法128条に基づく報告徴求命令を出しますので」。

まさに青天のへきれきだった。
詳細は後述するが、長らくグレーゾーンでありながらも、事実上認められてきた「委託型募集人(委任型募集人ともいう)」に関して、保険業界を震撼させた保険金不払い問題以降初めてとなる、報告徴求命令を出すことが最後通告されたのだ。

実は業界は当局が厳しい姿勢で臨むことを想定はしていたが、「ここまで厳しい判断を下すとは想定外だった」(生保協会幹部)と、驚きを隠さない。

これが業界に大混乱を引き起こしていることは想像に難くない。

当局は、委託型募集人が保険業法違反であることを“明言”したことで、保険会社だけでなく急拡大してきた保険ショップに代表される乗り合い代理店をはじめ、損保代理店のあり方を抜本的に見直さなければならなくなるからだ。

各社は年の瀬が押し迫る中で、当局対応の資料作りに追われた。
そして、実態を報告した後、一定期間を経ても業法違反の状況であれば、保険会社はただでは済まされまい。



保険会社が
把握していない
代理店の実態

では、その委託型募集人の問題とは何か。
募集人という名の通り、保険の営業マンの一形態だ。
具体的には、雇用契約ではなく、委任契約によって保険販売を行う代理店の使用人のことだ。
雇用形態は通常の雇用とは異なり成果報酬型の賃金体系を採っており、出社義務は代理店によってさまざまで、社会保険に加入していないことが多い。

この仕組みは、元は損保の委託型使用人(損保の場合は使用人)で、生保の乗り合い代理店が損保の仕組みを準用し、拡大してきた(「損保制度を生保代理店が準用
グレーゾーン拡大解釈の歴史」コラム参照)。

例えば、保険ショップ最大手のほけんの窓口は、子会社のライフプラザパートナーズに委託型募集人を約1600人抱えている。
同社が所属する団体、保険代理店協議会だけでも約6000人の委託型募集人が在籍しているという。

損保代理店に所属する委託型使用人を含めれば、「総勢5万~6万人に上る」(大手代理店幹部)といわれるだけに、生保の営業職員に次ぐ一大勢力を成している。

その委託型募集人が保険業法違反であると判断されたポイントは大きく二つある。

一つ目は、募集行為を行えるだけの「教育・指導・管理」を代理店が行っているかという点だ。
現実には、代理店によっては委託型募集人の出社義務が週1回のところもあれば、月1回30分や、半年に1回の代理店まである。
このようなバラバラの勤務体系で、正しい管理が行えるわけがないと当局はみているのだ。

二つ目が「再委託の禁止」への抵触だ。
保険業法では、保険会社から販売委託を受けた代理店が、代理店の役員や使用人以外に対して保険の販売を再委託することを禁じている。
一つ目に通じるが、再委託では募集人に対する管理が行き届かず、不適切な保険販売を行う可能性があり得るためだ。

確かに、現状を鑑みれば、業界側の分か悪い。
代理店を管理すべき保険会社が、「これらの実態をまったく把握していない」(代理店幹部)だけでなく、保険会社は売り上げを伸ばしたいがために、高額な販売手数料を支払って、代理店の急激な拡大に拍車をかけてきた。
商品やコンプライアンス教育などが徹底されていない営業マンも多数存在する。

こうした実態が横行するのに業を煮やした当局が、メスを入れたわけだが、十数年にわたって委託型募集人が存続してきたのも事実。
また、2005年には、当局幹部が代理店幹部に対し、「雇用関係がなくても勤務、教育、管理の実態があれば委託型募集人を認める」といった旨の発言を行っている。

昨年行われた金融審議会(首相の諮問機関)でこの問題が議論された際にも、座長の洲崎博史・京都大学大学院法学研究料教授は、「いったん広がってしまったものを、突然監督のやり方を変えることはしにくい」と発言しているほどだ。

それでも当局は豹変し、過去の経緯を一刀両断。
雇用か派遣、出向など管理が行き屈く雇用関係を求めることとした。



影に透ける
生保ガリバー
日生の存在

これが及ぼす影響は甚大だ。
損保と生保でやや違うが、損保については委託型使用人が保険会社と個別に代理店委託契約を結ばねばならず、かつてのように膨大な教の代理店が誕生することになる。
事務手続きだけでも膨大で、すでに損保の現場は大パニックだ。

生保についても、代理店側にとっては大幅なコストアップとなるのは必至だ。
雇用にすれば、これまで支払っていなかった社会保険料の負担や教育、管理などにも多額のコストがかかる。
そのため、『保代協に所属する委託型募集人約6000人のうち、約2000人の雇用が維持できなくなるだろう」(関係者)という。

こう見ると、当局の鉄槌の影に別の姿も透けて見える。
生保のガリバー、日本生命保険の存在だ。

言うまでもなく日生の主力販売チャネルは営業職員。
つまり、同じ訪問販売型の委託型募集人とは、真っ向からぶつかり合う関係にある。
さらに、日生など大手生保の営業職員が、勤務実態が緩やかな上、複数社の商品を取り扱える乗り合い代理店に転籍する動きまであるという。

しかも、大手生保4社で構成される各種委員会のうち保険募集に関する業務企画部会は現在、日生が取り仕切っている。
故に、目の上のたんこぶである委託型募集人に対して強硬姿勢を取りやすい。

日生の思惑はさておき、法律に従い、雇用などに切り替われば、保険販売にまつわる問題がすべて解決するのかというと、事はそう単純ではない。
大手生保の営業職員にも不祥事はあるからだ。

それでも、さいは投げられた。
わが世の春を謳歌してきた乗り合い代理店にとって、厳しい一手となる。
だが、代理店を襲う荒波はこれだけにとどまらない。

今年は保険業法の改正案が通常国会で審議され、比較可能な商品の全容を明示した上で、推奨理由を説明するなど複数の業法改正が行われる予定だ。
この改正はまさに、急速に拡大してきた来店型保険ショップにメスが入ることになる。
委託型募集人に続く法改正により、“代理店バブル”がはじけることは間違いない。
本誌・藤田章夫



[コラム]損保制度を生保代理店が準用
グレーゾーン拡大解釈の歴史

委託型募集人は損保代理店の委託型使用人に端を発しており、その歴史的背景を抜きには語れない。

話は1996年にまでさかのぽる。56年ぶりに保険業法が改正され、これまで業界横並びだった保険業界に、規制緩和や自由化による競争の促進、生損保の相互参入が解禁された年のことである。

当時、損保各社はトップライン競争に明け暮れ、代理店網を拡大し、過去最高の約62万店にまで代理店が増えていた。
だが、業法改正により、保険商品と料率が自由化され、ローコストオペレーションが経営課題となった。
そこで、効率の悪い小規模代理店を規模の大きな代理店に集約しようとした。

集約化を進めるための“アメ”が、「規模が大きくなればなるほど手数料率がアップする手数料ポイント制度だった」(大手損保幹部)。
ただし、集約するには小規模代理店の店主は大規模代理店と雇用契約を結び、使用人にならねばならないという規定があった。

小規模代理店とはいえ店主は一国一城のあるじ。
よその代理店の使用人にはなりたくない。
そこで規制緩和を要望し、2000年に雇用関係がなくても「勤務」をすれば認められることになった。
これが、今まで通り、自宅で勤務しながら保険を販売できる制度、委託型使用人の誕生の経緯だ。

もっとも、これは保険業法で禁じられている「再委託の禁止」に抵触する。
保険業法では、保険会社から販売委託を受けた代理店が、代理店の役員や使用人以外に対して保険の販売を再委託することを禁じているからだ。

だが損保の状況を鑑み、「委託型使用人による保険販売はきちんとした勤務実態があれば、再委託ではないとの法解釈がなされた」(同)のである。

さらにもう一点、注目すべきは、生保と損保が子会社を通じ、相互参入できるようになったことだ。
ここで問題になったのが、損保の子会社生保、いわゆる損保系生保の取り扱いだった。

実は、保険業法では生保の募集人は所属する生保の保険しか取り扱えない「1社専属制」が基本なのだ。
なぜなら、複数の生保商品を取り扱うと、手数料目当てに無駄に保険を乗り換えさせるインセンティブが働いてしまうからだ。
そのため、すでにアフラックなど生保商品を取り扱っている損保代理店は、損保の子会社生保の商品を取り扱うことができない。

そこで認められたのが、使用人が複数いれば複数生保の商品を取り扱える「複数使用人特例」や、損保の子会社生保の商品に限り取り扱える「クロス特例」といわれる1社専属制の特例だった。

こういった特例を設けることで保険業法を回避し、損保業界の実態に合わせるべく委託型使用人や、乗り合い代理店が誕生したのだ。
それら特例を準用するかたちで生保の乗り合い代理店が取り入れ、今日に至っている。それがグレーゾーンと呼ばれるゆえんなのだ。



週刊ダイヤモンド 2014.01.11