「病院からの電話」を初めから読む下矢印

 

 

 

 

 

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「今回は、お母様の経過についてお電話しました。今お時間大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

 

私は主治医にそう答えながら、メモを取るための紙とペンを用意した。できる限り父に正確な情報を伝えたかったからだ。

 

「まず、お母様ですが意識は戻られています。くも膜下出血で倒れられたことも、ぼんやりと理解してくださっているようです」

 

”意識が戻っている”と聞いて、身体の力が少し抜けた。「意識が戻るかわからない」と聞いていたからこそ、本当に嬉しかった。

 

「ただ、”不穏”の症状がかなり強く出てらっしゃるかな…と感じます。なんとなくご理解いただけると思いますが」

 

病院に運ばれた後の母は、かなり大声を上げて暴れていた。同行していた私なら、その感じを理解していると思ったのだろう。私は「はい」と小さく答えた。

 

「かなり暴れていらっしゃるので、事前に説明したとおり身体を抑えています」

 

主治医はそう続けると、脳の機能が著しく低下している可能性があることを私に告げた。あとは、脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)が起こらないよう、治療を続けていくとのことだった。

 

「よろしくお願いします」と言うと、電話は切られた。意識は戻っているけど、脳機能が低下している。良いことと悪いことを同時に告げられたような気分だった。

 

 

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