6月4日(土)。
歌舞伎座「六月大歌舞伎」第1部の所作事「時鳥花有里」を幕見し、その後、第2部を観ました。

第2部は、興行後半に1階で観る予定なんですが、早く観たいな……と思い(笑)、前日にチケットWeb松竹を見たんです。
そうしたら、3階A席の通路側が空いていたので、速攻ゲットしたのでした。

せっかく第2部を観るならと思い、その前に第1部の切の所作事「時鳥花有里」を幕見しました。

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■時鳥花有里(ほととぎすはなあるさと)

「義経千本桜」の通しは過去に何度も観ましたが、この所作事を観るのは初めて。

「義経千本桜」の歌舞伎での初演が延享5(1748)年で、この所作事の初演は寛政6(1794)年なので、後になって付け足されたものということになりますかね。
その後再演されたことがあるのかどうかわかりませんが……。

まだ筋書を買っていないので上演記録を見ていませんが、ひょっとして、松竹が歌舞伎興行をやるようになってからは初めてだったりするんでしょうか……。
いくら何でもそれはないかな……。

いずれにしても、長い期間上演されていないので、今回がいわゆる「復活上演」的な感じでしょうか。

この曲、もとは常磐津の曲ですが、今回の上演にあたっては長唄になっています。

傀儡師がお面を使い分けて踊るくだりがあるので、常磐津が合っているような気がするんですが、長唄だと華やかな感じになって、これはこれでいいなと思いました。

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この所作事、ワタシ的にはとても面白いと思いました!

都落ちした義経(梅玉さん)が鷲の尾三郎(東蔵さん)とともに大和の国を目指して旅をしているところから始まります。
自分の境遇を嘆く義経と、義経を励ますように過去の戦物語をする三郎。

二人が歩を進めていくと、白拍子(魁春さん、笑三郎さん、春猿さん)と傀儡師(染五郎さん)の一行が現れ、義経主従の前で舞を披露します。

白拍子の艶やかな舞の後、傀儡師が、義経・静御前・弁慶の面を使い分けながら、義経と静御前の別れの場面を踊って見せます。
続いて傀儡師は知盛の面をつけ、大物浦の様子を踊ります。

傀儡師の舞を見ているうちにただならぬものを感じ、おまえの正体は何だと傀儡師に詰め寄る義経主従。

傀儡師はぶっ返って正体を現しますが、その正体は何と、龍田明神の使いだったのです。

先ほどまでの白拍子たちも、天冠をのせて長絹を着た女神の姿となって現れ、義経を守護する御幣を渡し、「川連法眼のところへ行きなさい」という龍田明神からの御託宣を告げます。

義経主従は神に感謝し、吉野を目指して行く……というところで幕。

全体的に変化に富んだ構成で、舞台面も華やかで、いいと思いました。
傀儡師がお面を使い分けて踊るくだりも、チョボクレが入ったりしていて楽しいです。

前の幕「大物浦」が悲劇的な結末なので、この所作事が入って「神様の御加護があってメデタシメデタシ」的な感じで第1部が終わるというのもいい感じです。

欲を言えば、染五郎さんの踊りがもうちょっと良くなるといいかなと思います(笑)。

全体的にきっちりしていて悪くなかったんですが、義経・静・弁慶のお面を使って踊るくだりで、全然踊り分けができてなかった……。
そこイチバン大事なところでしょって感じですが(笑)。

あと、ぶっ返って見得を切ったところも、何か小さく見えたというか……。

まあ、ロビーで待っている間にスピーカーから聞こえてきた「大物浦」の知盛が(声を聞く限り)あまりにもヒドかったので、それに比べたらよくできてたほうだと思います(笑)。

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第2部は「木の実」「小金吾討死」「すし屋」の上演。

いがみの権太を演じるのは幸四郎さん。
幸四郎さんがいがみの権太を演じるのは、久々なんじゃないでしょうか。

ここ最近、いがみの権太がまるで仁左衛門さんの専売特許みたいになっていたので(たまに菊五郎さんも演じていましたが)、幸四郎さんのを観られるのはとても嬉しいです。

幸四郎さんが権太を演じるので、弥助実は維盛を染五郎さん、弥左衛門を錦吾さん、若葉の内侍を高麗蔵さんというのは当然の配役ですが、権太女房小せんを秀太郎さん、弥左衛門女房おくらを右之助さんが固めているのが、手堅い配役でいいなと思いました。

あと、お里に猿之助さんを持ってきたところに、今回の配役の妙を感じます!(笑)
あと、彦三郎さんが梶原役で出ておられたのもすごく良かった!

こういう、普段はあまりないような配役で、でも、ちゃんと適材適所で固められた配役って、とてもいいと思います。

普段はたいてい、劇団とか一門とか姻戚関係(笑)とかで固められた配役になってしまうので……。
そういうしがらみにとらわれず、ちゃんと芝居のことを考えて人材が起用されているのが、素晴らしいと思います。

観る側にしたって、「またこのメンバーか」というような配役より、意外性のある(だけど手堅い)配役のほうが、ワクワクしますもん。

そして、そういう配役の中でちゃんと舞台をまとめ上げられる幸四郎さんの懐の深さを感じます。
弟には真似できないトコロかもなー(笑)。

■木の実・小金吾討死

ここは何と言っても、秀太郎さんの小せんが素晴らしすぎますね(笑)。

茶店の中から出て来た時の、空気がぱあっと華やかになる感じが、とても印象的でした。

秀太郎さんの小せんは、とても可愛いらしくて、でも正義感の強さとか、かつて茶屋奉公していた色気のようなものがちゃんとにじみ出ていて、本当にハマっていると思います。

小せんをやらせたら、この人の右に出る人はいない……というか、秀太郎さん以外の小せんは考えられないといった感じですね(笑)。

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幸四郎さんの権太は、ワルカッコイイ感じがよく出ていて、さすがだと思いました。

ワルの権太が子どもに甘い顔を見せるところも、仁左衛門さんみたいにやり過ぎない感じなのが良かったです(笑)。
ワルカッコ良さを保ちつつ、子どもへの優しさがちゃんとにじみ出ている感じというか……。
仁左衛門さんの場合だと、単なる良きパパに見えちゃうんで(笑)。

ただ……。

最初、出て来て茶店の床几に腰掛けて煙草に火を点ける時点ですでにワルそうな雰囲気満載なので(笑)、小金吾たちに親切ごかしをする場面でハナっから「コイツ絶対何か企んでる」と観客に思わせてしまうというか、ちょっと底割れし過ぎちゃっている感じがしてしまったかな……。

仁左衛門さんのだと、最初はいかにもイイヒトみたいな雰囲気で近づくので、そのほうが、後の展開に意外性というか面白みが出るのかなあ……と思いました。

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小金吾を演じるのは松也さんですが、ぶっちゃけ、立ち回りが全然イケてなかった……。

カタチがどうとか動きがどうとか、それ以前の根本的な問題。

捕手から追われて必死で闘っている場面なのに、のんびり嬉々として立ち回りをやっているように見えちゃったんですよね。

捕手に囲まれた緊迫感が伝わらないから、どんなにカタチをキメてもカッコ良く見えないし、心に響かない。

そりゃ、歌舞伎の立ち回りは様式美が大事だけれど、その場面の雰囲気をちゃんと出しながら、かつ様式美を出すのが歌舞伎ってもんだと思うんですけど……。

前回「小金吾討死」が上演された時、たしか小金吾を梅枝さんが演じていたと思うんですが、梅枝さんのは、緊迫感とか、主君を守れなかった悔しさ・悲しさみたいなものがよく伝わって来て、泣きそうになったんですけどね。
もちろん、カタチも動きもキレイだったし。

梅枝さんと比べちゃいけないのかもしれませんが、こういう大きな役をやるからには、もうちょっとどうにかなってほしいところです。

■すし屋

幕開き、猿之助さんのお里がかいがいしく働いて、右之助さんのおくらがそれをにこやかに見ている場面の空気感が何だかとても良くて、それだけで気分がアガりました。

そこは猿之助さんの芝居が取り立てて良かったわけではないので(笑)、ひとえに右之助さんが良かったんだと思います。
右之助さんが演じる、こういう母親の役、すごく情感があって好きです。

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お里と弥助(実は維盛)のやり取りの場面は、悪くはなかったんですが、お里にイマイチ可愛げがなかったかな……。
まあ、猿之助さんに可愛気を求めるのは難しいか(笑)。

あ、でも、「お月さんも寝てじゃげな」のあたりはカワイかったかも。
「かも」って何だよって感じですが、観ていて1カ所「カワイイな」と思ったところがあったんですが、どこだったかイマイチよく覚えてないんです(笑)。
たぶん、そこらへんだったかなということで(笑)。

もうちょっと日が経って慣れてきたら、全体的にもっとカワイくなってくるのかもしれない……と、とりあえず期待しておくことにします(笑)。

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幸四郎さんの権太は、すごくカッコ良かったです!

前半、おくらにお金の無心をしている場面も、コミカルな感じとか愛嬌がちゃんと出ているのに、カッコ良く見えるのがスゴイと思いました。

まだ興行前半で体力があるからか、動きも全体的にキレがあって良かったですし。

「すし屋」の権太は、ワタシ的には、仁左衛門さんより、菊五郎さんより、幸四郎さんのがイチバン好きかもしれません。
すし桶を持って見得を切るところも、すごくカッコ良かった。

若葉の内侍と若君の身代わりに小せんと息子を引き渡す場面も、緊迫感の中に悲しさがにじみ出ていて、泣けました。
秀太郎さんが小せんを演じると、この場面もちゃんとご自分でなさるので、情感が増す感じがします。

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幕見の後、第2部の開場まで時間をつぶそうと思い、歌舞伎座裏の喫茶店に行ったら、歩道の脇の紫陽花が見頃を迎えていました。

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