ある父の話。

その父は地方の田舎で育って、今や48歳団塊世代の父です。
父は、団塊の世代の中でも最先端をいっていて、当時欧米から入ってきたジャズクラブでイベントを仕切って社交ダンスで女性と戯れ、車ではアルファロメオ、バイクではハーレー、サックスからスピーカーは自分で作り、自ら建築士になり自分の家まで設計する少年心をいつまでも持って、不器用ながらもこだわりをもった本物がわかる父でした。

そんな父に育てられた自分は、父に対して、もちろん感謝してるし、男として尊敬も無意識をうちにしながら大学生になりました。

大学生で地方の田舎から東京に出てくると、遊びに夢中で父とも連絡を取らなくなったある日、
父から東京に遊びに行くから、時間のあく夜に東京を案内してこれぞ東京っていう飯を案内しろ
と言われました。

面倒くさいなと正直思いながらも、育ててくれた父だから、しょうがなく自分の知ってる限られた東京で
夕飯だけ一緒にするかと思ったんです。

でも、やっぱり面倒くさいから、結局、アパートの近くの全国各地に展開しているラーメンチェーン店「天○一品」に連れていって適当にその場を凌ぐことにしました。店に入ってドロドロのスープの醤油ラーメンを注文して、何を話すわけでもなく麺をすすってた時に、父はそれとなしに一言口にしたんです。

「俺は、この48年間生きてきて、日本全国のラーメンを食べつくしてきたが、
ここのラーメンが一番うまいな。」

その1年後、このラーメンチェーン店は父の住んでる家の近所にも店舗ができました。
でも、それから一言もあそこのラーメンが一番うまいとは聞いたことは一度もありません。

それが不器用な父がそのとき本当にそう思って言ったのか、それとも自分へのやさしさで言ったのか、分からないし、本人に聞いても覚えてないと思うけど、確かなのは、
そんなささいな一言を、未だに忘れないということです。