ある男の話
いらっしゃいませ。
そう言うと、自動ドアから入って来たばかりの男はこちらを見て軽く会釈した。
男は話すことが出来ない。
紙をくれとジェスチャーし、私が傍のプリンターから拝借したA4のコピー用紙を渡すと意気揚々と文字を綴っていく。
彼は右手も不自由なため、左手で書き上げる彼の字は正直読み辛い。
見ることも話すことも出来る私だが、彼との会話は理解するだけで精一杯だ。
「かわいいね。いくつ?」
ふふ、と愛想笑いをし、本日はどういったご用件でしょうかと聞くと、彼は気をそらすように机をとんとん叩き、自分の話を『聞く』ようにと私に促した。
「仕事終わったらご飯食べに行かない?松坂牛が美味しいお店を知ってるんだ。ご馳走するよ」
彼は一気に書き上げると、顔を上げて照れたように微笑んだ。
私は、大変申し訳ございませんが、お客様と一緒に外出するようなことは会社の規程で禁止されておりますので、と出来る限りの申し訳ない顔で頭を下げた。
すると男は一変し、鬼のような形相で紙に向かった。
「なんなんだその態度は!嫌なら嫌だってはっきり言え!障害者を馬鹿にしてんのか!糞が!」
白熱してきたのか彼の字を書く速度はどんどん上がり、急ぎすぎて字が崩れて新しい図形のようだ。
「その高飛車な態度、たいそう良い教育をされてきたんだな!最高責任者を出せ!俺はお客様だぞ!茶も出さないで、障害者差別か!」
「お前も生意気なただの馬鹿だな!なんか言い訳しろよ!殴るぞ!」
私は殴られては困るので、警察を呼んだ。
自動ドアから入って来た警察は、私に障害者差別で逮捕すると言う。
男は今だ汗をかきながら自分が書いた告訴状を手に机をどんどんと叩いて唸っている。
私は両手に手錠をかけられパトカーに乗せられた。
隣の本屋の店長が常連客とひそひそと話しながら私を見ている。
パトカーの中で警察の制服を着た牧師に懺悔する。
私は彼を可哀相に思う。
「ああ楽しかった。次はどこに行こうかな」
窓の外で彼の声が聞こえた。
(フィクションです)
そう言うと、自動ドアから入って来たばかりの男はこちらを見て軽く会釈した。
男は話すことが出来ない。
紙をくれとジェスチャーし、私が傍のプリンターから拝借したA4のコピー用紙を渡すと意気揚々と文字を綴っていく。
彼は右手も不自由なため、左手で書き上げる彼の字は正直読み辛い。
見ることも話すことも出来る私だが、彼との会話は理解するだけで精一杯だ。
「かわいいね。いくつ?」
ふふ、と愛想笑いをし、本日はどういったご用件でしょうかと聞くと、彼は気をそらすように机をとんとん叩き、自分の話を『聞く』ようにと私に促した。
「仕事終わったらご飯食べに行かない?松坂牛が美味しいお店を知ってるんだ。ご馳走するよ」
彼は一気に書き上げると、顔を上げて照れたように微笑んだ。
私は、大変申し訳ございませんが、お客様と一緒に外出するようなことは会社の規程で禁止されておりますので、と出来る限りの申し訳ない顔で頭を下げた。
すると男は一変し、鬼のような形相で紙に向かった。
「なんなんだその態度は!嫌なら嫌だってはっきり言え!障害者を馬鹿にしてんのか!糞が!」
白熱してきたのか彼の字を書く速度はどんどん上がり、急ぎすぎて字が崩れて新しい図形のようだ。
「その高飛車な態度、たいそう良い教育をされてきたんだな!最高責任者を出せ!俺はお客様だぞ!茶も出さないで、障害者差別か!」
「お前も生意気なただの馬鹿だな!なんか言い訳しろよ!殴るぞ!」
私は殴られては困るので、警察を呼んだ。
自動ドアから入って来た警察は、私に障害者差別で逮捕すると言う。
男は今だ汗をかきながら自分が書いた告訴状を手に机をどんどんと叩いて唸っている。
私は両手に手錠をかけられパトカーに乗せられた。
隣の本屋の店長が常連客とひそひそと話しながら私を見ている。
パトカーの中で警察の制服を着た牧師に懺悔する。
私は彼を可哀相に思う。
「ああ楽しかった。次はどこに行こうかな」
窓の外で彼の声が聞こえた。
(フィクションです)