人殺しの話 | merrymoreさんのブログ

人殺しの話

ある女の子を殺した。
多分、男を巡る問題を抱えていたんだと思うが、
その男が誰なのかわからない。
私と彼女はマラソン大会の更衣室で掴み合いの喧嘩になり、
私はそのまま彼女を殺してしまった。

すぐに警察がやってきて、
ああ、と諦めにも似たため息が出た。
殺すところを見られてはいないものの、
私と彼女が2人で話していたところは何人もの人に見られていたし、
状況下から犯人は私しかいないことは明らかだから。
私が疑われるのは当然のことで、そこにはやはり間違いは無い。
棚の影に隠れて警察が私を探している様を見ている。

私はまだマラソン大会の会場にいて、このままここに留まっていてはいけないとこのとき初めて気付く。
人込みに紛れて会場を後にし、学校へ、大型ショッピングセンターへ、山へ、海へ、走る。
マラソン大会に出たかった。
去年より短いコースに出るはずだった。
去年は長くて長くて、とても苦しかったから。

携帯へは警察や母から電話やメールがひっきりなしに入ってくる。
『佐藤さんって人のことで警察が聞きたいことがあるって。今どこにいるの?早く帰ってきなさい』
佐藤、そういえば佐藤って名前だったっけ。
母はどんな気持ちでこのメールを打っているのだろう。
こんな私のことを心配するのは母だけだ。

警察に見られて、走ったが逃げ切れる訳はなく捕まる。
「会場にゼッケンを返しに行かないと」
警察がそう言っていて、問題はそこなのかなと不思議に思う。
私はまだゼッケンを付けたままだった。
マラソン大会に出られたら良かったのに。

これから行くところはどんなところだろう。
きっと独房。
独房ってどんなところだろう。
コンクリートの壁が冷たくて、窓から差し込む月明かりがあって、暗くて寒いところを想像する。
行くのは初めてだからわからない。
刑務所を思い浮かべながら眠った。












(フィクションです)