急に場から去っていった久美。
それを追いかける直輝。

直輝「俺追っかけてくる」
奈美「う、うん」
小走りで自転車に向かい 久美が向かった先へ走った

そのころ さきほど話題に出た「YAMMY」の様子は・・・
定休日の月曜日
厨房でひとりこもっている紗詠。
紗詠「フンフフン♪」
鼻歌を歌いながらクリームを混ぜる
厨房からは軽く外が見えるつくりになっている。
天気予報から流れる声・・・
  「非常に大型の低気圧が日本列島を通りますので、外出などの際にはお気をつけください」
紗詠「雨が降りそうね・・・ 湿度があがっちゃう」
エアコンを除湿モードにする
するとオーブンから焼成完了のブザーが鳴った
紗詠「おっ 焼けた焼けた」
中から出てきたのはケーキのスポンジらしきもの。
切れ端を味見する。
紗詠「私にしては上出来かな♪ さーてっと」
クリームをまたかき混ぜ始める。

どんよりした曇り空の中、自転車で久美が通った。
紗詠「あ、久美だ」
すると後ろを振り返り自転車を止めた
後ろから来たのは直輝だった。

久美「・・・どしたの」
直輝「いや、なんかおかしかったじゃん」
久美「だから・・なんでもないって」
直輝「そんなの嘘だろ」
久美「・・今日はほっといて」
直輝「・・・なんで」
腕をつかむ
久美「一人にして!」
腕を振り払う
直輝「・・久美・・・」
久美「一人に・・して・・・」
自転車にまたがり去っていった
久美(・・なんであたしばっかり・・・)
空からはとうとう雨が降り出した
直輝「・・・久美・・・・」

それを見ていた紗詠
紗詠「・・・なんだ?」
頭に?マーク
何も気づいてない。
紗詠「ってか雨降ってるし! 直輝くん何やってんだろ」
直輝も紗詠には全く気づいてない
しばらく直輝はたたずんでいた。
気にしないことにしてそのままケーキ作りを進めた
5分後・・・
紗詠「・・・まだいるじゃん」
直輝はうつむき、雨に濡れながらガードレールに腰掛けていた
紗詠「さすがにやばいでしょ」
といい外へ出る
紗詠「直輝くん・・・」
直輝「・・・砂藤じゃん」
紗詠「なにしてるの?こんな雨の中」
直輝「・・・ちょっとな」
紗詠「それよりビショビショじゃん・・」
直輝「あぁ・・大丈夫 気にしないで」
紗詠「いや・・あが・・る?」
直輝「へ?」
紗詠「だ、だから!うちでしばらく休んでいきなよって・・・」
直輝「・・・え」
紗詠「いやならいいけど」
目をそらす
直輝「・・・あぁ じゃぁ」
紗詠「今タオル持って来るね」
直輝「う・・うん」
純白のタオルを渡された
直輝「おぉサンキュ」
紗詠「通り雨らしいからしばらくいてもいいよ」
直輝「あぁ・・・うん」
紗詠「あ、そうそう 砂藤じゃなくて 紗詠って呼んで・・ね 苗字で呼ばれるの慣れてないから」
直輝「あ・・・はい」
あまり話さない2人なので話は気まずい感じだ
直輝「・・・さすがケーキ屋だな甘い匂いがぷんぷんする」
紗詠「甘ったるい匂いでしょ あたしはなれたものだけどね」(笑)
直輝「あぁ・・そうなんだ うぅぅ 寒い」
紗詠「さ・・寒い・・の?」
直輝「んー・・寒い」
紗詠「2階なら暖房つけてあるから来る?」
直輝「・・うん」
話の間にいちいち間が開く
階段を上がると居間に出た
紗詠「しばらくゆっくりしてていいよ」
直輝「うん」
  (・・・いい匂い)
ふと左方にある和室に目をやると洗濯物が干してあった
一番手前に紗詠のものらしきピンクの水玉の下着が干してある
即座に目をそらす
直輝(・・・大胆な・・)
紗詠「どうかした?」
直輝「えっ 別に」
紗詠「そう あ、メアド交換してくれる?」
直輝「あ、いいよ」
変にニヤけが治まらない直輝であった
5分ほどテレビを見ていた
突然下から声がした
女の人の声。 
  「ただいまぁー」
紗詠の表情が変わった」
紗詠「まずいっ こっち部屋来て」
誘導されるがままピンクで統一された部屋に押し込まれた
紗詠の部屋だろうか 家具や壁紙もピンク系統である
机の上に洗濯物が積んであった
一番上には下着が。
直輝(・・うっ・・・)
扉の奥から会話が聞こえる
紗詠「あぁ、早かったのね」
  「ちょっと早く終わっちゃってね でもまたすぐ出かけるわよ」
紗詠「そうなの」
声のするほうからおそらく紗詠はドアにもたれかかって話しているのだろう
  「あ、そうそう、紗詠の洗濯物の中に父さんのワイシャツ入れちゃったのよ」
紗詠「あ、あたしがとってくる」
  「紗詠すぐ忘れるでしょ」
といい紗詠をどけて入ってくる
  「・・・あったあった」
といい出て行く
  「じゃあ支度したらまた出かけるわね」
紗詠「う、うん」
紗詠の頭にはまた?マークが浮かぶ
直輝はどこにいったのだろうか
母が出て行ってから部屋を確認しに行った
紗詠「・・直輝くん?」
直輝「ぶっはぁ」
タンスから飛び出てきた
洗濯物にまみれて。
紗詠「・・・あ、頭」
頬を赤らめて頭を指差す
なんと ヘッド オン ブラ
直輝「・・あ、わ、わざとじゃないわざとじゃない」
必死に首を横に振る
紗詠「だ、だ、大丈夫気にしてない」
直輝「ごめんごめん」
紗詠「大丈夫」
優しく微笑む
直輝(・・・)
紗詠「あ、雨止んできたね」
直輝「あぁ そうだね そろそろ帰るわ」
紗詠「うん じゃぁね」
直輝「ありがと」
あたりはすっかり暗くなっていた

あまり知らなかった紗詠の性格。
驚きを隠せない
そして下着・・・
直輝(血圧上がったぜ・・・)
でもでもニヤけが収まらない直輝であった


直輝が出て行ったあと颯汰たちは
颯汰「なんか悪いこと言ったか?」
剣悟を見る
剣悟「えっ!? 俺!?」
奈美も見ている
剣悟「ちょ、ちょっと待った、俺なんかまずいこと言った?」
奈美「な~んてね」(笑)
颯汰「剣悟見かけによらずだまされやすいからおもれーわ」
剣悟「なぬぅ」
奈美「・・あたし思ったんだけどさ」
颯汰「ん?」
奈美「直輝ってさ・・・久美と仲良くない?」
颯汰「・・それは俺も思った」
剣悟「んー たとえばどんなとこが?」
奈美「今日集まったときも、二人で来てたし」
颯汰「あぁ そういや」
奈美「今なんて直輝すぐさま出て行ったじゃん」
剣悟「んー」
颯汰「んん~ わかる気がする」
剣悟「でもなんでもないだろ」
奈美「・・まぁそうだろうけどね」
颯汰「だろうな」
奈美「あ、メールだ 紗詠から 『今度遊ばない?誰か誘っておいて』だって」
颯汰「俺行く」
剣悟「行く」
奈美「りょうかーい」
剣悟「そういえば、あと2ヶ月しないうちに2年も終わりか」
颯汰「そーだなぁ」
奈美「長かったのか短かったのか」
颯汰「俺は絶対に長かったな」
奈美「なんで」
颯汰「だって2年ってたるい」
奈美「わからんでもないけどー」
颯汰「とりあえず 終わってよかった」
奈美「んー このクラスは愉快だったけどね」
颯汰「メンバーは悪くなかったな」
剣悟「俺と颯汰と奈美と久美と直輝と・・・」
奈美「なかなか面白かったね」
颯汰「あと2ヶ月楽しもうぜ」
剣悟「あぁ」
奈美「・・あっ! 雨降ってるじゃん!!」
剣悟「やべっ・・俺帰るわ」
颯汰「おう じゃぁな」
剣悟「440円」
颯汰「おぉ」
剣悟「じゃ」
奈美「またね」
バタン カランカラン・・
剣悟「うわぁー 風も吹いてやがる」


直輝が去った後・・・紗詠は・・・
紗詠「絶対・・・優勝してやるんだから!」
スポンジにクリームを塗り壁のポスターを見る
「中学生お菓子王選手権」
と書かれたポスターだ
紗詠はこの選手権に出場する予定なのだ
3週間前あるテレビ番組で募集された中から予選を勝ち抜いた紗詠。
2ヶ月後本番がある
まだまだ時間はあるので味に磨きをかけている。
紗詠(・・優勝して・・・あの人に食べてもらうんだから・・絶対に)
毎日のように厨房にこもり考え、大人からアイデアをもらい練習に励んだ
予選では優勝候補と言われた正井 幸江(まさい ゆきえ)がまさかの脱落したため
優勝候補は紗詠とささやかれるようになった・・が、全国の強豪はそれほど甘くない
毎日菓子のことを考えている紗詠にとっては、絶対に勝っておきたい勝負なのである。
ちなみに予選を終えたあと、テレビで2次審査、3次審査で絞られた4人で最終決戦が行われる。
審査するのは世界でも有名な三ツ星を獲得しているシェフや、有名ケーキ店の創業者、さらには普通の主婦や、子供。
さまざまな人に合う味を求められることになる。
たくさんの菓子の中から選んだ分野・・・ケーキ。
紗詠の得意分野だけあって予選は大絶賛であった。
そして・・・最高のケーキをある人にプレゼントするというのもひとつの狙い
自分には最高の菓子が作れるという自信は、やがてあの人に食べさせてあげたいという夢へと変わって行った。
ちなみに、学校の友達は紗詠がテレビに出ることは一切知らないでいる。
2ヵ月後の審査が楽しみである
ある人「へっくしょい!! ・・風邪引いたかな」

そして直輝のもとから去った久美は公園で一人傘を差していた。
あたりはすっかり暗い。
久美「・・はぁ なんであたしが・・・」
ケータイを開くと母からのメール
「ご飯は食べた? 宿題をやって早く寝るのよ」
久美の両親は叔父の家に泊まりで出かけていったが久美は遠慮しておいた。
久美(直輝は・・・何もわかってない あたしのこと)
その直後、直輝からメールが来た
「どうしてそんな冷たい態度なの? もし俺が何かしてるなら・・・言ってね」
久美「・・・やっと・・」
・・雨が本降りになってきた
ザーザーという音に加えゴロゴロと雷が鳴り出した。
久美「・・・そろそろ帰るかな・・・」
ゴロゴロ・・・ドーン!!!
久美「きゃっ!」
雷に怯える久美
久美「うぅ・・・」
ビューーーーと風邪が強く吹いた
久美「んん!」
傘が裏返る
雨が久美に打ち付ける
久美「あぁ・・・使いもにならないや・・・」
自転車も倒れた
久美「・・急がないと・・・」
自転車を立ち上げ、乗っていくのは困難と思い引いて行った
家まではそう遠くないが歩いていくにはすこし時間がかかる。
どんどん風が強くなっていく。
傘なしでは雨もしのげない
久美「うぅぅ・・・」
また風が強く吹きつけた
久美「きゃぁっ」
倒れこむ自転車も倒れる
ガシャン!
久美「いったぁーい」
倒れる久美に容赦なく雨と風が叩きつける
久美「・・あー!」
目から涙がこぼれた
叫び声を上げたとき、どこかから声がした
  「・・・ぃー!」
  「・・ぅみー!」
  「・・久美ー!!」
だんだん声は近くなっていった
後ろに見える交差点に現れたのは、直輝だった。
直輝「・・・!久美!!」
直輝は壊れた傘を持っていた。 この風で壊れたのだろう
久美「・・・な・・直輝・・」
直輝「なにやってるんだよこんな雨なのに・・・」
久美「・・直輝・・・・」
直輝「さ、早く立って・・立てる?」
久美「・・直輝・・・・」
直輝「何」
久美「・・なんで来たのよ!」
直輝「来ちゃ悪いか!!!」
久美「・・・」
直輝「好きな人も守れないで何がキックボクサーだよって・・・言っただろ!!」
久美「・・その本人が・・本人があたしの首を絞めてるのよ!!」
直輝は大きなショックを受けた
気がつけば久美は大泣きしていた
久美「・・はっ、いい加減気づけば?」
どんどん感情的になっていく
直輝「なにを・・・」
久美「あたしに中途半端な優しさ見せるから・・・周りは直輝と付き合ってるの?とか聞いてくるの それでも、直輝は「はい」と答えさせてくれないじゃん! 奈美と颯汰を見てると、胸が苦しくなるのよ!! あの2人はいつも仲良く、まわりにも認められてる関係・・でもあたしたちは隠してるじゃん! 意味のない秘密にしばられて何の意味があるの! それひとつであたしがどれだけ苦しんだと思ってるの!!!」
声も枯れ枯れに次々叫んだ久美の言葉は直輝の心にダメージを与えた。
クラスの女子から、紗詠から・・・いろんな人から声をかけられた久美
みんなに話したい気持ちはたくさんある。
でも話したくないっていう直輝の気持ち。
そこですれ違いが生じていた。
直輝「・・・そんな・・」
久美「言ってくれって言ったから言ったまででしょ」
直輝「・・・・」
横を向いて話し始めた
久美「・・ごめん・・・ でもね 直輝には苦しめられたけど・・・まだ・・・」

  「好き」

直輝「久美・・・」
久美「・・・泣いてるの?」
直輝「泣いてない 雨だ・・っ・・っ・・・」
久美は優しく微笑んだ
直輝「・・・ごめん!」
深々と頭を下げた。
久美「・・いいよ」
雷鳴が止んだ
直輝「むやみに話したら・・・なんか・・俺の元からはなれちゃいそうで・・怖くて」
久美「・・・好きだから もういい・・好きだから・・・・」
近くに寄り、そっと抱きしめた・・・。

久美「・・直輝ぃ・・・・」
直輝「・・・大丈夫 今日はもう帰ろう 自転車は俺が引いてってやるから」
久美「でもお母さんとか心配してるでしょ」
直輝「・・いや 飲み会」(笑)
久美「そうなんだ」(笑)
直輝「・・・ごめんな」
久美「・・あ! 折りたたみ傘があった」
直輝「お、よかったじゃん」
小さめの傘に二人が入り雨をしのぎながら家まで歩いていった。