午後6時15分。
事務所から遠く離れた、暗くて寒い外の喫煙所のベンチに…ぽつんとひとり。
いつもよりも早めに休憩をとった。
急に仕事が手につかなくなったから。
5時半の定時を過ぎたときに、今日が最後の出勤となるYサンが挨拶に来た。
定年になる年齢だとは…先日聞かされるまで思いもしなかった。
この事業所が出来たときに、あたしはこの会社に入り、その直後にパートとして同じ部署に入ってきたのがYサンだ。
─あの頃は忙しくても楽しかったね…。
当時はセンター内の異動も多かったので、しばらくして彼女は別の部署の準社員となり、あまり仕事上での関わりはなくなった。
女性が多く(おばさまも多く)、個性派ぞろいのこの事務所内…。みな、気が強い面を持ち合わせているため、正直今までいろんなことがあった。
会社の色んな状況も、人間関係のアレコレも、ずっと共に見てきたのだ。
彼女がいつもそこにいることが当たり前…そういう感覚になっていた。
この所は毎日言葉を交わすようにしていたにもかかわらず、
彼女が涙目であたしの所に挨拶にやって来たときに、突如として寂しさが襲いかかってきた。
忙しい時間帯だったけれど、一気に仕事などどうでも良くなった。
あれこれと話がしたい。
お互いが気持ちのこもった言葉を交わし合い、ぎゅっと手を握り合った。
彼女の手はあたたかかった…と言いたいところだが、あたしの手の方がやけに熱くなっていた。
Y:「アンちゃん、無理しちゃダメよ…?」
ア:「うん!Yサンも体に気をつけて、いつまでも若くいてよね!」
あたしは…まっすぐに彼女の潤んだ目を見て、満面の笑みで彼女を見送った。
あたしは仕事場において、どんなときも人前で涙を流すタイプではないのだ。
それからあたしは仕事に戻り、いつも通りにこなしていたつもりだったけれど…
妙~に大人しくなってしまったあたしに、同じ部署のOサンは気づいてくれたらしく…
O:「いいんじゃなぃ?休憩してきたら?」
優しい笑顔で言ってくれた。
喫煙所でひとり、冷たい空気の中、いつもより明るい夜空を見上げる。
しばらくしてつけ忘れていたタバコに火を点す。
…今日はやけに煙りが目に滲みる。。。
グスン…
程なくして、イケメンさんがやってきた…。
ア:「お疲れ様です!座ります?あっためときましたよ?」
I:「座ってる時間もないんだけどね。でも、じゃ~座ろっかな?」
ア:(もぅ今日はこれ以上に気の利いた言葉はでませんけどね…)
いつものように和やかな会話を楽しみたいと思って来たのかもしれないけど、
申し訳ないことに、今のあたしは…空虚さのみで…会話のネタなんて思い浮かびません。というより会話をする気もありません。
I:「この空間は平和ですよね~?」
ア:「ですよね~」
あたしは何にも考えられなかったので、ただただオウム返し。
沈黙も気にせず、ぼんやり空を見上げ続ける。
やっぱり空虚だ。…静かに鼻をすする。──ココが暗くて良かった。
I:「じゃ、頑張って来ます!」
イケメンさんは走っていった。
ア:(いつもと違くてごめんなさいね…今度挽回しますから…)
二本目のタバコの最後のひと口を吸い込む。
う~ん…
やっぱり今日は、煙りが目に滲みる。。。
深呼吸をして、立ち上がる。
ちょっと休憩しすぎたな…
Oサンが待ってる。事務所に戻ろう。