惚けないご老人と爆睡するあたし | オカマな毎日

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小声で教えてあげる。

仕事で長くお世話になっているご老人に東京のご自宅まで会いに行った。
最近は,たまにメールや電話でやり取りをするくらいで,
実際にお目にかかるのは7,8年ぶりになる。
応接間に通され,対面して話しをしたンだけど,
今年90歳を迎えようという人にはとても見えない元気さだ。
この春まで車の運転もしていたそうで(←おいおいw)驚いた。
話をしてみても,以前と変わらぬ明晰さに,あたしはただただ舌を巻く。
同行した上司には,
「あのように歳をとりたい。秘訣を聞いておけ」と,
帰りの車中,指示された。
趣味は俳句と聞いているので,このあたりにヒントがあるのかもしれない。

このご老人,もとは理系の学者さんなので,
高い教養を身に付けていらっしゃる。
けれど同じ学者さんでも,80を過ぎて身体が弱り,
思考までもが不確かになってしまった人を何人も見てきた。
人が歳をとり,いつしか惚けるのは,
死の恐怖から逃れるための自然なプロセスと,どこかで読んだことがある。

実は先のご老人,被爆者だ。
原爆が炸裂した翌日に学徒動員先から広島入りし,
一週間にわたって,この世の地獄を目の当たりにしている。
生と死が混然とした異常な空間は,
そこに身を置く高校生の心に,少なからぬ影響を与えたはずだ。
もしかすると,生を見切らせ,死の恐怖を超越させてしまったかもしれない。
だったらこのご老人,死ぬまで惚けんわなぁとか,失礼にもほどがあるが,
そんな勝手な想像をめぐらせながらあたし,新幹線で爆睡した。