約束を破った。
もうお互い触れることはないと思ってたのに。
ライブの余興で頭がうなる。
重たいエフェクターケースから解き放たれた自分の体をベッドに投げ出す。
自分のベッドじゃないのは解っていた。
けれども布団を出して敷く程余っている力はない。
嫌ならあいつが布団を出すだろう。
店で呷ったテキーラが今更横たわる軀を駆け巡る。
指先が痺れて自分の意思では思うように動かなかった。
部屋の扉が開いて閉まる音がした。
自分のベッドを奪われたことに対しての文句が頭の上に降ってくる。
うわ言のように、言葉を返す。
正直何を言っているか解らない。
もう脳さえ麻痺している。
朦朧とした俺を醒ましたのは、布団の間に一瞬滑り込んだ冷たい空気だった。
動かないはずの目蓋が持ち上がる。
目の前に、あいつがいる。
しばらく俺らは見詰め合ったままだった。
不意にあいつの腕が俺の耳をかすめた。
そして唇にはやわらかい感触が。
それが一瞬だったのかどうか、テキーラ漬けの脳では判断できなかった。
あいつは含み笑いしながら指を喉元に滑らす。
思わず抱きしめた。
肩甲骨が腕に当たった。
>ちょっと痩せた、な。
>てゆかアルコール臭い。アル中。
そういいながらあいつの舌は俺の唇をなぞる。
>こんなことしたら怒られちゃうね。
>殺されるな。…まず俺が。
再び俺の口は塞がれた。
もう二度と塞がれることのないはずだった唇によって。
そして掟を破った。
テキーラは思考回路を止めた。
二人溶け合うために、それはいらないから。
本当は寂しかったんだ。
あいつがどこか遠くへ行ってしまったような気がして。
でも何も変わっちゃいなかった。
細い体のラインも、やわらかい唇も、罪深い笑顔も。
やっぱり俺らはまたここへ帰ってきてしまうんだ。
1年と8ヶ月。
積み上げてきた懺悔の念が音を立てて崩れていった。