僕の前にだけ現れる笑顔。




なんだ、ちゃんと笑えるじゃん。





しかめっ面の君が砕ける瞬間。


大人ぶった仮面の下から覗く


あどけない子供の笑顔。





10年前と何も変わらない。






大人の殻に閉じこもった君は


僕よりぜんぜん年上に見えて、


輪の中にいても澄まして遠くを見てるだけ。








でも本当はあの頃から何も変わっちゃいないんだ。








僕にだけ現れてくれる子供の君。


あの頃は何もしてやれない子供だった僕も、


今きっと何か君にできるのかな?








いつの間にか回りだした歯車。


僕のと君の時間が紡がれていく。









このまま進んでいいのかな?





僕の


左手には君の手、


右手には大きな夢が。










どっちも握り締めてもいいのかな?








どうやら僕は恋の仕方を忘れてしまったようだ。


約束を破った。


もうお互い触れることはないと思ってたのに。


ライブの余興で頭がうなる。

重たいエフェクターケースから解き放たれた自分の体をベッドに投げ出す。

自分のベッドじゃないのは解っていた。

けれども布団を出して敷く程余っている力はない。


嫌ならあいつが布団を出すだろう。


店で呷ったテキーラが今更横たわる軀を駆け巡る。

指先が痺れて自分の意思では思うように動かなかった。



部屋の扉が開いて閉まる音がした。

自分のベッドを奪われたことに対しての文句が頭の上に降ってくる。

うわ言のように、言葉を返す。

正直何を言っているか解らない。

もう脳さえ麻痺している。



朦朧とした俺を醒ましたのは、布団の間に一瞬滑り込んだ冷たい空気だった。

動かないはずの目蓋が持ち上がる。

目の前に、あいつがいる。

しばらく俺らは見詰め合ったままだった。



不意にあいつの腕が俺の耳をかすめた。

そして唇にはやわらかい感触が。


それが一瞬だったのかどうか、テキーラ漬けの脳では判断できなかった。

あいつは含み笑いしながら指を喉元に滑らす。

思わず抱きしめた。

肩甲骨が腕に当たった。


>ちょっと痩せた、な。


>てゆかアルコール臭い。アル中。


そういいながらあいつの舌は俺の唇をなぞる。


>こんなことしたら怒られちゃうね。


>殺されるな。…まず俺が。





再び俺の口は塞がれた。

もう二度と塞がれることのないはずだった唇によって。


そして掟を破った。

テキーラは思考回路を止めた。

二人溶け合うために、それはいらないから。






本当は寂しかったんだ。


あいつがどこか遠くへ行ってしまったような気がして。


でも何も変わっちゃいなかった。


細い体のラインも、やわらかい唇も、罪深い笑顔も。


やっぱり俺らはまたここへ帰ってきてしまうんだ。


1年と8ヶ月。


積み上げてきた懺悔の念が音を立てて崩れていった。




ベースのボリュームはフル。

いつものごとくバキバキの音掻き鳴らしてる。


それなのに僕の心臓は

いつも以上にバクバク拍動する。


きっと君がマスターボリュームを上げたせい。

君のメロディと僕のリズムの共鳴が

僕の心臓のマスターボリュームを上げていく。


もう何も聴こえない。

君のメロディと僕のリズム以外は。


「雑草は芽が出たうちから潰してしまえ」



素直に向き合えない気持ちなんて

大きくなってしまう前に潰してしまわねば。



1000本振っても斬れないこの気持ち。



たぶん好きなんだろうけど。

素直に「好き」って云えない自分。



水ぶくれができて、潰れた。

でも心はまだくすぶってる。

汗は滴って流れ落ちても

この気持ちは流れ落ちない。



きっと好き。

いや、とっても好き。


あと何回振ればはっきりするんだろう?

出会った始めは受け入れなかった。

だって君はそんなに良い部類に属さない人だったから。


時折君は

僕の中に入ってきてはまた出て行く。


そんなことの繰り返し。

気づけば勝手に心が求めてる。


悪いことだってわかってるんだけど

別に好きなわけではないんだけど

君がいると妙に落ち着く。


吐き出されたけむりはしばらく僕の心に纏わりつき

次第に薄れていく。

消えてしまう前に再び僕に入り込んでくるのが

君の悪い癖だね。


いつかは君とも縁を切るよ。

それがいつだかはわからないけど

未だ切れないのも僕の弱さだってことはわかってる。


僕は弱い人間だから。

僕らをつなぐ細い細い糸は

切れてしまいそうな程張り詰めているのに

今日も君の振動を伝えてくる。


また糸が振動えた。


僕の中心から熱が広がる。

受け入れられないと解っている筈なのに

甘えてダダをこねた。


ほらね、振動えなくなった。


ときたま糸はもう

切れてしまったのかと思う。


何故僕は不安なのだろう?

何故僕は悲しくなるのだろう?


糸なんか始めからなかった。

君と僕は始めから繋がってなんかいなかった。


糸があるなんて確信はない。

ただ君の振動がくるだけ。


一方通行の糸は今日もまた振動える。

たまには僕の涙も伝えてよ。

名前。
それは

相手を束縛する呪文でもある。


君に名前を呼ばれる度に

前へと歩んでいた足が

動かなくなる。


呼び止めないで。

僕の名前を呼ばないで…。


否。


もっと呼んで。

僕の名前を…。



あれから君は何事もなかったかのように

僕の名前を呼び続ける。


その気がないなら

もう僕の名前を呼ばないで。

いっそのこと

僕のことなんか忘れてしまえばいい。


名前を呼ばれる度に

胸が締め付けられ

悲鳴を上げている。


何故?


君の周りにいるのは

僕だけじゃないのに。

今日は雨でよかったよ。
頬が濡れるのはきっと雨のせい。

別々の時間が流れているはずなのに。
それに慣れたはずだったのに。
白い車が通り過ぎる度に鼻の奥が痛くなる。

誰とどこに行ったって関係ないよね。
ここは一方通行。
別の道を今更選んでも前に進むしかないんだ。

すぐそこに見えているのに走っている道は違う。
きっとこの先どんどん離れていつかは見えなくなってしまう。
そうすれば忘れるかな?

走り去ったはずの白い車は今でも未だ
僕の心の中で遠い過去を走っている。

不安で押しつぶされそうになる。

目に見えないものの恐怖。

このままではいけないと思うのに

体が動かない。

いや、なにをすればいいのかわからない。

結果を下されるまであと1ヶ月。

いつのまにか羊は俺になっていた。

こんなにも近くで

一生見ることのできないもの。

もしかしたら存在すら気づかなかったかもしれない。

こんなにも近くで

一生見ることができない。

気づいてしまったら気になってしかたがない。

君は僕が見えているの?

僕を知っているの?

こんなにも近くにいるのに

一生君の気持ちは聞けない。