過去6回に渡ってお伝えしてきましたが、今回はいよいよ「対課題」についてです。

何かを解決するためにも最も重要なのが「そもそも何が課題なのか?」を正しく理解する点です。今回は正しい課題の把握についてご紹介していきたいと思います。

 

  課題って何?

先に「問題」「課題」の違いについて紹介すると、あるべき姿とのGAPが「問題」です。その問題を解決するために具体的に取り組む内容が「課題」となります。問題の中にいくつもの課題があるという理解でよいと思います。

良い課題を定義することが、良い解決先にも繋がります=「正しい問いを行う」という事です。

 

ちなみに、アインシュタインが残したと言われる名言があります。

 

「私は地球を救うために1時間の時間を与えられたとしたら、59分を問題の定義に使い、1分を解決策の策定に使うだろう」

 

問題を解決する以上に、その「問題の定義」、「課題」が何なのかが重要だという事になります。

 

正しい課題を見つける事ができると、正しい問題解決に繋がることはもちろん、解決に取り組む過程でも共通の認識を持ち進める事ができます。また課題を明確にすることで、他の似たような課題に対しても転用する事ができるなどのメリットがあります。

 

それでは次の文章のうち、皆様は何を「課題」だと設定しますか?

 

    

障害の「ある人」と「ない人」を比較すると、前者のほうが平均年収が低いという事がわかっています。障害のある人が職場に占める割合は、肉体労働においては高く、いわゆるホワイトカラーの仕事においては低い事がわかっており、特に製造や業務サポート系の仕事に就ているケースが最も多い事が調査によって明らかになっています。

 

マネージメント、企画など、より高いスキルを必要とする職業には、障害のある労働者が少ないのも事実です。米国労働統計局によれば、仮に学位、職業、業界、労働時間、経験、学歴、年齢、人種、宗教などの条件をすべて均一に調整した場合であても、障害のある人とない人を比べて、9割程度の収入しか得られていないという事が判明しています。

 

この文章ではいろいろな「課題」の設定ができると思います。

 

●企業に対して、障害を持った方の雇用がされていないという課題

●仮に同じ労働をした場合、障害のある、なしに関わらず、支払うべき対価が異なる事が課題

●肉体労働など産業構造全体として平均賃金が低い事が課題

●障害のある方が、マネージメントや企画などの仕事に就けない事が課題

●障害のある方がそもそも、高度な仕事につけないと思っている(であろう)事が課題

●企業側に対して、障がい者の受け入れの努力や、機会の提供ができていない事が課題

●全体で1割しか給料格差がないのであれば、そもそも課題はない

 

この文章だけでも見方を変えれば、さまざまな課題がありますよね。課題は人によって捉え方が異なるという事を理解いただけたと思います。この課題設定が異なれば、もちろんその後、解くべき課題が変わっていきます。

 

逆に全員が同じ認識で「何が課題なのか」を正しく理解することができれば、その後の改善もSpeedyになるという事です。

 

  課題にある見えない制約を見つける

課題を設定する上で1つ重要な要素として、Constraints「制約」があります。制約とは、人や物事に対して何かしら制限をかける事を意味します。ただしこの制約は、意識的にわかる制約もあれば、無意識のうちに制約となっているものもあります。本当にそれが制約なのかどうか、それを正しく理解することが大事です。

 

ここでは、アメリカのサウスウエスト航空が制約を見事に利用した事例についてご紹介します。

 

その昔サウスウエスト航空は、飛行機を1機でも売らなければ、倒産してしまうという事態に陥っていました。このように資源が限られているという「制約」を受けると、多くの人はその制約の犠牲になる決断をする事が多いです。サウスウエスト航空も同様に縮小を受け入れる議論も行いましたが、最終的に全く違う選択をしました。

彼らは、4機ではなく3機でも既存のルートを維持するという目標を達成する方法を見つけました。彼らはこれを、ブルートフォースではなく、制約を受け入れることで実現したのです。

航空機の台数という明らかなリソース制限に注目するのではなく、飛行機の平均的なゲートターンアラウンド時間(着陸してから再び離陸するまでの時間)が約60分であることに気づきました。この間、機体の清掃、整備、給油を行い、食事、荷物、乗客の搭乗を行います。ボトルネックになっている飛行機が、地上に止まっている時間が1分でもあれば、貴重な時間のロスにもなりますよね。

そこでこのゲートターンアラウンドタイムを60分から10分に短縮できれば、飛行機を1機減らしても、今ある既存のすべての路線を飛ぶことができると計算したのです。また、さらに分析を進めると、このゲートターンアラウンド時間の最大の要因は、乗客の搭乗プロセスであることが判明しました。そこで同社は、座席を指定しない抜本的な搭乗手続きを導入し、その結果、飛行機を1機減らしても、すべての路線を維持することに成功したのです。

しかし、そこでも終わりませんでした。皮肉なことに、彼らは自分たちにさらなる制約を課すことによって、ゲートターンアラウンドタイムの最適化を続けました。競合他社は、さまざまな長さのルートを飛ぶために、多様な航空機を搭載しているのに対し、サウスウエスト航空は、単一のタイプの航空機(ボーイング737)だけを使い、短いポイント・ツー・ポイントのルートだけを飛ぶことを方針としたのです。航空機が多様化すると、メンテナンスが複雑になり、ゲートのターンアラウンドタイムが長くなる原因にもなるためこのような制約をあえて設けました。

 

"私たちは、米国で唯一の短距離、低運賃、高頻度、ポイント・ツー・ポイントの航空会社です "と。


いかがでしょうか?

制約があるからこそ、イノベーションが生まれ、そしてさらなる制約を作る事で他社との差別化に成功した事例ですね。

 

課題に対して解決策を考える際にはこの制約が本当に制約かを改めて考えてみましょう!

 

 

  課題定義のプロセス

課題が正しく設定されたところ、次に大事なのがそれを言語化する、定義するステップです。

よくある事ですが、課題が設定された事に満足してそこで終わってしまうという企業も多くはありません。その課題がなぜ必要か、誰のため、求める物は?など、全体を言語化することで次のステップへの認識が合致し、解決策のスピードも向上していきます。

 

1. 取り組む内容の必要性

  • この課題を解決することは、誰かのNeedsがあるのでしょうか?その場合、なぜ必要なのでしょうか?最終的なゴール、求める結果が何なのかを明確にすることで、取り組む内容の必要性が把握できます。

2. 必要性の正当化

  • その課題への取り組みは会社、組織との目標とリンクしているのでしょうか?そもそも取り組むべき課題が戦略に一致していなかったり、一致しているかの結果の測定方法が明確でなければ取り組む事自体が正当化されません。
3. 問題の文脈化
  • ここでは課題に取り組む内容、理由が第三者が見てもわかるような状態にしておく事が重要です。例えば、その取り組み自体、過去に誰かがすでに取り組んだ課題であったらそれを参考にしたりと積み重ねる事ができます。また制約なども見返す事ができるようになるため、文脈にまで落とし込んで言語化する事が大事です。
4. ステートメント
  • 1−3をエビデンスとして残す

以上です。課題が特定できたからといってそこで終わりではありません。たとえ取り組みが失敗に終わったとして、後から見直すことで次の学習する組織へと変わります。だからこそ、課題定義を残す事が重要なのです。

 

  解決策はアナロジー(類推)も有効

解決策については、また別途紹介したいと思いますが、その前にアナロジー、類推を使う方法をご紹介します。類推とは、2つ以上の物事の間にある共通点に着目し、考えている課題に応用する思考法です。

 

例えば、回転寿司の生みの親とされているのが、元禄産業の創業者である故・白石義明さんです。

白石さんは、ビール工場の製造に使われているベルトコンベヤーにヒントを得て回転寿司を開発したといわれています(元禄産業のホームページ参照)。

従来のお寿司屋さんといえば、カウンターとテーブル席(座席)からなり、注文を聞いてから寿司を提供していました。それを、ベルトコンベヤーを使って見込み生産方式で寿司を提供するスタイルに変えたわけです。表面的な同業者の動きだけをみていたら、これほどすごいイノベーションを起こすことはできなかったでしょう。

 

このように類推、アナロジーは、表面的類似ではなく、一見気がつかない遠い先の構造的類似が必要になります。

また、アナロジーには自分の経験則でもあるヒューリスティックや、物の見方のバイアスがかかることも覚えておきましょう。いかに客観的に、そして構造的な共通項をさがすかが、アナロジーのポイントになります。

 

  まとめ

それでは今回のまとめです。今回は課題を正しく設定する方法についてご初回しました。

 

 人により何が課題かの捉え方が異なるため、解くべき問題を明確にし課題設定を行う重要

 

 課題を設定する上で、「制約」を正しく理解する。制約は自社にしかない優位性にもつながる

 

 次の改善に繋げるためにも、課題設定をエビデンスとして残し共通の理解をステークホルダーからえておく

 

 類推、アナロジーでは、構造的な共通項を見つける、ヒューリスティック、バイアスがかかる

 

いかがでしたでしょうか?

 

「課題を設定する」事は容易ではないことが実感できればと思います。いろいろな意見、考えがある中で設定することは難しい事ですが、その課題がそうさせているシステム全体で見る事、企業、組織のパーパス、個人の価値観、そして自分のパワーダイナミクスなどこれまでの要素を利用しながら、正しく課題設定できるように取り組んでいきましょう!!