夕方、交差点で街道を横断するために信号待ちをしていたら、車道の手前側に一羽の鳩がいた。
鳩は片足を怪我しているらしく、背中を丸めて無事なもう一方の足をカサコソいわせながら、片方の羽根を力なく引きずってアスファルトの上を移動しようとしていた。
その真上を、すぐ脇を、自動車が次々と通り過ぎて行く。その風圧で吹き飛ばされそうになるのを、鳩は必死に踏みこたえている。
今にも重くて黒いタイヤに轢き潰されてしまうのではないか。歩道に突っ立って見ているこちらが気が気ではない。一歩踏み出せば手が届きそうな距離なのだが、車がひきもきらず走りすぎて行くのでどうにもできない。
交差点の信号は長くていつも苛立たしい。私はこの数年、信号待ちをしながら、「いつまで待たせるんだ」「とっとと青にしろ」と、声に出して悪態をつくようになった(糞JRの糞中央線で特急通過待ちのために途中駅で足止めを食っているときにもそうだ。とっとと発車しろ)。ここ最近はだんだん声が大きくなってきて、周囲の通行人が振り返って私を見るまでになった。このときも私は口の中でブツブツと糞信号を呪詛していたのだが、鳩の窮状を見ているうちに呪詛は祈りに変わった。
ようやく信号が変わり、車の流れが途絶えた。私は車道上の鳩を救出しようと思ったのだが、近くにいた若い男が一足先に車道に踏み出て、両手で鳩を救い上げ、歩道の片隅の安全な場所に下ろしてやった。私はひとまず安堵し、若い男に向かって何度も頷いた。足も羽根もやられているらしい鳩は、おそらく助かるまい。しかし車にひきならされた無残な姿を晒すのではなく、鳩の姿を保ったままで死んで行ける場所を与えてやれたのは、せめてものことだったと思う。