10月8日、白土三平さんが死去した。このニュースを報じられた10月26日13時ごろから、2018年7月に当ブログでupした記事にアクセスが集中。この日は記録的な閲覧数となった。
 どうやらGoogleで「カムイ外伝 トラウマ」・・・などといったワードを入れて検索にかければ、うちの記事がトップに表示するようなのだ。
 何日かはこの記事への閲覧数が爆上がりし、その後も現在に至るまで地味ながらもアクセスが途切れることなく続いている。

 


 本題へ入る前に少々余談を。
 ちょっと前にみつけた記事で、声優業界の大変さについて書かれてあるのを拝見。声優の仕事は生活していくのがかなり苦しいという話は前々から聞いてはいたが、この記事にはかなりシビアな現実が綴られている。
 そしてつい先日、知り合いであるベテラン声優のAさんとお会いした。Aさんは声優学校の先生も務めている。そこで以下のような会話をしたのです。
 


 ちなみに「私が見た最近のアニメ」というのは、もちろん『鬼滅の刃』のことです(笑)。
 もっと詳しく書いてみる。
 Aさんはコロナ禍で声優学校の仕事も激減していると聞いていた。当然、声優志望の生徒たちは足踏み状態が続いてるであろうし、既にデビューした声優たちの仕事も激減しているらしい。
 ついでに訊いてみる。Aさんが学校でどのような指導をしているのかは知らないが、もともとは役者としての下地がある人である。声優というのは本来、役者が持つ引き出しのひとつであって、声優だけを目指すものではなかった。Aさんも、たまたま声の仕事の依頼が多くて声優と呼ばれるようになった経緯がある。
 だから、Aさんなら私の「不満」にも理解してくれると思ったのだ。上記の「不満」の内容とは、近年、耳にする声優の声に面白みを感じられないというものでありまして。
 案の定、「そうそう」と頷くAさんなのでした。やはり単なるアニメ声と芝居のできる声には違いがあるのだろう。
「海外映画の吹き替えやらせても、むかしの声優は、もとの声がどんなだか知らなくてもビシッと納得させてしまう声をあてられてたの。最近のは似せよう似せようと、そんなのばっかりなんだもん」
 さらにアニメの内容についての不満も話してみた。
「私が『鬼滅~』を観たのは暴力描写が問題視されたからだったんですが、ぜんぜんだったんですよ。私にとって暴力アニメの基準は『カムイ』なので」
「カムイ? ああ、カムイ外伝?」
「そうです、そうです」
「カムイの声やってた人ね、自分で声優学校を作ったんだけど。そこで・・・・・・(書けない情報を聞かされる)」
「(苦笑)あの人、早くに亡くなったんですよね」
「うん。でも、いい声はしてたよね」
 いま調べてみたら、カムイの声やってた人はご存命でした。誰か違う人と勘違いしてたようです。 (^▽^;)
「むかしはヤクザな人も多かったよ。例えば声をあててたらプルプル震えてるんだよね。スタッフに『変な音がする』って指摘されたら「おっ、ちょっと待って」と言って、外で酒飲んでから帰ってくる。そしたら震えがピタッと止まってるの。納●悟●さんもそうだった」
 ははは。納●悟●さんだったらイメージどおりなので、それでいいと思います。 (''◇'')ゞ



 閑話休題。本日は、前の続きをupしてみたい。前回は『忍風カムイ外伝』の序盤、とくに第4話を中心にレビューしたものだった。今回は第5~7話あたりを軽く。
 じつは前回も今回も、私がインターネットを始めるずっと前にレポート用紙へ書いていたものを、ほぼ書き写しただけの記事であります。レポート用紙へ書いてたものは身内に見せていただけのものでしたが、いまはこうして公の場で見ず知らずの方々へ読んでもらってる。当時は考えもしなかったことだなぁ。

 

 

 このアニメは毒だ。人によっては、観てしまったが最後、立ち直れないくらいのトラウマを受けてしまうおそれもあり得るだろう。
『忍風カムイ外伝』には、それほどの破壊力がある。
 古い映画やテレビドラマを観ていると、現在では不適切と思われる表現に出くわすことがあるが(地上波テレビで放送される場合、だいたいカットされる)、この『カムイ外伝』もその部類に入る作品だ。「この映画には放送コードに触れる場面があるよ」と聞けば「どこだろう?」と、その部分を探す。あるいは「このシリーズにはヤバい回があるよ」と聞けば「どの回だ?」と、問題のエピソードをチェックする。
 ・・・そんな不謹慎な楽しみ方(?)もあると思う。筆者自身、「不適切を探せ!」とばかり、むかしの作品を楽しんでいることがあるわけで。
 ところが『カムイ外伝』の場合、ほとんど全話にわたってそれに該当すると思われる表現が盛り込まれている。不適切の宝庫だ。なんて有難いことであろうか。 \(^o^)/



 

 例えば第5話「五ツ」に登場する名張の五ツにまつわるエピソード。カムイと対峙するこの刺客は、未だかつて破られたことのない秘剣を持つという。しかし、その秘密を知る者は誰ひとり存在しない。
 この回の途中で、奇形のカエルが登場する場面がある。筆者は、その時点でこの話のオチを読み、実際そのとおりになるわけだが、それでも現在の作品では絶対にあり得ない持っていき方であり、その凄みは観終わった後になってからジワリジワリと効いてくることを実感するのである。
 本エピソードが生まれつき通常とは異なる身体的特徴を持つ者や、自力ではどうにもならない障害持ちの人たちへの差別問題をテーマとしたものであることは言わずもがなである。もちろん放送コード的には即アウトだ。
 デリケートではあるが大事な題材を扱った回である。広く問題意識を持ってもらうには絶好のエピソード。にもかかわらず、こういうものを現代テレビは「存在しないもの」として葬り去ろうとする。

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 凄いといえば、第7話「常風」にも注目してほしい。人狼に姿を変え、追っ手を撒いたカムイが、チビッコのファンが聞いたら我が耳を疑うような台詞をつぶやく場面がある。
「オレが生きるために、死んでもらわねばならん」
 ビックリである!! こんなヒーローが他にいるのか!? (◎_◎;)
 彼らの闘いには、善と悪との対立という概念はない。すなわち主人公のカムイは一般のヒーローのように世のため人のために命をかけて悪と闘う正義の味方でもなければ、彼を狙う刺客にしろ己の欲望のために手段を選ばぬ悪党だと決まっているとは限らないのである。そしてカムイは、何はさておき自分の身を守ることだけが大事なのだ。ゆえに追っ手との闘いには決して積極的ではない。
 まさに理性よりも本能。人間・・・いや人として、あまりにも正直すぎるその生きざま。そんなカムイの言動は、ヒーローといえば勧善懲悪の世界しか知らない少年層にとってはショッキングなこと極まりないであろう。ヒーローとしてはタブー、言語道断なことをやってくれるのだから。
 さらにこの後、カムイは、こともあろうに子どもを人質にとるという暴挙に出る・・・。
 ドを超えて、凄い! なんと、手段を選ばないのはヒーロー=カムイのほうだった! もう、このへんについては何も言うまい。いやはや、筆者の手には負えぬ・・・・・・。

 



 なお第6話「木耳」にも同様に、追っ手から自分の身を守るため、見ず知らずの娘を危険な目に遭わせてしまう場面がある。

 


 

 そうかと思えば第7話のなかでカムイは、とびきり筆者好みの台詞をぶちまけてくれたのだ。それも親とはぐれ、ひとりぼっちで生きていくよりも死んだほうがいいと駄々をこねる少年を相手に言ってのけるのである。
「人間はいつもひとりだ! 親のために生きるのでもなければ、子どものために生きるものでもない! 自分のために生きるのだ!」
 まるで世間でよく言われる「人はひとりでは生きてゆけない」とは真逆の意を表すことば。だが筆者の場合、後者のそれには、いつも真実味を感じられないでいる。なぜならば、そういう発言をする人の多くは、本気でひとりでゆこうとした経験のある人物とは思えないからだ。もし一度でもそれを試みたことのある者ならば、仮に挫折することがあったとしても、こうした発言は決して口にしないのではないだろうか。少なくとも偉そうに「~生きてゆけない」などと説教ぶるようなことはしない。言えない。
 その点、カムイが口にしたものは自らの実体験によって思い知らされた、彼なりの解答であり哲学である。ゆえに、このことばの響きには重みがある。この場面を深読みすれば、カムイは少年を説き伏せようとしたのではなく、現実逃避に走ろうとする者にひとまずの待ったをかけたにすぎない。それよりも、逆にカムイ自身に向けられた戒めの叫びだったのではないかと思わずにいられないのだ。
 作品中、動物が獲物を襲うイメージカットの挿入が頻繁におこなわれるのは、弱肉強食の厳しさを強調したものであることは言うまでもない。そんな世界に住むカムイが、生き延びるために手段を選ばぬ人物であったところで誰が責められよう。

 


 

 また、この作品では、死体の扱いが極めてドライに描写されている。通常だとヒーローが敵を倒しても、その屍を長々と画面に映し続けたりはしない。そんな余韻を入れたりする作品づくりなんて、ふつうはしない。強いて挙げれば『ウルトラマン』の第35話で、墓場に漂う怪獣たちを憐れむというシーンがあるにはあった。それが『カムイ外伝』では、死体は物体としてしか描かれない。ついさっきまで威勢よく躍動していた人物が、一転して“物”として描かれてしまう。物に、感情移入する余地すら与えない。
 そしてカムイは知っているのだ。彼自身もそれと同様の末路を遂げる宿命にあるということを――。

 

手裏剣以下の動画にはカットされている箇所もあります。